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恋愛フラグ管理局折衝課 〜成立確率11%の彼女を折りに行くたび、なぜか俺との縁が育っていく〜  作者: よるの 余白
「照合」

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100/128

第百話「業務じゃないので」

 100%の翌日、俺は川瀬さんの部屋に行った。


 業務予定には入っていない。端末にも記録しなかった。恋管のバッジは鞄に入れたままにした。


 インターホンを押すと、三秒より早く扉が開いた。


「また来たんですか」


 声は、初めて会った日と同じだった。


 ただ、意味は違っていた。


「来ました」


「業務じゃないのに」


「業務じゃないので」


 川瀬さんは、少しだけ笑って扉を開けた。


   ◇


 テーブルには、二人分のコーヒーがあった。


 濃かった。


「100%記念なので」


「記念日は、昨日では」


「今日もです」


 川瀬さんは当然のように言った。


 俺はカップを持った。


 熱かった。初めてここに来たとき、俺はほとんど飲まなかった。今は、飲む前から温度がわかる。


 それだけ通った。


 それだけ変わった。


   ◇


「折衝さん」


「はい」


「100%が出たからと言って、急に何かを決めるのは、嫌です」


「俺もです」


「でも、何も変わらないふりをするのも、嫌です」


「はい」


「なので、一つだけ変えていいですか」


「何を」


 川瀬さんは少し迷ったあと、言った。


「折衝さん、ではなく、森本さんと呼びます」


 それだけのことだった。


 だが、それだけのことが、妙に大きかった。


「はい」


「森本さん」


「はい」


「……呼んだだけです」


 彼女はカップで口元を隠した。


 俺は、今度はすぐにコーヒーを飲んだ。


 最初の一口を飲んだあと、川瀬さんは窓の外を見た。


「100%って、便利じゃないですね」


「便利ではないですね」


「11%の方が、まだ言い訳できました。低いから、とか、でも0じゃないから、とか」


「はい」


「100%は、言い訳がないです」


 彼女はそう言って、カップを置いた。


 言い訳がない数字。だからこそ、数字のあとに、俺たちは自分の言葉を探さなければならなかった。


 言葉は、数字より遅い。でも、数字より長く残る。100%はもう動かない。けれど、その横に置く言葉は、まだいくらでも書き換えられた。俺たちは、書き換えられる方を選んだのだと思う。カップのコーヒーは、今日も少しだけ濃かった。


   ◇


 帰り際、川瀬さんは玄関で少し迷ってから言った。


「森本さん。今日、来てくれてよかったです」


「昨日も会いました」


「昨日は照合でした。今日は、あなたが来ました」


 その違いを、俺はしばらく考えた。照合で会うことと、来ることは違う。制度に呼ばれて同じ部屋にいることと、自分で約束して扉の前に立つことは違う。


「また来ます」


「はい」


「予定を聞いてから」


「そうしてください」


 彼女は少し笑った。


 帰り道、俺は端末の予定表を開いた。業務予定ではない欄に、次の予定を入れた。川瀬さん、とだけ打って、消した。森本・川瀬、と打って、また消した。結局、こう書いた。


 コーヒー。


 その予定だけは、誰にも提出しなくていい。


 端末に通知が来た。


 本部監査部からだった。


 照合結果100%の件について、森本遼職員および関係者への聴取を実施します。


 100%のその後は、甘いだけでは終わらなかった。



次話「噂は、一晩で回る」


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