表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛フラグ管理局折衝課 〜成立確率11%の彼女を折りに行くたび、なぜか俺との縁が育っていく〜  作者: よるの 余白


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/20

第十二話「婚約パーティーの招待状が、届きました」



 12月に入った。


 恋管の廊下に、出生率対策ポスターが貼り替えられた。毎年この時期になると新しくなる。今年のキャッチコピーは「縁が、未来をつくる」だった。去年も同じようなことが書いてあった気がする。


   ◇


 川瀬奈緒の部屋に上がると、テーブルの上にいつものコーヒーと、もう一枚——白い封筒が置いてあった。


 川瀬奈緒はすでに自分の席に着いていた。封筒を見ていた。俺が来たことに気づいて、少し間を置いてから「どうぞ」と言った。


 「また来たんですか」を言わなかった。


 (初めてだ)

 (ただ、今日それを指摘するのが正しいかどうか、わからなかった)


「それは」と俺は聞いた。


「田村さんからです。来月、婚約パーティーをするそうで——招待状をもらいました」


   ◇


「行くんですか」


「……わかりません」


 川瀬奈緒はカップを両手で持った。


「行ったほうがいい、と思いますか」と俺に聞いた。


 業務上の判断として答えるなら、「終わりにする機会として有効です」という言い方ができる。実際そういう指導を折衝課はする。


「……今日はその質問には答えられません」


 川瀬奈緒は少し笑った。


「また、ですね」


「また、です」


   ◇


「行くべきではないと思います」と川瀬奈緒は言った。ゆっくりと、確認するように。


「なぜですか」


「行ったら——何かが、終わる気がします」


「それは良いことじゃないんですか。整理のために——」


「整理はしたくないんです。今は、まだ」


 (今は、まだ)

 (この言葉に、俺は反論できなかった)


「でも」と川瀬奈緒は続けた。「行かないと、ずっとここに置いてある気がして」


 封筒を見た。テーブルの上の、白い封筒を。


「行くかもしれません。まだわかりません」


 俺はコーヒーを飲んだ。濃かった。


   ◇


 駅のホームで電車を待った。今年の冬は早い。ホームに子供連れの姿はほとんどなかった。


 所見欄に一行書いた。


「川瀬対象者、田村の婚約パーティーへの招待。行くかどうか——わからないと言った。」


 封筒の端に、田村の字があった。名前だけで、その人が書いたものだとわかるくらいには、川瀬奈緒はその男を見てきたのだろう。


 俺は封筒を開けるよう促さなかった。開ければ中身はわかる。けれど、開ける前の時間にも意味がある。折衝課はいつも、開けた後の情報だけを扱う。招待状が届いた瞬間の、開けるかどうか迷っている人間の時間は、どこにも記録しない。


 川瀬奈緒は、封筒を裏返した。封は切られていなかった。


「まだ、開けてないんです」


「なぜですか」


「開けたら、行くかどうかを決めなきゃいけない気がして」


 俺は何も言えなかった。人は、決める前にも疲れる。決める前の疲れを、PAIRはたぶん数値にしない。


 その白い封筒を、俺は自分の終了処理書類に重ねて見ていた。どちらも、開けば終わる。開けなければ、まだ続く。川瀬奈緒は封筒を開けない。俺はスタンプを押さない。封を切るのも判を押すのも、たった一動作だ。その一動作を、二人ともできずにいた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ