表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛フラグ管理局折衝課 〜成立確率11%の彼女を折りに行くたび、なぜか俺との縁が育っていく〜  作者: よるの 余白


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/28

第二十三話「公園のブランコは、誰も乗らない」



 翌日、鶴田がデスクに来た。


「昨日の公園での接触ですが——業務上の接触として処理されます。ただ、ベンチの座席距離が、通常の部屋の座席より32cm近かったです」


「……計測したんですか」


「位置情報の精度から推定しました」


「……なぜそれを俺に言うんですか」


「計算中です」


「32cmというのは、何の変数になるんですか」


「……ザイアンス係数と、別の係数に——」


「別の係数」


「……計算中です」


 そのまま、廊下を歩いて行った。


   ◇


 次の週も、外で会った。川瀬奈緒はもこもこのコートを着て、先にベンチに来ていた。


「またお待たせしました」


「いいえ。こっちが早く来すぎました」


 (来ることを前提に、早く来た)

 (俺が気になったのはその一点だったが、何も言わなかった)


   ◇


 インタビューを一通りした後、川瀬奈緒が言った。


「折衝さんのPAIRデータって、どうなっているんですか」


 (この質問が来ることを、なぜか予感していた)


「ERRORです」


「ERRORって——スコアが出ない、ということですか」


「データが算出できないときに出る表示です」


「なぜ出ないんですか」


「わかりません。配属当初から、ずっとERRORです」


 川瀬奈緒は少し考えた。


「私の11%より、低いですか。それとも高いですか」


「……比較できません。性質が違うので」


「そうですか」


   ◇


「あのブランコ——誰も乗らないのに、揺れているんですよね」と川瀬奈緒が言った。


「風ですね」


「風なのに、まるで誰かが乗っているみたいに揺れるときがあって。少し前まで、あれを見て田村さんのことを考えていました。今は——何も考えないで、ただ見ています。それが良いことなのか悪いことなのか、まだよくわかりません」


「俺も」と俺は言った。


 川瀬奈緒が俺を見た。


「俺も——今のが良いことか悪いことか、わからないことが、最近増えています」


「折衝課の人間が、そんなことを言っていいんですか」


「……今日はその質問には答えられません」


 川瀬奈緒は少し笑った。「いつも通りですね」


   ◇


 所見欄に一行書いた。


「公園での継続訪問。川瀬対象者——ERRORについて初めて聞いてきた。比較できないと答えた。俺も答えられないことが増えていると、言ってしまった。なぜ言ったか、わからない。」


 帰り際、公園の端に小さな手袋が落ちているのを見つけた。子供用だった。青い毛糸で、片方だけだった。


「誰か、来ていたんですね」と川瀬奈緒が言った。


「そうですね」


 俺たちは、手袋をベンチの上に置いた。持ち主が戻ってきたとき、見つけやすいように。


 誰も乗らないと思っていたブランコのそばに、誰かの忘れ物がある。それだけで、公園は完全に空っぽではなくなった。見えていないだけで、誰かはここに来ている。数字の上では存在しないように扱われるものも、実際にはどこかに痕跡を残している。


 川瀬奈緒は、しばらく手袋を見ていた。


「11%も、こういうものかもしれませんね」


「どういう意味ですか」


「誰もいないように見えて、片方だけ残ってるもの」


 俺は、その言葉を所見には書かなかった。



次話「田村誠司が、恋管に来た」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ