第百四十六話「鶴田からの報告」
鶴田から連絡が来た。研究の報告だった。喫茶店で会った。鶴田はいつもの心拍計をつけていた。
◇
「森本さんに報告したいことが、あります。川瀬さんへの接触回数の、最終集計です。折衝課がなくなったので、記録を整理していて。森本さんの川瀬さんへの接触回数を集計しました」
鶴田は端末を見た。
「業務上の接触、49回。業務じゃない接触——記録外ですが、私が数えていた分、78回。合計、127回です」
「待ってください。業務として通ったのは、49回じゃありません。もっと長く通いました。案件が凍結されるまで、ずっと」
「はい。実際の訪問は、もっとあります。ただ——システムの業務記録が、49回で止まっていました。50回目から、PAIRはあなたの訪問を、業務上の接触として記録していません。あなたが業務のつもりで通っていた間も、です」
「50回目、から」
「理由は、記録にありません。ただ、今なら推測できます。PAIRはあの頃にはもう、あなたの訪問を業務だと判断していなかった。だから以後は、全部記録外。私が数えていた分が、78回です」
「50回目が、いつか覚えていますか」
「先ほど調べました。業務記録が49回で止まった、その翌回です。外れ値カップルが恋管に来た直後の訪問でした」
外れ値カップルが恋管に来た日。18%で折られかけ、それでも続いて、子供まで生まれた二人を見た日。あの日のあと、PAIRは俺の訪問を業務だと判断しなくなった。俺自身が業務だと思い込んでいた頃、PAIRはもう、そうではないと知っていた。
◇
俺より先に、PAIRが知っていた。あれが業務ではなくなっていたことを。
127回。127回、川瀬さんに会いに行った。
「127回も、ですか」
「はい。ただ——PAIRに記録された接触は、0回です。業務上の接触は算出対象外。業務じゃない接触は、そもそも記録されない。だからPAIRの公式記録には——森本さんと川瀬さんの接触は、0回です」
「127回会ったのに、記録は0回」
「はい」
◇
「でも」と鶴田が続けた。「PAIRはスコアを出しました。川瀬さんの100%を。記録が0回なのに、100%を出した。記録外の127回を——PAIRは、見ていた。公式記録には残さない。でも、見ていた。そして100%を出した」
鶴田は少し間を置いた。
「私は127回数えました。PAIRも127回見ていました。公式記録は0回。でも——森本さんは127回、会いに行きました。それが、事実です」
◇
127回会いに行った。記録には残らない。でも、事実は消えない。鶴田が数えた。PAIRが見ていた。
「鶴田さん。あなたが127回数えてくれて——よかったです」
「なぜ」
「記録に残らないことを、誰かが数えていてくれた。それは——救いです」
鶴田は心拍計を見た。
「……心拍が、上がりました。これはたぶん——嬉しいです」
鶴田は端末をしまいかけて、手を止めた。
「森本さん。この前話した件です。PAIRが探している、他の100%の」
「見つかったんですか」
「……一つ、記録の痕跡を見つけました。まだ確かめていません。確かめたら、お話しします。ただ——森本さんと川瀬さんは、やはり、最初の一つでした。最後では、ないようです」
その先は、言わなかった。確かめていないことは、言わない。ただ「最後ではない」とだけ、鶴田は言い切った。確かめる前に言い切るのは、鶴田にしては、珍しいことだった。
◇
喫茶店を出て、鶴田と別れた。
PAIRの公式記録は、0回。でも俺は127回、あの部屋のドアを開けた。記録に残らない127回を、鶴田が数え、PAIRが見ていた。データに残らないものは、なかったことになる——折衝課ではそう教わった。でも、ならなかった。残らない127回が、川瀬さんの100%を作った。記録の外にこそ、本物があった。
次話「いつもの部屋で」




