↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛フラグ管理局折衝課 〜成立確率11%の彼女を折りに行くたび、なぜか俺との縁が育っていく〜  作者: よるの 余白
「折れなかった縁」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
135/138

第百三十五話「面接の結果」

 数日後、川瀬さんから連絡が来た。「面接、受かりました」と。


   ◇


 川瀬さんの部屋に上がった。今日のコーヒーは、いつもより少し明るい味がした。気のせいかもしれなかった。


「おめでとうございます」


「ありがとうございます。来月から出社です。週に3日だけですが」


「週3日でも、大きな変化ですね」


「はい。ずっと家に一人だったので。会社に行くの、緊張します。でも——楽しみです」


 川瀬さんは本当に、楽しみそうだった。一年前、初めて会ったときの川瀬さんは、こんな顔をしていなかった。諦めない、けれど、どこか張り詰めた顔をしていた。今日の顔は、張り詰めていなかった。前を向いて、楽しみにしている顔だった。


   ◇


「森本さん。私、変わりましたよね」


「変わりました」


「最初、森本さんが来たとき、私どんなでした?」


 俺は少し考えた。


「……諦めない人、でした。11%は0%じゃない、と。でも——部屋から出ない人でした。ブランコを見ているだけの」


「今は?」


「海に行って、会社にも行く人です。前に進む人です」


 川瀬さんは笑って、首を横に振った。


「森本さんのおかげです」


「俺は、何も——」


「会いに来てくれました。百回以上。それが、全部です」


   ◇


「川瀬さん。俺も、変わりました。最初は——データで判断する人でした。感情を信じない人でした。スタンプを押せないのに、理由もわからない人でした」


「今は?」


「データじゃなくて、自分で選ぶ人になりました。川瀬さんに会いたいから、会いに行く。それを自分で選んでいます。前は、データが正しいと信じれば、楽でした。自分で選ばなくていいので。データのせいにできた。今は、自分で選びます。選ぶのは、こわいです。でも——自分の人生を、生きている気がします」


 川瀬さんは俺を見た。


「お互い、変わりましたね。会わなかったら、二人とも変わらなかったかもしれませんね」


「……そうですね。俺が折りに来なければ、川瀬さんは部屋にいたまま。川瀬さんが折られなければ、俺は数字を信じたまま。お互いが、お互いを変えました」


「折りに来た人と、折られかけた人が。変な出会いですね」


「変な出会いです。でも——悪くない出会いでした」


「はい。最高の出会いでした」


   ◇


 川瀬さんは窓の外を見た。公園のブランコが、見えた。


「あのブランコ。最初、誰も乗らない寂しいブランコだと思っていました。でも最近思うんです。誰も乗らなくても、あのブランコはずっとそこにあった。風に揺れながら。誰かが来るのを、待っていたのかもしれない」


「待っていた」


「私も、あのブランコみたいに、ずっと待っていたのかもしれません。森本さんが、来るのを。待っているなんて、思っていませんでした。田村さんを諦めないことに必死で。でも今思うと、私はあのブランコみたいに、ただそこにいて、誰かが来るのを待っていた気がします。来たのが、折りに来た人だったのは——変な話ですけど」


   ◇


 帰り際、もう一度ブランコを見た。


 誰も乗っていなかった。風に揺れて——待っていた。


 玄関で靴を履いていると、後ろで川瀬さんが言った。


「会社に行ったら、たぶん聞かれます。『川瀬さん、彼氏いるんですか』って」


 俺は靴を履く手を止めた。川瀬さんは右側の髪を耳にかけた。


「そのとき私、何て答えるんでしょうね」



次話「川瀬さんの初出社」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。