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006話. 金づる(2)

家へ戻ったエレナは、ルーベンを問い詰めた。


「ルーベン! いったいどうするつもりで、あんなことを言ったの? アルバ家がどんな家なのか分かっているの?」


『知らないはずがありません。たぶん僕の方がお母さんより、ずっと詳しいですよ。』


司祭は名前を口にしなかったが、その令嬢の名前まで知っていた。


ベアトリス・アルバレス・デ・トレド・イ・エンリケス・デ・グスマン。


『鉄の公爵の一人娘だ。年齢は僕と同じくらいか、一、二歳上かな?』


生まれた時期の記録が残っていなかったため、正確な年齢は分からなかった。


だが、彼女が後に誰と結婚し、いつ亡くなったのかまで知っていた。


スペイン史において、アルバ家は切り離せない存在だったからだ。


「はい、図書館で読んだので知っています。現在のアルバ公爵様は、国王陛下の代父ですよね。」


「はあ...それを知っている子が、どうして恐れもせずに!」


「どうせ大きな商団を作ることになれば、いつかはアルバ家とも取引することになるじゃないですか。」


「それはそうだけど................」


危険だという理由で諦めるには、それなりに勝算のある勝負だった。


聖像を破壊したという理由で数千人を虐殺したアルバ公爵だったが、彼は敬虔なカトリック信者だった。


歪んだ思想の持ち主ではあったものの、カトリックの教理にきちんと従いさえすれば、危害を加えられることはないと見ても差し支えなかった。


『僕に信じる神がいるわけでもないし、カトリック信者のふりくらいすればいい。』


金がかかるわけでもなく、難しいことでもなかった。


「僕も気をつけますから、あまり心配しないでください。明日は準備することが多いので、今日は早く寝ます!」


ルーベンはそう言い残し、素早く部屋へ逃げ込んだ。


エレナはその場に立ったまま、息子が入っていった部屋を長い間見つめた。


なぜか、懐かしい既視感を覚えた。


『記憶も完全ではない子が、どうしてあなたとこんなにそっくりなのでしょう。やはり血は争えないのですね。』


母親として、心配せずにはいられなかった。


だが、息子の成長を見守ることは、思っていた以上に喜ばしいことでもあった。


エレナは心配と喜びを込めて祈りを捧げた。


『主よ、そしてあなた。どうかルーベンと共にいてください。あの子が安全でいられるように、そして自分の志を存分に広げられるように。』


夜風が心地よい深夜。


彼女の祈る声は、真夜中を過ぎるまで流れ続けた。


***


ルーベンに与えられた時間は二日。


司祭と共にオウレンセ大聖堂へ向かう前に、ローズヒップの実を乾燥させなければならなかった。


葉や花に比べて、実は水分が多いため時間がかかった。


それほど余裕のある日程ではなかったため、エレナの力を借りることにした。


ルーベンは洗ったローズヒップの実で手本を見せながら言った。


「こんなふうに真ん中をぐるりと切ってから、種を取り除いてください。」


エレナは最初こそ不慣れだったが、すぐに慣れた。


「それにしても、ローズヒップの実を使うなんて、どうして思いついたの?」


「ハーブも最初は薬として使っていたじゃないですか。」


「そうね。」


「ローズヒップの実も薬として使うなら、お茶にもできるんじゃないかと思ったんです。」


もちろん、前世の記憶で知っていただけだった。


だが、エレナはそんな息子の創造力に驚いた。


「本当ね。どうして今まで誰も、ローズヒップの実をお茶にして飲もうとは思わなかったのかしら?」


「たぶん実だから、乾かすのが難しかったんじゃないですか? あるいは、酸っぱすぎるからかもしれません。」


「そうかもしれないわね。でも、実際にお茶にしたら、どんな味になるのかしら?」


「たぶん、そのまま食べる時と同じで、かなり酸っぱいと思います。」


ローズヒップの実には、同じ量のレモンより10倍以上多くのビタミンCが含まれていた。


この時代の人々の口には合わない可能性が高かった。


「それなら、ご令嬢はあまり気に入らないんじゃない?」


「もちろん、うまく組み合わせます。だから今回は、砂糖も少し買おうと思っています。」


カモミールの柔らかさで酸味を和らげ、砂糖を加えて、この時代の人々でも楽しめる甘酸っぱい味を作るつもりだった。


非常に高価な砂糖だったが、司教と令嬢の心をつかめるのなら惜しくはなかった。


「うちの息子は、本当に賢いわね。」


「お母さんの言うとおり、本を一生懸命読んだからです。」


「母さんも幼い頃は本をたくさん読んだけれど、こんなことは思いつかなかったわ。」


「そうですか?」


自分で考えたものではなく、前世の知識だったため、ルーベンは笑って軽く受け流した。


用意したローズヒップの実からすべて種を取り除いたルーベンは、オーブンに布を敷き、乾燥の準備をした。


『それでもオーブンが残っていてよかった。まあ、これを取り外して売っても、人件費の方が高くつくだろうけど。』


この時代、オーブンは高価な調理器具だった。


そのため、平民は普通、村の共同オーブンを使用した。


幸い、かつて裕福な家だったルーベンの家には、オーブンがあった。


「オーブンを使ったら、焦げてしまわない?」


「今回も葉や花を乾かした時のように、弱火でやります。」


「それなら、時間がかかりそうだけど?」


「それでも自然乾燥よりは、ずっと早いです。」


現代のオーブンで適切な温度を維持しても、十分に10時間はかかる作業だった。


それでも、貴族と司教とのつながりを作っておくためには、やらなければならなかった。


『温度を合わせるのが、本当に面倒だな。』


50度から60度ほどを維持しなければならないため、オーブンの中の温度を感じながら、火をたびたび動かす必要があった。


その時、エレナが隣に座って言った。


「ルーベン、ご令嬢にお会いしたら、絶対に顔を上げてはいけないわ。あなたもよく分かっているでしょう?」


「もちろんです。」


この時代、平民が貴族と目を合わせることは、無礼を通り越して犯罪だった。


ごく一部の事例ではあったが、目を合わせたという理由で死刑にされたという記録まであるほどだった。


「それから、ご令嬢の問いには必ずすぐ答えて、絶対にご令嬢へ質問してはいけないわ。必ず覚えておきなさい。」


「はい、お母さん。肝に銘じます。」


こうした内容は前世の記憶だけでなく、肉体にも刻み込まれていた。


平民なら、幼い頃から当然のように受ける教育だったからだ。


「それから、聖堂の中では、決められた場所以外へ絶対に入ってはいけないわ。」


「心配しなくても大丈夫です。本当に気をつけます。」


「そうね。うちの息子なら、きっと上手にできるわ。」


賢い息子なのだから、自分でうまくやるだろうと思っていたが、不安になるのは仕方がなかった。


相手がアルバ家だったからだ。


***


ルーベンはぎりぎり、オウレンセへ出発する前に乾燥を終えることができた。


海岸に位置するビーゴから東のオウレンセまでは、馬車でおよそ二日の距離。


そうしてルーベンは、司祭と共に大聖堂のあるオウレンセ中心部へ到着した。


『前世でも来たことのない場所なのに、こんな形で来ることになるとは。』


それでも、オウレンセについての情報はある程度持っていた。


その情報を基に、町と人々を観察した。


『やっぱりワイン農園がある土地だからか、人々の表情が明るいな。』


オウレンセのワインは、現代でも有名な方だった。


この時代のワインは現代とは比べものにならないほど高価だったため、建物はもちろん、道まできれいに舗装されていた。


懐に余裕があれば心にも余裕が生まれるというように、人々の表情も比較的穏やかに見えた。


周囲をきょろきょろ見回しているルーベンに、バナトニ司祭が言った。


「建物も人も多いだろう?」


「あ、申し訳ありません。僕たちの村とはあまりにも違うので、つい.........」


慌てて謝るルーベンに、バナトニは慈愛に満ちた笑みを浮かべて言った。


「咎めようとしたわけではないよ。次にいつ来られるか分からないのだから、よく見ておきなさい。」


「ありがとうございます。」


そうして町を見物しているうちに、オウレンセ大聖堂へ到着した。


『うわ。いったい、こんな建物を12世紀にどうやって建てたんだ?』


まだバロック様式が花開いた時代ではなかったため、華麗な装飾や躍動的な姿は見られなかった。


それでも、バロック様式が加えられる前の聖堂を見る楽しみは格別だった。


『ロマネスクとゴシック、それにルネサンス様式までしか取り入れられていない姿なんて。これを直接見た現代人は、僕だけだろうな。』


高い天井に尖頭アーチ、ステンドグラスの窓、フライング・バットレス(flying buttress)というゴシック様式を見ていると、ここが16世紀のスペインだということを改めて実感した。


その時、フルプレートアーマーを身につけた者たちが、ルーベン一行へ近づいてきた。


『うわ。ものすごく光っているな。それにしても、宗教改革の勢いが相当激しいみたいだ。大聖堂で完全武装しているところを見ると。』


16世紀は、宗教改革と対抗宗教改革が盛んだった時代でもあり、まもなくアルバ家の令嬢が訪問する予定だったため、警備が厳重になっているようだった。


彼らは規律正しい姿勢で頭を下げながら言った。


「バナトニ司祭様にご挨拶申し上げます。」


「お会いできて嬉しいです、兄弟ブラザー。司教様にお目通りできますか?」


「ちょうど司教様がお待ちになっておられます。」


「私をですか?」


「はい。ベアトリスご令嬢が予定より早く到着されましたので。」


返答を聞いたバナトニは、同行していた護衛兵たちに言った。


「これまでご苦労さまでした。主の祝福がありますように。」


「いいえ。ご一緒できて光栄でした。」


護衛兵たちを労ったバナトニは、フルプレート姿の兵士に言った。


「それでは参りましょう。」


「はい、ご案内いたします。」


ルーベンは、バナトニと護衛兵の後をついて司教室へ向かった。


「バナトニ司祭様が到着されました。」


「早くお通ししなさい。」


中には、思っていたより多くの人々がいた。


『ここからは緊張しないと。絶対に目を伏せたまま。』


ルーベンは深く頭を下げたまま、バナトニの踵だけを見て歩いた。


「バナトニ兄弟ブラザー。遠いところ、ご苦労さまでした。」


「いいえ。私が少しでもお役に立てれば幸いです。」


兄弟ブラザーは、我々オウレンセ大聖堂になくてはならない存在ですからね。それはそうと、こちらがアルバ家のベアトリスご令嬢です。ご挨拶を。」


バナトニは世俗の方式ではなく、カトリック式に挨拶しながら言った。


「アルバ家のご令嬢、ベアトリス様にご挨拶申し上げます。バナトニと申します。こちらはルーベンです。」


その言葉に、ルーベンは礼を尽くして言った。


「ルーベン・クルーガーと申します。司教様とアルバ家のご令嬢にお目にかかれて光栄です。」


「我々は皆、主の子なのだから、光栄も何もないだろう。さあ、遠路ご苦労だった。」


頭を下げていたため、人々の腰元までしか見えなかった。


ところが、アルバ家の令嬢であるベアトリスの隣を守って立つ者の腰元に、興味深い品を見つけた。


『お? ホイールロック式マスケットか? しかも拳銃だ。』


単に火縄へ火をつけて銃を発射するマッチロック方式とは違い、ホイールロック方式は、鋼鉄製の車輪であるホイールを回して火花を起こす形へ改良されていた。


だが、マッチロック方式に比べて製造が難しく、はるかに高価だった。


そのため、ホイールロック方式のマスケットは貴族たちの専用品だった。


しかも、この時代の拳銃は実用よりも誇示のためのものに近かった。


『ベアトリスと一緒に来た貴族みたいだな。』


そうして密かに情報を集めている最中、女性の声が聞こえた。


間違いなく、ベアトリスの声だろう。


「司教様がおっしゃっていた少年ですか? 特別な方法でハーブティーを作るという。」


「そのとおりです。」


ベアトリスに答えた司教は、続いてルーベンに尋ねた。


「ルーベン、遠い道のりで疲れているだろうが、茶を淹れてくれるか?」


突然の提案だったが、特に難しいことはなかった。


「はい、ポットと温かいお湯だけ用意していただければ、すぐにできます。」


「分かった。」


司教の言葉が終わると、修道女らしき者がポットを載せた盆を持ち、ルーベンの前に立った。


ルーベンは荷物の中から、ローズヒップの実、カモミール、砂糖が入った瓶を取り出し、慎重にポットへ入れた。


そしてポットの蓋を閉じながら言った。


「1分後にお注ぎいたします。」


「分かった。頼む。」


1分も経たないうちに、司教室へ爽やかな香りが広がった。


ハーブティーを好んで飲んでいたベアトリスでさえ、初めて嗅ぐ香りだった。


「ルーベンと言ったか?」


「はい、ご令嬢。」


「どんな材料を使えば、このような香りになるの?」


材料を隠すつもりはなかった。


どうせ事業が拡大し、本格的に材料を仕入れるようになれば、誰もが知ることになる事実だった。


もちろん、乾燥方法は徹底的に隠すつもりだったが。


「ローズヒップとカモミール、それから砂糖を少し加えました。」


「ローズヒップの実? それは、食べるのが難しいほど酸っぱい薬ではなかった?」


「はい、そのとおりです。ですから酸味を和らげるため、僕が特別に考えた組み合わせです。」


「賢いのね。早く味わってみたくなったわ。」


「今、お注ぎいたします。」


ルーベンは頭を下げたまま、司教とベアトリスが座っているテーブルへゆっくり歩いていった。


そして、ガラスのカップへ慎重に茶を注いだ。


「まあ? 色が本当に綺麗ね。」


聖堂の露店で使っていた陶器のカップではなく、透明なガラスのカップへ注いだため、ローズヒップとカモミールが混ざった桃色が、そのまま見えた。


「ありがとうございます。」


ルーベンが二つのカップへ茶を注ぐと、ベアトリスが言った。


「このまま飲めばいいの?」


「まだです。」


ここでルーベンは、今回の対面のために用意した最後の切り札を取り出した。


特に念入りに乾燥させたカモミールの花を、それぞれのカップへ三つずつ落としたのだ。


ベアトリスは、カップの上に浮かぶ花を見ながら、不思議そうな声で言った。


「この花は、どうして―」


だが、最後まで言い終えることはできなかった。


つい先ほどまで乾いて縮れていたカモミールの花が、魔法のように咲いたからだ。


「まあ!」


「おお、これは.......」


『カフェは雰囲気。サービスは演出。』


将来の金づるに深い印象を刻み込むための、ルーベンの奥の手だった。




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