007話. 後援(1)
ベアトリスだけでなく、司教を含めて花が咲く場面を目にした者は皆、驚愕した。
司教でさえあまりの出来事に言葉を失っていると、ベアトリスがルーベンに尋ねた。
「こ、これはいったいどうやったの? しおれていた花が生き返るなんて! ルーベン、まさか魔法使いだったの?」
『まずい、なんでそっちの発想になるんだ! この時代で魔法使いは危険なんだ!』
ルーベンは素早くベアトリスの誤解を解いた。
「違います。花茶を研究している途中で見つけた技法です。ブルーミングティーと名付けました。」
「技法? お前以外にも、こんな芸当ができる者はいるのか?」
驚いたベアトリスは、息継ぎするのも忘れたまま、機関銃のような勢いでまくし立てた。
「私の知る限りでは、おりません。」
ブルーミングティーは20世紀後半、中国・雲南地方で初めて生まれたものだった。
当然、ルーベン以外の人間は、作り方どころか、こんなものが存在することさえ知らないはずだった。
「これを本当にお前が自分で作ったというのか?」
到底信じられなかったベアトリスは、もう一度尋ねた。
「はい、その通りです。」
「本当にすごいわね。どんな味なのか気になるわ。」
どうやら興味を惹かれたらしい。
『くそっ、火あぶりは回避できた。』
ルーベンは心の中で安堵のため息をついた。
本来ならすぐにお茶を飲んでいたベアトリスだったが、司教がいたため彼の方を見た。
「お嬢様のために用意されたお茶です。どうぞお嬢様からお召し上がりください。」
「ありがとうございます、司教様。」
ベアトリスは花びらが傷つかないよう慎重にカップを持ち上げ、お茶を口にした。
そして、あまりの驚きに目を大きく見開いた。
ベアトリスはそのまま無言でハーブティーを立て続けに飲んだ。
その間に司教もお茶を味わった。
「ほほう。これはハーブティーというより、新しい飲み物を飲んでいるような気分だ。実に美味しい。」
ベアトリスもすぐに同意した。
「酸味がありながら甘みもあって、司教様のおっしゃる通り、ハーブティーという感じではありません。」
予想通りの反応だったが、実際に満足してくれる姿を見て、ルーベンは心の中で快哉を叫んだ。
『ちょうど甘酸っぱい味が好きな年頃だからな。』
ベアトリスの満足そうな様子を見て、司教は笑いながら言った。
「お嬢様のお気に召したようで何よりです。」
「このような素晴らしいお茶を味わわせてくださった主と司教様に感謝いたします。」
『俺は? お茶を淹れたのは俺なんだけど?』
「ほほう、お褒めにあずかり光栄です。ところでルーベン。」
「はい、司教様。」
「急いで来たせいで、食事も満足に取っていないだろう。バナトニと一緒に食事をして、少し休んではどうかな。」
「ご配慮ありがとうございます、司教様。」
ルーベンが答えると、バナトニは司教とベアトリスに挨拶をしてから、ルーベンを連れて司教室を後にした。
『なんだよ、報酬は? 俺の二人目の味方は? このままお茶だけ飲んで終わりじゃないよな?』
香り高いお茶の余韻が鼻先に漂う穏やかな空気。
焦っているのはルーベンだけだった。
***
バナトニと共に向かった先は小さな部屋だった。
装飾品のような贅沢品はなかったが、きれいに整えられていた。
バナトニはテーブルの椅子に腰掛けながら言った。
「座りなさい。」
「あ、はい。」
「しばらくの間、お前が過ごす部屋だ。不便はないだろう。」
部屋の状態だけ見れば、もともとのルーベンの部屋よりずっと良かった。
ベッドと机はもちろん、油がたっぷり入ったランプまで備えられていたからだ。
問題は『しばらく』という言葉だった。
「しばらくとは、どれくらい滞在するのでしょうか?」
「司教様が食事を勧められたところを見ると、お前を気に入られたようだな。」
「それは良かったです。」
「おそらく急ぎの用事が終われば、お前を別に呼ばれるだろう。それまでここで過ごせばよい。」
司教からの面会の申し出。
ルーベンはようやく心の中で快哉を叫んだ。
『よし! そうだよな。このまま何事もなかったように終わるなんて筋が通らない。』
司教が自ら食事を勧めるのは、一種の合図だった。
しかし、一般の平民にここまでの厚意を示したことはほとんどなかったため、バナトニも少し驚いていた。
その時、ノックの音と共に声が聞こえた。
「お食事をお持ちしました。」
「入りなさい。」
しばらくすると、司祭服を着たルーベンよりもずっと幼い子どもたちが料理を運び始めた。
『修道院で暮らしている子どもたちかな? それにしても、ずいぶん豪華な献立だ。』
ローストビーフにラムシチュー、パンやさまざまな野菜がテーブルに並べられた。
そして最後にワインの瓶を置くと、子どもたちは声を揃えた。
「主がこの食事を祝福されますように。どうぞ召し上がってください。」
「うむ、ありがとう。」
バナトニの言葉に、子どもたちは背筋を伸ばしたまま後ろで待機した。
「喉が渇いてはいけないから、まずはワインを一杯飲もう。」
この時代のヨーロッパには飲酒年齢制限など存在しなかった。
飲み水が汚染されている可能性があったため、水の代わりにワインやビールを飲むことは珍しくなかった。
特にカトリックではワインは神聖なものとされ、ミサの最中に口にすることも多かった。
もちろん高価な酒であるため、田舎の村や小さな教会ではワインを水で薄めて飲んでいたが。
『ああ、酒は飲みたくないんだけど……。』
アルコールが成長に良くないことを知っていたルーベンは、家では水を沸かして飲んでいた。
だが、司祭から勧められたワインを断るわけにもいかなかった。
「ありがたくいただきます。」
ごくり。
『……思ったより悪くないな?』
仕方なく飲んだものの、この体でこれまで口にしたワインの中では断然一番だった。
ルーベンが一口飲むと、バナトニが尋ねた。
「聖餐式や聖体拝領の時に飲んだワインと比べるとどうだ?」
聖餐式は礼拝の重要な一部であり、最後の晩餐を記念する儀式だった。
そのたびにパンとワインを口にしていたが、その時の水で薄めたワインと比べれば、これは実に素晴らしかった。
「いつもの聖餐式でいただくものとは違い、とても濃厚な葡萄の香りを感じます。」
「そのはずだ。普通、小さな村の教会ではワインを水で薄めて飲むからな。だが、このワインはオウレンセ大聖堂で直接栽培した葡萄から造られたものだ。」
その言葉に、ルーベンは感激した表情で十字を切った。
「アーメン。」




