008話. 後援(2)
「トレドの城にお前たち家族が暮らす家を用意してやるから、お前の望む通りに研究しなさい。」
ルーベンはまず、感激したような表情を浮かべて感謝を示した。
「アルバ家のお嬢様が後援を申し出てくださっただけでも、一生の栄誉です。」
しかし、実情は違った。
『ああ、トレドはちょっと…………?』
これがルーベンが調整しなければならない最初の問題だった。
アルバ家はスペイン各地に領地を所有していた。
その中でもトレドは直系一族が滞在する場所であり、だからといって、トレド自体が気に入らないわけではなかった。
マドリードへ遷都するまでは、スペインの首都はトレドだったからだ。
現代にも古城が数多く残っていたため、何度も旅行したことのある場所だった。
『本当に壮大だったよな。』
しかし、ルーベンが立てた大きな計画は、トレドに留まっていては実現できなかった。
『基盤も後ろ盾もない状態でスペイン本土に新しい品々を次々と生み出したところで、瞬く間に利権をすべて奪われてしまう。外国の間者に盗み出される可能性もある。』
それだけでなく、スペインはカトリックにあまりにも深く傾倒していた。
一度でも失敗すれば、悪魔の品を作ったとして異端審問にかけられるかもしれなかった。
ならば方法は一つ。
人材を集め、西ヨーロッパを離れる。
機会の地、新大陸で基盤を築くのだ。
『将来を考えれば、沿岸地域に住みながら商人や海軍、船乗りたちと人脈を作っておかなければならない。』
新大陸へ進出する計画を実行するには、トレドはあまりにも内陸に位置していた。
もちろん、それを正直に申し上げて提案を断れば、ルーベンの楽しい近世スペイン冒険はその日をもって終了。
首を吊られることなく、後援だけを引き出すための言い訳をルーベンは用意していた。
「お嬢様のご提案は本当に光栄ですが、それは難しいかと思います。」
ルーベンは床に膝をつき、頭を垂れながら言った。
「何ですって?」
断られるなど想像もしていなかったベアトリスは、戸惑って言葉を続けられなかった。
その時、腰にホイールロック式小銃を差していたカバンスが怒鳴った。
「この無礼者! よくもお嬢様のご提案に口答えを」
しかし、彼は最後まで言い切れなかった。
ベアトリスが手を上げて彼を制止したからだ。
「カバンス。ここは聖堂よ。」
「も、申し訳ございません。」
ただの聖堂ではなく、司教が管理するオウレンセ大聖堂だった。
いくらアルバ家でも、聖堂の中で気性のままに振る舞えば、貴族たちの間で醜聞が広まることになる。
たかが平民一人のために、家門の名誉を傷つけてまで実力行使に出なければならない状況でもなかった。
カバンスが退くと、今度は侍女のフリアが言った。
「ルーベンと言ったわね?」
「はい。」
「あなた、お嬢様の家門であるアルバ家がどのような家門なのか知った上で、そんなことを言っているの?」
「もちろん存じております。」
「いいえ。きちんと知っていたなら、あなたはお嬢様の提案を絶対に断らなかった。いいえ、断れなかったはずよ。」
お嬢様一行の態度は次第に険悪になっていった。
『そろそろ雰囲気をひっくり返さないと危険だな。』
いずれにせよ、この場の決定権を持つのはベアトリスだった。
彼女の心をつかめば、それで終わる勝負だった。
「そのお方は。」
そして、ついにルーベンが口を開いた。
「6歳の時に初陣に参加され、1535年のハプスブルク家とオスマン帝国との戦争では、チュニス征服に大きく貢献され、」
フリアがルーベンの言葉を遮った。
「この子、急に何を言っているの?」
しかし、ベアトリスはルーベンが自分の父であるアルバ公爵について話しているのだとすぐに気づいた。
「それで?」
「はい。1547年のミュールベルクの戦いでスペイン軍を指揮され、1551年から1559年までのイタリア戦争ではスペイン・ハプスブルク軍の総司令官を務められました。その間、1555年にはミラノ総督を、1556年にはナポリ副王を歴任されました。」
もちろん、さらに詳しく知っていた。
しかし、一介の平民が知っていてはならない内容もあったため、できるだけ要約して話した。
ぱち、ぱち、ぱち。
ベアトリスは興味深そうな表情で拍手をしながら言った。
「私の父について、とても詳しく知っているのね。」
「はい、日頃から大変尊敬しておりました。」
「それで? 今の話が、私の提案を断ったことと何の関係があるの?」
ルーベンは深く頭を下げながら言った。
「私の父は昨年、チフスに罹って亡くなりました。」
突然のルーベンの告白に、ベアトリスは十字を切って祈った。
「お気の毒に。永遠の安息を彼にお与えください。永遠の光が彼を照らしますように。彼が安らかに眠れますように。アーメン。」
ベアトリスもまた敬虔なカトリック信者だったため、まず神に祈りを捧げた。
「ありがとうございます、お嬢様。」
「ええ。それでは、続きを話してみなさい。」
「そうして父が亡くなり、私もまたチフスに罹りました。」
「幸い、お前は克服できたようね。」
「はい。主の祝福によって病には打ち勝つことができましたが、部分的な記憶喪失になりました。熱があまりにも高く上がったせいだそうです。」
「記憶喪失? 今も記憶が完全ではないの?」
「その通りです。このようにお茶を淹れる知識や、偉大なるアルバ公爵家に関することなどはよく思い出せても、どうしても父や母、家族との思い出を思い出すことができません。」
この話はいったいどこへ行き着くのだろうか。カバンスとフリアは、次第に話へ引き込まれていくように感じた。
「私を診察した医師によれば、幼い頃に経験したことをもう一度体験したり、思い出の場所を見たりすれば、記憶が戻るかもしれないとのことでした。」
ぽた。ぽた。
ルーベンの目元から、大粒の涙が流れ始めた。
「ですから、お断りするしかなかったのです。故郷のビーゴを離れれば、母や父との思い出を永遠に失ってしまうような気がしました。」
「ああ……。」
侍女のフリアは、思わず嘆息を漏らした。
宝石を彫り上げたかのように美しい少年。
少年の容姿と悲しい事情、頬を伝う涙が相まって、まるで一幅の聖画のような雰囲気を醸し出していた。
「そ、それなら、そう言えば…………。」
カバンスも気まずそうに後頭部を掻いた。
そして、そんな二人の姿を見たルーベンは、自分の言い訳がしっかり通じていることを感じた。
『よし、やっぱりお涙頂戴だ。』
この時代に最も効果的な言い訳は二つだった。
主と家族。
ベアトリスもまた、この題目から逃れることはできなかった。
「……お前の話を聞いてみると、私があまりにも性急だったと思うわ。ごめんなさい。」
「とんでもございません。私ごときが、どうしてお嬢様から謝罪を受けられましょうか?」
「それなら、お前をビーゴ地域に住まわせさえすれば、私の後援を受けるという意味だと理解してもいいかしら?」
これこそルーベンが望んでいた答えだった。
『まったく、この一言を聞くために大芝居をしたものだ。』
ルーベンは感激した声で言った。
「もちろんです。記憶を取り戻せるよう、ビーゴ地域に滞在させてさえいただければ、お嬢様のために全力を尽くしてハーブを作ります。」
「いいわ。話が出たついでに、すぐ契約書を作成しましょう。」
「取るに足らない私の事情をご配慮くださり、ありがとうございます、お嬢様。」
この時代、貴族は芸術家や自然哲学者を後援する際、公式文書を残した。
その内容には、仕事の範囲と条件、後援金と支払い方法、作業期限などさまざまなものがあったが、最も重要なのは著作権および所有権だった。
すなわち、第2ラウンドの始まりだった。
『まだ油断するな。この契約で、できる限り良い条件を引き出さなければ。』
ほかはともかく、乾燥方法だけは何としても秘密にしなければならなかった。
低温乾燥を一生秘密にしておくことはできなくても、秘密が保たれる期間を延ばし、最大限稼がなければならなかったからだ。
「大学に通っているか、入学する予定はあるの?」
「いいえ、ありません。」
後援金において、大学に在籍しているかどうかは非常に重要な基準だった。
正当な理由もなく大学へ通わなかった者に、大学に通っている者や卒業した者よりも多額の後援金を与えることはできなかった。
大学を出た社会の権力層が知れば、大騒ぎになるからだ。
ベアトリスはしばらく考えてから言葉を続けた。
「それなら、毎年30エスクードずつ、3年契約にしましょう。」
「え? そ、そんなに多くですか?」
一度きりの後援ではなく、3年間の定期後援だった。
しかも、その金額も予想以上に莫大だった。
30エスクードは、通常なら大学を卒業した者が受け取る平均的な後援金だった。
『大当たり! 大当たりだ! 運が良ければ10エスクードくらいだと思っていたのに、その3倍だ!』
そのうえ、貴族から受け取った後援金には税金もかからなかったため、純粋にルーベンの取り分だった。
フリアも驚いたのか、ベアトリスに尋ねた。
「お嬢様。あまりにも多すぎるのではありませんか?」
「その代わり、ビーゴまで運ぶのは難しいから、材料や作業に必要な工房、道具などはお前が自分で用意しなければならないわ。」
ベアトリスも何も考えずに30エスクードと言ったわけではなかった。
ルーベンがトレドへ来ない以上、ハーブの材料を直接供給するのは難しかった。
乾燥させた後ならともかく、乾燥前の状態でトレドからビーゴまで輸送すれば、カビが生える可能性が高かったからだ。
「ありがとうございます、お嬢様。」
「それから、一つ条件があるわ。」
『来るべきものが来たな。』
おそらく著作権と所有権に関する話だろう。
茶葉は消耗品だったため、おそらく製造技術に関する内容のはずだ。
これが後援契約の中で最も重要な内容だった。
「拝聴いたします。」
「私たちアルバ家は、後援する者の技術を欲しがったりはしないわ。」
「はい、ありがたいお言葉です。」
ルーベンも乾燥方法を教えろと言われた場合は、貴族たちのこうした名誉を持ち出すつもりだった。
「でも、お前がトレドにいないのなら、お茶を直接淹れてはくれないでしょう?」
「はい、その点については改めてお詫び申し上げます。」
「だから、その……。」
果たして、公爵令嬢は何を要求するのか。
ルーベンは唇が乾くような心地で、お嬢様の言葉を待った。
「ハーブと砂糖の配合比率を教えてほしいの。」
『え? 本当に? それだけでいいのか?』
ハーブの配合比率なら、言われなくても教えるつもりだった。
ハーブを薬効ではなく味を考えて組み合わせるという発想の転換さえあれば、いくらでも見つけ出せたからだ。
その発想の転換は、すでにルーベンが見せたため、誰でも容易に思いつくことができた。
『一日時間を取って、力仕事みたいに片っ端から試せば、十分見つけられることなのに。』
ハーブは安価ではなかったため、一般の平民には難しくても、貴族の助けがあればいくらでも可能なことだった。
「承知いたしました。」
「それからブルーミングティーのことよ。それはアルバ家と、家門の直系から許可を得た者以外には、誰にも見せてはならないわ。」
これも難しいことではなかった。
ブルーミングティーになるよう乾燥させること自体も簡単ではないうえ、秘密のメニューとして残しておくつもりだったからだ。
『簡単だ。簡単すぎる! 思ったよりずっと良い取引ができた!』
その後、納品する種類や量に関する内容は、できる限りベアトリスに合わせて進めた。
ルーベンは知らず知らずのうちに口元が緩まないよう、かなり気をつけなければならなかった。
***
ルーベンは3日間オウレンセ大聖堂に滞在した後、家へ帰った。
帰り道はベアトリスが私兵をつけてくれたため、安全に戻ることができた。
「母さん、ただいま。」
息子の声に、エレナは叫びながら駆け出してきた。
「ルーベン、帰ってきたのね!」
嬉しさのあまり扉を開けて出てきたエレナは、ルーベンと一緒にいる兵士たちを見て、飛び上がるほど驚いた。
「ま、まさかアルバ家の方々ですか?」
エレナの問いに、最も階級の高い者が答えた。
「ここへ来る途中、いろいろとお話を伺いました、エレナ夫人。」
「うちの息子が何か過ちでも犯したのですか?」
そうでなければ、この状況は説明できなかった。
しかし、兵士は微笑みながら答えた。
「まさか。私どもは、ベアトリスお嬢様の後援を受けるルーベン様の護衛として同行したのです。」
「こ、後援ですか?」
「詳しい話はルーベン様となさってください。私どもは先を急ぎますので、このまま失礼いたします。」
「遠いところを来られたのですから、お食事でもしていってください。」
「お気持ちはありがたいのですが、次の合流地点まで向かうには時間が差し迫っておりますので、すぐに出発しなければなりません。」
エレナは兵士たちが去った後も、しばらく呆然とした表情で彼らを眺めていた。
「僕、疲れました。早く中に入って休みましょう!」
「そ、そうね。早く入って、何があったのか話してちょうだい。」
ルーベンはテーブルに座り、ベアトリスとの後援について話した。
エレナは信じられないという表情で尋ねた。
「3年間、毎年30エスクードずつですって?!」
ルーベンはベアトリスから受け取った金を見せながら言った。
「アルバ家だからか、すぐ現金でくださいました。僕も思ったより条件が良くて驚きました。」
「本当に良かったわ。本当に良かった。最初に兵士たちを見た時は、どれほど驚いたことか。それより、聖堂では大変ではなかったの?」
聖堂での日課といえば、ミサに参加し、司教とベアトリスに一日二、三度お茶を淹れることだけだった。
それ以外の残った時間は、図書館にこもって本ばかり読んでいた。
「大変だなんて。あまりにもよく食べたから、太った気がします。」
「そうね、頬に少し肉がついたみたい。」
ルーベンは自分の頬をつまむエレナに言った。
「それより母さん。明日の夕方、聖堂に村の人たちを全員招いて、パーティーを開きたいです。」
「パーティー?」
「アルバ家から後援も受けたんですから、一度もてなさないと。」
もちろん、単にそれだけが理由ではなかった。
『元手もできたことだし、いよいよ本格的に事業を拡大する時だ。』




