003話. 低温乾燥
ローズヒップを確認したルーベンは、庭をゆっくり歩きながら、あちこちに生えている植物を確かめた。
名前も分からない雑草が大半だったが、ところどころに見覚えのあるものがあった。
「いやあ、ローズヒップにカモミール、レモンバーム、それにタイムまであるぞ?」
どれもただ自生しているものだった。
単に手入れされていない庭だと思っていたが、次第にここが宝物庫に見え始めた。
「ローズヒップの実がまだ熟していないのは残念だけど、他のやつらは今がちょうど採り頃だ。」
この中では、レモンよりも多くのビタミンCを含んでいるローズヒップの実が本命だった。
だが、まだ実が完全に熟していなかったため、他の植物の葉と花だけを採取することにした。
家の中へ入り、葉と花を入れるのに適当な器を探した。
「試しに少量だけ作るんだから、これくらいでいいだろう。」
ルーベンは形が崩れないよう慎重に花と葉を摘み、器に入れた。
レモンバームとタイムは花と葉の両方を採取し、カモミールは花だけを採取した。
器を満たしたルーベンは、水桶が保管されている部屋へ向かった。
「松脂のピッチで防水処理した水桶か? それにしても、水も節約して使わないとな。」
記憶を確かめると、井戸は家からそれほど遠くない場所にあった。
だが、現代の水道設備と比べれば、それもまた重労働。
ルーベンは改めて水道設備の偉大さを実感しながら、ハーブの葉と花を丁寧に洗った。
そうして、すでに数十分。
「くそっ、首が痛い! これをいつまで一つ一つ洗っていればいいんだ。」
現代なら洗浄だけでなく、紫外線やオゾン、蒸気殺菌まで機械が一度に処理してくれた。
だが、今のルーベンが使えるものは、自分の労働力だけだった。
「仕方ないだろ、ないものはないんだから。それでも、これは全部金だ、金。」
***
エレナは夕焼けが差す頃、家に帰ってきた。
「お帰りなさい。」
エレナの両手には、さまざまな食材が抱えられていた。
「具合が悪くなったりはしなかった?」
ルーベンはエレナの荷物を受け取りながら答えた。
「はい。神父様は何とおっしゃっていましたか?」
エレナは肉を指さしながら答えた。
「幸い、腕は鈍っていなかったわ。神父様が私たちの気の毒な事情をご存じで、10レアルを前払いしてくださったの。」
レアルはスペインの銀貨で、16レアルが集まると、金貨である1エスクードになった。
今はスペインが最強国だった時代なので、ヨーロッパの基軸通貨として有名なヴェネツィアの金貨ドゥカートよりも価値が高かった。
したがって、10レアルは平民の基準ではかなりの大金だった。
「よかったですね。」
「そのおかげで、食材を少し買ってきたの。それから、うちのルーベンも次の日曜日のミサまで異常がなければ、聖堂へ来てもいいとおっしゃっていたわ。図書館の利用許可もいただいたし。」
「わあ、ありがとうございます!」
エレナはルーベンの頭を撫でながら言った。
「感謝するなら、母さんではなく主にしなさい。」
『百歩譲って、図書館を使わせてくれた神父様までなら理解できるけど。』
だからといって、それを表に出すことはしなかった。
「はい、必ず感謝のお祈りを捧げます。それから、台所にハーブの材料を洗って置いてあります。」
「ハーブ?」
「お母さんにお茶を淹れてあげたくて。」
正直に言えば金が目的だったが、適度な建前は皆を喜ばせるものだ。
「まあ、ルーベン!」
ぎゅっ!
エレナは愛しくてたまらないというように、ルーベンを強く抱きしめた。
「え、ええと.......」
「うちのルーベンは本当に優しい子ね。でも最近は天気があまりにも湿っているから、きちんと乾く前にカビが生えるわよ。」
ハーブの葉を作る方法は、中世にも広く知られていた知識だった。
金属活字まで作られた時代なのだから、誰もが知っていると言っても差し支えなかった。
だが、彼らが知っている方法は自然乾燥だけだった。
『自然乾燥が味と栄養の面では最高ではあるけど。』
だが、自然乾燥には弱点が多かった。
まず、必ず日陰で乾かさなければならないこと。
日光で乾かせば、香りも栄養分もすべて飛んでしまい、茶葉ではなく、ただの枯れ葉になってしまうからだ。
そして、ルーベンが住むガリシア地方のような湿った場所では、カビが生えやすかった。
当然、廃棄する量も多く、どうにか残ったものも味と栄養分がかなり失われた。
だが、ルーベンの方法なら、常に同じ品質を出すことができた。
「だから、僕がいい方法を思いついたんです。」
「どんな方法?」
「弱火でハーブの葉を乾かそうと思っています。」
「どれだけ弱くても、すぐ焦げてしまうと思うけど。」
エレナの言葉が、この時代の常識だった。
「それでも一度やってみたいんです。」
「ルーベン.......」
病を克服した息子が、自分のために何かをしてくれると言うのだから、エレナには断ることができなかった。
「分かったわ。その代わり、母さんが隣で見ているからね。危ないかもしれないもの。」
「はい。今すぐやりたいです。」
「夕食の前までよ?」
「はい。」
ルーベンと一緒に台所へ入ったエレナは、きれいに広げられているハーブの葉と花を見つけた。
「あら? レモンバームとタイムは葉だけを使うのよ。うちのルーベン、勘違いしたのね?」
昔の人々は、ある意味では未開だったが、別の見方をすれば賢くもあった。
カモミールは花に、レモンバームとタイムは葉に栄養分が集中していることを、経験的に知っていた。
そのため、薬材としてカモミールは花を、レモンバームとタイムは葉だけを使った。
後にハーブティーを作って飲むようになってからも、薬剤の伝統が受け継がれ、自然とそれぞれの部位だけを使うようになったのだ。
『僕がそれを知らないはずがないだろ?』
花と葉の部分に、どのような栄養素と化合物が、おおよそどれだけ含まれているのかまで知っているルーベンだった。
それでもレモンバームとタイムの花まで使うのは、花茶を作るためだった。
その方が、より良い香りと鮮やかな色を出せるために選んだ方法だった。
「香りは花が一番強いじゃないですか! だから、お茶を淹れるなら花の方がいいんじゃないかと思ったんです。」
「そう、そうね。まずは、うちのルーベンが考えたとおりにやってみなさい。」
失敗からも学べることがあると知っているエレナは、ルーベンを応援した。
母親の温かな視線を受けながら、ルーベンは片隅に保管されていた火口(Tinder)を炉に入れた。
『不完全燃焼させた亜麻繊維と乾いた樹皮、それに干し草か?』
カチッ、カチッ。
火打石を何度か打ち合わせると、すぐに火がついた。
「ふうー、ふうー。」
小枝と中くらいの太さの薪を入れ、空気を送り込んだ。
火がきちんとついたことを確認した後、あらかじめきれいに洗っておいた鉄製のフライパンを載せた。
次の段階は、鉄製のフライパンを適度に温めることだった。
そろそろ原始的な温度計が作られ始めている時代ではあったが、当然、平民の家にそんなものがあるはずがなかった。
仮にあったとしても、望む温度を正確に把握するのは難しかった。
そんな状況で、ルーベンが選んだ方法は................
すっ―
「まあ、ルーベン! フライパンに手を触れたら危ないわ!」
「まだ温まっていないから大丈夫です。それに、怪我をするほど熱くするつもりもありません。」
低温乾燥に必要な温度は、40度から50度の間だった。
だが、フライパンの上に敷く布がなかったため、それよりも低い温度で行うつもりだった。
『よし、温度はこれくらいでいいみたいだ。』
温度を確かめたルーベンは、カモミールの花を鉄製のフライパンに入れた。
そして調理道具を使い、花が均等に熱を受けるよう、よく混ぜた。
およそ1分ほどその作業を繰り返した後、カモミールの花を元の場所へ戻した。
「もう終わったの?」
「いいえ。花を冷ましてから、温めるのを何度か繰り返そうと思っています。」
「そうなの? こんなこと、どうやって思いついたの?」
『うーん、何と言えばいいかな.................』
茶葉を乾燥させる基本は、水分だけを飛ばすことだった。
熱を受けすぎれば香りと栄養素が壊れてしまうため、途中で冷ます工程が必須だった。
だが、それをそのまま説明するわけにもいかず、適当に言い繕った。
「僕たちも夏に長く外で遊んでいたら疲れますけど、しばらく日陰で休めば、すぐ元気になるじゃないですか! 花びらも同じじゃないかと思ったんです。」
「ほほほ、うちのルーベンは、どうやらお父さんに似たみたいね。」
「父さんにですか?」
「ええ。あなたのお父さんも、あなたみたいに、びっくりするような発想を思いつくことがあったのよ!」
ルーベンの姿に、夫の姿が重なって見えるエレナだった。
『どうにかうまく誤魔化せたみたいだな。』
ルーベンは再び鉄製のフライパンに集中した。
そして適度な温度にした後、冷ましたカモミールの花を鉄製のフライパンへ入れた。
それから再び、1分ほど花を混ぜた。
『うん、香りもいい。』
徐々に香りが立ち上り、花びらが乾燥した形へと整い始めた。
その様子にエレナが驚いて言った。
「え、えっ? 本当に乾燥させたハーブの形になり始めているわ? 香りもそうだし。」
「よかったです。僕もこんなにうまくいくとは思いませんでした。」
当然うまくいくと分かっていたが、エレナの調子に合わせた。
そうしてさらに五回、カモミールの花を乾燥させた後、エレナに言った。
「もうできたみたいです。お母さんから見て、どうですか?」
「とてもすごいわ! うちの息子は本当に天才ね! 夏に作るハーブは、ほとんどカビが生えるのが普通なのに!」
「うまくできたみたいでよかったです。」
「うまくできたなんて程度じゃないわ! 本来なら乾燥させるのに、少なくとも3日はかかるのに、うちのルーベンは10分も経たないうちに作ったみたいじゃない?」
『大したことでもないのに、褒められると気分がいいな?』
もちろん、ルーベンにとっては、それほど満足できる出来ではなかった。
花を包む布がなかったため、冷ますために取り出した時に残った欠片が、少し焦げてしまったからだ。
「ひとまず、一度飲んでみますか?」
「そうしましょう。お湯を沸かして、お茶を淹れるのは母さんがやるわ。うちの息子は少し休んでいなさい。」
場所を代わったエレナは、慣れた手つきで湯を沸かし始めた。
その間、ルーベンは焦げたものをできるだけ選り分けた。
しばらくして、エレナはルーベンが作ったカモミールの花を抽出し、二つのカップへ注いだ。
とくとく。
確かに、香りは合格だった。
「いい香りね。母さんは熱いものに慣れているから大丈夫だけど、ルーベンは少し冷ましてから飲みなさい。」
「はい。」
ただでさえまだ幼い体だったため、気をつけるつもりだった。
先にカモミールティーを一口飲んだエレナは、感嘆した。
「うん。とても素晴らしいわ。うちの息子は本当にすごいのね。どうやってこんなことを思いついたの?」
「へへ。ありがとうございます。僕も飲んでみます。」
お茶を飲んだルーベンは、やはりかなり物足りなかった。
『予想どおり、少し苦味があるな。』
焦げた部分をできるだけ取り除いたものの、限界があった。
「少し焦げた味がする気がします。」
「この程度なら焦げた味ではなく、少し苦いくらいよ。母さんは十分すごいと思うわ。」
単に息子を励ますための言葉ではなかった。
エレナは本当に、そのお茶に満足していた。
作る過程を除き、味だけを考えても、一般家庭で作ったものとしては非常に見事だった。
だが、ルーベンはこの程度で満足することはできなかった。
「お母さん。このフライパンくらいの大きさのリネン布を手に入れてもらえませんか?」
「それは何に使うの?」
本来なら綿が最適だったが、この時代に綿は、貴族や上流階級が使う贅沢品だった。
インドや中東、エジプトから海を越えて入ってくるものだったからだ。
新大陸でも綿の大量生産が試みられてはいたが、本格的な生産時期は17世紀からだった。
そのため、頼んだのがリネン布だった。
そのリネンも、綿より安いというだけで、かなりの高級品ではあったが。
「それがあれば、この苦味を抑えられると思うんです。」
エレナはしばらく考え込んだ。
リネン布は買えないほど高価なものではなかったが、だからといって安くもなかったからだ。
「母さんは、うちのルーベンに上着を一着買ってあげたいんだけど。」
この時代の平民は、普通はリネン製の上着を着ていた。
下衣と冬用の外套は、羊毛で作った。
「リネン布だけ買ってくれたら、僕がお金を稼いで返します。服も自分で稼いで買います。」
「え? あなたがどうやって、そんなお金を稼ぐの?」
ルーベンはハーブの葉を指さして答えた。
「こいつらでハーブティーを作って、売ってみようと思っています。」
ルーベンの答えに、エレナの目が丸くなった。
そしてすぐに笑い出した。
「うちの息子ったら。誰がお父さんの息子じゃないと言えるのかしら。まず商売することから考えるなんて。いいわ。母さんが投資してあげる。」
夫が去ってから初めて、頼もしさを感じたエレナだった。




