第百三十三話「スコアが、ずっと100%のままで」
鶴田から連絡が来た。「川瀬さんのスコアに、面白い動きがありました」と。喫茶店で会った。
◇
「動き、というのは」
「川瀬さんのスコアは、表示はERRORのままです。内部値は100%。ただ——先々週、一度だけ98%まで下がって、表示が数字に戻りました」
「下がった?」
「はい。先々週、森本さんが架橋課の仕事で、4日間会いに行けなかった週です。その週、内部値が98%に下がって、画面に98という数字が出ました。そして先週、森本さんが会いに行った翌日に100%へ戻って、表示もERRORに戻りました」
「会わないと、下がる」
「会うと、戻る。2%分ですが、確かに動きました。スコアは、生きています。森本さんの足が、数字を動かしています」
たった2%。されど、動いた。固定された100%ではなかった。会いに行けば戻り、行かなければ下がる。針は、ちゃんと、俺の足に反応していた。
◇
「鶴田さん。100%がずっと続くのは、いいことですか」
「データ上は安定しているということです。ただ——100%が永遠に続く保証はありません。森本さんが会いに行かなくなれば、下がるかもしれません。100%は固定された数字ではありません。森本さんが会いに行き続けるから、維持されている。動的な、100%です」
動的な100%。会いに行き続けるから維持される。会わなくなれば、下がる。固定された運命ではなかった。毎日、手入れをしないと枯れる花のような100%だった。
◇
「鶴田さん。それは——少し、プレッシャーですね。俺が会いに行かなくなったら100%が下がる。だからずっと会いに行かないといけない」
鶴田は少し考えた。
「それは、解釈です。私は別の解釈をします。100%は固定されたゴールではありません。だから——森本さんと川瀬さんは、毎日100%を選び続けているということです。会いに行くことで。147通りの未来のうち、100%が続く未来をお二人は毎日選んでいます。それはプレッシャーではなくて——」
鶴田は心拍計を見た。
「自由だと、思います。データに決められた100%じゃなくて。自分で選び続ける100%。それは、自由です。固定された100%なら、お二人は何もしなくていい。でも、動く100%なら、毎日選べる。選べるということは、自由だということです。生きている100%です」
◇
自分で選び続ける100%。データに決められたんじゃなくて。毎日、選んでいる。
「鶴田さん。あなた、本当に解釈が上手になりましたね」
「……森本さんと川瀬さんを観察してきたので」
「研究対象として?」
「最初は。今は——友人として、見ています」
鶴田が初めて「友人」と言った。研究対象が、友人に変わった。鶴田の中で、何かが、変わっていた。
「鶴田さん。友人って、言いましたね」
「……言いました。心拍が上がっています。これは、照れという感情かもしれません。まだ、確信はありませんが」
「照れ、わかるようになったんですね」
「森本さんと川瀬さんが、よく照れているので。観察していて、覚えました」
◇
喫茶店を出て、鶴田と別れた。
動的な100%。会いに行くたびに選び直される数字。それは、毎朝スタンプを取り出してはしまう俺の手と、似ていた。一度押せば終わる。押さないかぎり、選び続けている。100%もスタンプも、固定された結論ではなく、毎日選び直すものだった。鶴田の言う通り、それはたぶん、プレッシャーではなく自由だった。
次話「川瀬さんが、外に出る」




