第二十五話「22%の彼女が、また来た」
翌週、恋管に出勤すると受付から連絡があった。
「以前担当された対象者の方が、お越しです。吉田真央さん」
(吉田真央。22%で、25分で終わった案件だ)
◇
会議室に呼んだ。吉田真央は、前回と同じようにはっきりした顔で来た。
「ご連絡もせずに突然すみません。一度、お礼が言いたくて。あのときに来てもらって、すっきりした、と言いましたよね。その後、架橋課で紹介してもらった人と会って——今、付き合っています」
「そうですか」
「本当に良かったです。早く来てもらって」
◇
(良かった。制度が機能した。PAIRが正しかった)
「良かったです」と俺は言った。
「ただ——」と吉田真央が続けた。「一個だけ、気になってることがあって。あの人が諦めていなかったら、どうなっていたと思いますか」
「……PAIRの精度は92%です。諦めない場合でも、成立しないケースが大半です」
「大半は、ですよね。残りの8%は、どうなるんですか」
(外れ値の話だ。吉田真央も記事を読んだのかもしれない)
「……統計上、一定数は成立します」
「私のことを諦めさせた相手は、その8%じゃないとわかっていたんですか」
三秒、沈黙した。
「……統計的には、成立しない確率の方が高かったです」
「そうですか」
吉田真央は少し考えた。
「まあ、今は別の人と幸せだから、いいんですけど」
◇
会議室を出た後、鶴田が待っていた。
「吉田案件の再訪問、確認しました。問題ありません。幸福度スコア、入力していただけますか」
「測っていません」
「……欠損値として処理します」
「川瀬案件も欠損値として処理されていますか」
「……集計中です」
◇
今日はスタンプを出さなかった。
所見欄に一行書いた。
「吉田案件、再訪問。制度は正しく機能した。ただし——8%の話をされたとき、答えられなかった。答えられない回数が、一人分増えた。」
吉田真央は、帰り際に少しだけ立ち止まった。
「私、たぶん今の人とうまくいくと思います。でも、前の人を好きだった自分が間違いだったとは、まだ思いたくないんです」
「間違いではありません」
反射で言った。手順書にはない返答だった。
吉田は少し驚いた顔をした。それから、初めて困ったように笑った。
「折衝課の人が、そう言うんですね」
「……今は、そう思いました」
「そうですか」
制度は正しく機能した。彼女は次の縁に向かっている。成功例だ。だが成功例の中にも、消してはいけない過去がある。諦めることと、好きだった自分を否定することは、別だ。
その違いを、折衝課はあまりにも雑に扱ってきたのかもしれなかった。
吉田真央は、制度に救われた人だった。
そのこと自体は否定できない。折衝課が来たから、早く次へ進めた人がいる。けれど、救われた人の口からも、8%という疑問は出た。
正しく機能した制度の中からも、制度がこぼしたものの名前が出てくる。それが、いちばん厄介だった。成功の中にこぼれた8%が、いちばん長く、誰かの中に残る。
次話「保守課の、24時間遅延について」




