↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛フラグ管理局折衝課 〜成立確率11%の彼女を折りに行くたび、なぜか俺との縁が育っていく〜  作者: よるの 余白
「折衝課、最後の日々」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
109/135

第百九話「11%は0%じゃない、の最終形」



 折衝課の一時停止後、俺は過去案件を見直した。


 312件。


 俺が、折りに通った恋。


 そのすべてに、完了記録がある。書類上は、終わっている。


 だが、所見欄を読み返すと、終わっていないものがいくつもあった。


 「本人納得、ただし沈黙長い」


 「次回訪問不要、ただし本人は写真を捨てず」


 「成立見込み低、ただし相互接触増」


 俺は、何を終わらせてきたのだろう。


   ◇


 川瀬さんにその話をした。


「11%は0%じゃない、という言葉を、私は田村さんのことだと思って言っていました」


「はい」


「でも今は、少し違います」


「どう違いますか」


 彼女は、少し考えた。


「低い数字の中に、まだ本人も知らない変化が残っている、という意味だったのかもしれません」


「変化」


「はい。私は田村さんを諦めないと思っていました。でも実際には、あなたが来るたびに変わっていた。11%は、田村さんとの可能性ではなく、私が変われる余地だったのかもしれない」


 俺は黙った。


 11%は0%じゃない。


 その言葉の意味が、最初とまったく変わっていた。


   ◇


「じゃあ、100%は何ですか」


 俺が聞いた。


 川瀬さんはカップを見た。


「100%は、答えじゃなくて、逃げられない問いです」


「問い」


「この縁と、どう生きますか、という問いです」


 100%が出ても、何も終わらない。


 むしろ、そこから始まる。


 そのことを、彼女は俺より先に言葉にした。


 川瀬さんは、少し迷ってから言った。


「私、11%という数字を盾にしていたんだと思います。田村さんを諦めないための盾です。でも本当は、諦めない自分を説明する言葉がほしかっただけかもしれません」


「説明する言葉」


「はい。人は、理由がないと続けてはいけない気がするので」


 それは、俺にも刺さった。俺は三年間、スタンプを押せない理由を持たなかった。理由がないまま押せないことを、欠陥だと思っていた。けれど、理由がないまま続くものもある。後から理由が追いついてくるものもある。


「11%は、理由でしたか」


「最初は。でも今は、入口だった気がします」


「入口」


「はい。田村さんへの11%から入って、別の場所に来てしまいました」


 彼女は窓の外を見た。ブランコは、今日も揺れていた。


 最初に彼女が「11%は0%じゃない」と言ったとき、俺は反論だと思った。


 今ならわかる。あれは反論である前に、彼女が自分を立たせるための杖だった。折れそうになるたび、その言葉を床に突いて、立っていた。


 その杖が、いつの間にか俺の手にも渡っていた。


 0%ではないものを、すぐに終わったことにしない。俺がスタンプを押せなかった理由も、たぶん同じ場所にあった。


 過去案件の所見を、もう一度読み返した。「ただし」で終わる所見が、いくつもあった。本人納得、ただし沈黙長い。次回不要、ただし写真を捨てず。あの「ただし」の一つ一つが、0%じゃない、の痕跡だったのかもしれない。俺は折るたびに、無意識に折れないものを書き残していた。スタンプを押せなかったのと、同じ手で。



次話「鶴田の報告書」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。