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恋愛フラグ管理局折衝課 〜成立確率11%の彼女を折りに行くたび、なぜか俺との縁が育っていく〜  作者: よるの 余白
「折衝課、最後の日々」

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第百十六話「23組をどうするか」

 二十三組の候補者に、どう知らせるか。


 会議は、そこで止まった。


「全員に通知すべきです」


 桐生が言った。


「通知文は中立的に作成できます。『過去のPAIR判定に再評価対象が見つかりました』と」


「それでは不安だけを渡す」


 課長が言った。


「では隠しますか」


「隠さない。だが通知だけで終わらせるな」


   ◇


 鶴田が資料を出した。


「選択肢を三つ用意します」


 一。詳細を知る。


 二。概要だけ知る。


 三。知ることを保留する。


「保留?」


 桐生が聞いた。


「はい。知りたくない、ではなく、今は知らない。後から選び直せる形にします」


「なぜ」


「人間は、情報を受け取るタイミングでも結果が変わるからです」


 鶴田が、そんな人間らしいことを言った。


 鶴田の三択案は、最初はもっと硬かった。


 一。詳細開示を希望する。

 二。概要説明を希望する。

 三。現時点では情報受領を保留する。


 川瀬さんに見せると、彼女はすぐに首を振った。


「これだと、選ぶ前に疲れます」


「では、どう書きますか」


「一、詳しく知りたい。二、少しだけ知りたい。三、今は知りたくない。でも後で変えられる。これでいいと思います」


 鶴田が端末に入力した。


「正確性が下がります」


「人間には、少し下がった正確性の方が届くことがあります」


 鶴田は黙った。翻訳者と保守課員が、同じ文を見ている。片方は意味の正確さを考え、もう片方は届き方の正確さを考えていた。


「届かなければ、正確でも意味がありません」と川瀬さんは言った。


 その一言で、会議の空気が変わった。


 恋管はずっと、正確な数字を出すことに力を注いできた。だが、数字が正確でも、届き方を間違えれば人を折る。23組に渡すべきなのは、正確な通知ではなく、受け取れる通知だった。


 俺は、資料の一番上に一文を足した。


 急いで決めなくていい。


 課長がそれを見て、少しだけ頷いた。


「折衝課が初めて作る、急がせない文書だな」


 誰も笑わなかった。笑えないほど、その通りだった。


「通知された瞬間に、人生が二つに割れる人もいます」


 鶴田が言った。


「知る前の人生と、知った後の人生です。こちらが渡すのは情報ですが、相手が受け取るのは情報だけではありません」


 珍しく、鶴田の言葉に計算式がなかった。


「だから、通知文に逃げ道が必要です。今は読まなくていい。今は決めなくていい。そう書いておかないと、選択肢ではなく命令になります」


 俺はその言葉を、手帳に書き写した。「逃げ道のない選択肢は、命令である」と。折衝課で三年、俺は何百回も選択肢を出してきた。終了処理に同意しますか。次の縁に進みますか。どれも逃げ道のない選択肢だった。同意以外の道がない問いを、選択肢と呼んでいた。鶴田の一言で、初めてそれが命令だったと気づいた。


   ◇


 俺は資料に、一文を足した。


 あなたの選択が、最優先されます。


 課長がそれを見て、頷いた。


「いい」


「手順書にはありません」


「これから作る」


 折衝課は、初めて折るためではない文書を作っていた。



次話「選択肢を配る」


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