↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛フラグ管理局折衝課 〜成立確率11%の彼女を折りに行くたび、なぜか俺との縁が育っていく〜  作者: よるの 余白
「折衝課、最後の日々」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
103/134

第百三話「鶴田が、庇おうとする」

 本部聴取で、鶴田は一人で全部を背負おうとした。


「照合環境の構築、ログ抽出、ERROR解析、仮ラベル作成、すべて保守課の判断です」


 監査担当が聞いた。


「森本職員の関与は」


「限定的です」


「課長の関与は」


「承認のみです」


「川瀬奈緒氏の関与は」


「本人同意のみです」


 横で聞いていて、すぐにわかった。


 鶴田は、俺たちを庇っている。


   ◇


「違います」


 俺は口を挟んだ。


 鶴田がこちらを見た。珍しく、少しだけ目が大きくなった。


「森本さん」


「照合を希望したのは俺です。承認を求めたのも、俺です。川瀬さんにも、俺が話しました」


「森本さん、その説明は非効率です」


「効率の話ではありません」


 監査担当が、端末に記録した。


   ◇


 聴取後、廊下で鶴田に止められた。


「なぜ否定したんですか」


「あなた一人の問題ではないからです」


「私一人の問題にした方が、処理は簡単です」


「簡単に処理されたくないんです」


 鶴田は黙った。


「森本さんは、非効率ですね」


「よく言われます」


「誰に」


「最近、自分に」


 鶴田は少しだけ笑ったように見えた。


 鶴田は、庇うのが下手だった。


 言葉が硬い。説明が長い。責任を一人で背負うなら、もっと感情的に、もっとわかりやすく言えばいい。だが鶴田は、いつもの保守課の言葉で俺たちを庇おうとした。


 それが、逆に本気に見えた。


 この人は感情を感情のまま出せない。だから、責任範囲という形に直して、こちらへ差し出している。


 廊下の端で、鶴田はもう一度だけ振り返った。


「森本さん」


「はい」


「私は、庇うという行為をまだ正確に理解していません」


「はい」


「でも、今日、少しデータが取れました」


 それだけ言って、鶴田は歩いていった。庇われる側ではなく、庇い合う側に入ったことを、本人はたぶんまだ知らない。


   ◇


 その夜、鶴田から一通だけメッセージが来た。


「庇うという行為は、データ上、非効率ですが、記録価値があります」


 続けて、もう一通。


「今日の森本さんの発言を、私の手元ログに残します」


 俺は返信した。


「データには残さないんじゃなかったんですか」


 返事はすぐ来た。


「これは、データではありません。所見です」


 鶴田がそんな言葉を使ったことに、俺は少し驚いた。


 翌日、鶴田の机に小さな付箋が貼ってあった。


 一人で背負うな。


 誰が貼ったのかはわからない。桐生か、課長か、保守課の誰かか。鶴田はそれを見て、しばらく固まっていた。


「取らないんですか」


「付箋の接着力がどの程度持つか、観察します」


「本当の理由は」


「……取ると、なかったことになる気がします」


 その言い方が、少しだけ鶴田らしくなかった。彼もまた、何かを手元に残したがっている。データではなく、所見として。誰かの短い言葉を、自分の机に貼っておく。それは、彼なりのスタンプなのかもしれなかった。


 その日の終業時、付箋はまだ貼られていた。


 その夜、俺は自分のデスクにも小さなメモを残した。鶴田に倣ったわけではない。ただ残しておきたい言葉が、初めて自分にもできた。「一人で背負うのは効率がいいだけだ」と。



次話「架橋課から、来た人」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。