表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛フラグ管理局折衝課 〜成立確率11%の彼女を折りに行くたび、なぜか俺との縁が育っていく〜  作者: よるの 余白
「複数の100%」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
31/43

第三十一話「月末まで、あと十四日」



 翌朝、デスクに着くと鶴田が来た。


「川瀬さんへの通話記録、業務上の接触として処理されました。問題ありません」


「その文面、昨日も見ました」


「はい。記録上も、昨日と同じ処理です」


 鶴田は端末を閉じなかった。いつもなら用件を終えるとすぐ去る。今日は、俺のデスクの横に立ったままだった。


「もう一件、連絡があります。川瀬案件の終了処理期限が、今月末です。月末に処理が出なかった場合、課長への正式報告が義務になります」


「わかっています」


「わかっている、という返答は記録できます。ただ、処理は進んでいません」


「進める理由が、まだありません」


「終わらせない理由は、昨日書いていました」


 俺は顔を上げた。


「見たんですか」


「所見欄は、担当者の任意記録です。通常、保守課は見ません。ただし、異常な接触回数が続く案件は、監査ログに引っかかります」


「異常」


「はい。三十回を超えています」


 三十回を超えている。最初の訪問から数えると、もうそんな数になっていた。数字にされると、急に遠くまで来た気がした。


   ◇


「鶴田さん」


「はい」


「計算が、もうすぐ終わると言っていましたね」


「はい」


「終わったら、何が変わりますか」


 鶴田は少し間を置いた。胸ポケットの機器を、一度だけ見た。自分の心拍を確かめてから答える。それが鶴田の癖だった。重要なことを言う前ほど、その仕草が長い。今日は、長かった。


「変わることと、変わらないことがあります」


「具体的に言えますか」


「今日は言えません。ただ、計算が終わったとき、森本さんに言います。それだけです」


「なぜ、終わるまで言えないんですか」


「先に言うと、森本さんの行動が変わります。行動が変わると、計算結果も変わります。観測が、結果を動かしてしまう」


 鶴田は廊下に出た。0.3σの話のときと、同じことを言っていた。測ると、変わる。鶴田はずっと、それを気にしている。


   ◇


 午後、終了処理書類を開いた。


 川瀬奈緒 / 介入完了 / 調整終了。


 いつもの文字列だった。何度も見た。何度も閉じた。今日は、その下に昨日の所見が残っていた。


「川瀬案件は、その中で——一番、終わらせたくない。」


 自分で書いた文なのに、他人に見られた文のように見えた。業務文書ではない。報告でもない。言い訳でもない。ただの本音だった。


 消そうと思えば、消せる。消したところで、書いた事実は俺の中から消えない。


 終了処理の画面を閉じた。送信しなかった。


   ◇


 夕方、課長からメッセージが来た。


「月末までに処理方針を提出しろ」


 前なら「終了処理を出せ」だった。今日は「処理方針」になっていた。終わらせるか、続けるか。その理由を、言葉にしろということだ。


 言葉にできないから、終わらせられない。終わらせられないから、言葉にしなければならない。


 同じ場所を回っている。


   ◇


 夜、鶴田からもう一通メッセージが来た。


「ザイアンス係数、接触十九回。閾値まで、あと数回です」


 何の閾値かは、書いていなかった。


 月末まで、あと十四日。


 何かが終わる期限と、何かが始まる閾値が、同じ方角へ近づいていた。



次話「聞けない質問を、まだ聞かない」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ