第百二十三話「最後の外れ値カップル」
折衝課がなくなる前に、外れ値カップルがもう一度、恋管に来た。子供を、連れて。
◇
「折衝課なくなるって、聞きました。それで、お礼を言いに来ました」と男性が言った。
「お礼?」
「私たち、訴訟を考えていました。折衝課に折られそうになったことを。でも——折衝課がなくなるなら、もういいかなって。それに——」
女性が続けた。
「私たち100%だったって、教えてもらって。最初は信じられませんでした。だって18%って言われたので。でも100%だったって知って——なんか、報われました。18%なのに続けてきた。みんなに無謀だって言われて。でも本当は100%だった。私たちの選択は、正しかったんだって」
◇
18%が本当は100%だった。折られそうになって、それでも続けて、その選択が正しかったとデータが証明した。
「あなたたちは——PAIRが、最初に見つけ直した縁です」と俺は言った。「PAIRは最初あなたたちを18%と判定しました。でもあなたたちが続けるのを見て——後から、100%を見つけ直しました。あなたたちが、外れ値8%の最初の証拠です。あなたたちが続けなかったら、PAIRは縁を探すことを、覚えなかったかもしれません」
女性は少し笑った。
「じゃあ私たちが、PAIRに教えたんですね。18%でも続く縁があるって。なんか、嬉しいですね。私たちのおかげで、PAIRが賢くなったなら」
◇
子供が会議室を走り回っていた。この子は、PAIRが折ろうとした縁から生まれた。18%の縁から。本当は100%だった縁から。
「折衝さん。折衝課がなくなるの、寂しいですか」
「……どうでしょうか。まだ、わかりません」
わからない、と答えた。本当に、わからなかった。20年縁を折ってきた機関がなくなる。それは正しいことのはずだ。でも、その機関で、俺は川瀬さんに出会った。折る機関がなかったら、出会わなかった。なくすべき機関が、一番大切な縁を、運んできた。寂しいかどうかは、簡単には、決められなかった。
「私、思うんです。折衝課って縁を折る機関だって言われてるけど。本当は——縁を試す機関だったんじゃないかって」
「試す?」
「折りに来られても続く縁は、続く。折られて終わる縁は、終わる。折衝課が来ることで、本物の縁かどうかがわかる。私たちは折衝課が来たから、自分たちの縁が本物だって、確かめられました」
◇
縁を、試す機関。折りに来ることで、本物かどうかがわかる。折れない縁が、本物。
「いい考え方ですね」と俺は言った。
「でしょう?」と女性は笑った。
子供が女性の足元に駆け寄ってきた。女性は子供を抱き上げた。
「この子にいつか話します。あなたは折られそうになった縁から生まれたんだよって。でもその縁は、本物だったんだよって」
◇
二人が子供を連れて帰っていくのを、見送った。
縁を試す機関。折られても折れなかったものが、本物。その言葉は、312件折りに行って、一件も自分の手で折れたと思えなかった俺自身のことでもあった。俺は折衝課で失格の職員だった。書類の上では全部終わった。手を引いたのは、いつも向こうだった。俺が折ったものは、一つもない。でも、折れなかったその一件は——本物だったのだ。折る機関に最も向いていなかった俺が、その機関の本当の意味を、最後に折られなかった縁から教わっていた。
廊下の角で、抱かれた子供が女性の肩越しに振り返った。小さな声が、会議室の前まで届いた。
「おじさんのも、ほんもの?」
次話「川瀬さんのスコア」




