第百二十七話「架橋課の森本」
翌週、俺は架橋課に配属された。縁を繋げる、部署だった。三年いた折衝課とは、廊下を挟んだ向かい側にあった。同じ恋管の、逆の仕事をする部署だった。
◇
架橋課には窓があった。大きな窓だった。南向きで、外が、見えた。朝の光が、フロア全体に差していた。折衝課では、朝も昼も夕方も、同じ蛍光灯の白だった。ここでは、時間が、光でわかった。
「どうだ、窓のある部署は」と桐生が言った。
「明るいですね」
明るい、としか言えなかった。三年、窓のない部屋にいた人間には、その明るさが、少しまぶしかった。
「だろ。折衝課は窓がなかったからな。あそこは外を見ないように作られてた。折るために。架橋課は、外を見る。繋げるには外の世界を見ないといけないからな。人と人を繋ぐには、まず世界を見ないと」
折衝課は外を見ない。架橋課は外を見る。折ると繋げるの違いが、窓にあった。設計した人間は、その違いを、窓のあるなしで表現していた。課長たちが、そう作った。
◇
架橋課の仕事は、折衝課と逆だった。成立確率80%以上のペアを繋げる。お互いに推薦し合って、会う場を設定する。折るのではなく、繋げる。終わらせるのではなく、始めさせる。三年間、終わらせる仕事をしてきた手で、今度は始めさせる。同じ手で、逆のことをする。最初は、戸惑った。終わらせる言葉ばかり覚えてきた口で、始まりの言葉を言うのは、慣れなかった。
「最初の案件、やってみるか」と桐生が言った。「成立確率85%。男女とも繋がりたがってる。簡単な案件だ」
俺はその案件のデータを見た。85%。高い数字だった。川瀬さんは最初、11%だった。その7倍以上。85%なら、簡単に繋がるはずだった。
◇
案件を進めた。男女に連絡を取って、会う場を設定した。ところが——会った二人は、合わなかった。85%なのに。
「合わなかったらしいぞ」と桐生が言った。
「85%なのに、ですか」
「あるんだよ、こういうの。データは高いのに、会ったらピンと来ない。逆にデータが低いのに、妙に気が合うこともある」
「外れ値、ですね」
「そうだ。架橋課でも外れ値は読めない。PAIRのデータだけじゃ、繋がらないんだ。結局、最後は人間同士が会って、決めることだ」
85%でも繋がらない。11%でも100%になる。データだけじゃ、わからない。折衝課でも架橋課でも、同じことだった。折る側から見ても繋げる側から見ても、データは、最後の答えではなかった。
◇
架橋課にスタンプはない。だから、出さなかった。代わりに、胸ポケットの折衝課のスタンプを、一度だけ触った。まだ、持っていた。
窓のある部署で、85%が繋がらなかった案件のデータを見た。折衝課で、11%が100%になった案件を思い出した。高い数字が繋がらず、低い数字が結ばれる。PAIRがどれだけ正確に数字を出しても、最後に縁を決めるのは数字ではない。折衝課が窓を塞いでまで信じようとしたデータは、繋げる側の窓のある部屋から見ると、入り口の一つでしかなかった。窓の外では、ちゃんと、世界が動いていた。データに出ない世界が。
次話「会いたいから、会う」




