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恋愛フラグ管理局折衝課 〜成立確率11%の彼女を折りに行くたび、なぜか俺との縁が育っていく〜  作者: よるの 余白


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20/21

第二十話「最近、田村さんのことを考える時間が減りました」



 今週も来た。


「……また来たんですか」


「来ました」


   ◇


 コーヒーが2人分、用意されていた。今日の濃さは、普通だった。


 俺から先に手をつけた。川瀬奈緒もすぐに手をつけた。二人でコーヒーを飲んだ。インタビューの前に、今日初めてそういう時間があった。


 (何も言わずに飲んだ。それが自然だった)

 (いつから、これが自然になったのか)


   ◇


「少し、聞いていいですか」


 川瀬奈緒が先に口を開いた。


「どうぞ」


「最近——田村さんのことを考える時間が、減ってきました。1日のうち、朝だけ、みたいな感じです。前は起きてから寝るまで、どこかで考えていたんですが」


「朝だけになった」


「はい。で——それ以外の時間に何を考えているかというと、よくわからなくて。考えていない時間が増えた分、何が増えたかを言葉にできないんです」


 川瀬奈緒はカップを置いた。


「おかしいですか」


「……いいえ」


   ◇


「一つだけ、正直に答えてもらえますか」


 川瀬奈緒が言った。「正直に」という言葉を、今日は先に出した。


「……聞いてみてください」


「あなたは——今も、私の縁を折りに来ているんですか」


   ◇


 三秒。五秒。


 (来ている。業務として来ている)

 (先日、書類を出して取り消した日があった)

 (「また来る」と言ったのは、俺だ)


「……今日は、その質問には——」


「今日は答えられない、ですよね」


「はい」


 川瀬奈緒は少し笑った。


「折衝さん、一つ言っていいですか。その答えは——もう、答えだと思います」


   ◇


 俺は何も言えなかった。


「答えられない理由がある人間と、本当に答えを持っていない人間は、違いますよね」


「……」


「折衝さんは——前者だと思います」


   ◇


 五秒。十秒。


「……今日は」と俺は言った。


「はい」


「今日は——その質問に、答えます」


 川瀬奈緒が俺を見た。


「……俺は」


 言いかけた。言いかけて——止まった。


 (止まった理由は、恐れではなかった)

 (言葉が出てこなかった。正確な言葉が、まだ見つかっていなかった)


「……今日は、ここまでです」


 川瀬奈緒は、少し間を置いた。それから、笑った。今日の笑い方は、今まで見た中で、一番、待っているような顔だった。


「わかりました。次来たとき——続きを聞かせてもらえますか」


「……来たら、聞いてみてください」


   ◇


 帰り際に、川瀬奈緒が言った。


「また来るんですよね」


「……来ます」


「来てください」


 今日の「来てください」は、これまでと違った。頼むような声でも、確認するような声でもなかった。


 ——待っている、という声だった。


   ◇


 エレベーターに乗った。


 スタンプを取り出した。「答えます」と言って答えられなかった日。しまった。


 所見欄に一行書いた。


「川瀬対象者に、答えると言った。答えられなかった。次来たとき——答える。続ける理由は、もうわかっている。言葉になっていないだけだ。」


 データには残さない。


 何度目かの訪問だった。スタンプは、今日も押せていない。


 答えると言って答えられなかった声だけが、帰り道も耳に残っていた。



次話「課長から、三回目の督促が来た」


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