第7話 『忘却の夜に、花ひらく』
静寂に閉ざされた月下の廃墟に、始まりの音が落ちる。
それは浮遊の宙から大地へと、確かに踏み出した私のつま先が鳴らす軽やかな音。
そっと荒廃した城の跡を、割れた石畳の痕跡を、慰撫する音。
大きく息を吸い込み、ゆっくりと目を閉じる。
【魔力視】に映る、胸元の魔力核から全身へと巡るマナ。
その流れを意識しながら、【初級魔力纏】を発動。
これから紡ぐ歌声に、指先に、足先に。私の身体を巡るマナを、薄く、優しく纏わせていく。
「――あぁ」
濡れる薄桃色の唇からこぼれ落ちた高く澄んだ声音。
ただそれだけで、永遠に淀んでいた廃墟の空気が震え、風が生まれた。
《月が流した涙の子の舞に誘われて。忘却の夜が、静かに目を覚まします》
【同調】のスキルが私の歌声をこの夜の静寂と月明かりへと、溶かしていく。
積み重ねられた月明かりの庭の空気が、花々に宿る月明かりが、私に溶け込んでくる。
蒼銀の眼を開き、空に浮かぶ満月へ手を伸ばすように、【浮遊】に支えられ空へとステップを踏む。
くるり、と純白のドレスの裾が翻り。
ひらり、腰まで届く白銀の髪が月光を弾いてきらきらと軌跡を描く。
【舞踊】のスキルに導かれ、遠い過去の記憶を頼りに、夜風と戯れるように舞い踊る。
《地に眠る白き雫が共鳴し、天に取り残された過去が月の祝福に満たされます》
……綺麗。
ステップを踏むたび、歌声を響かせるたび、足元に咲き乱れる幻月花がいっせいに揺れた。
花びらから、ぽろり、ぽろりと零れ落ちるように浮かび上がったのは、純白の光の粒――『幻月花の涙』。
……あら? 1か月もの間、何度も死に戻りながら、指先で一粒ずつ抽出してきたマナの結晶。
それが今は、私が触れることさえなく、歌と舞いに惹きつけられるように生まれてくる。
ぽろり、ぽろり。
ふわり、ふわり。
まるで、自分の意思を持っているみたいに。
無数の白い光が宙へ舞い上がり、私の周りを巡り始めました。
「満ちて、巡って、私と繋がって――」
幻想に満ちた空想の世界が私に取り戻させてくれた、透き通るようなソプラノの歌声に合わせて、無数の白い光が星屑のように私を包み込む。
《空虚なる器に光が宿る。蒼き月明かりは、貴女の命の鼓動となりました》
月明かりのベールを纏い、幾千、幾万の光の粒を引き連れて踊る私の姿は、きっと自分でも見惚れてしまうほど幻想的で。
歌声が廃墟に心地よい風の旋律を生み出し、宙を舞う純白の光たちが、ゆっくりと私の胸元――青く澄んだ『魔力核』へと吸い寄せられていった。
《月が流した涙の子は永遠に共に。これより、貴女は月の愛し子》
舞が、歌が、終わりを迎える。
ちらりと、視界の端にいつか見かけた黒い影。まるでこちらをじっと見つめていたような……。
けれど、私が視線を向けたときには、それはさっと消えてしまった。
ふぁさりと最後に揺れたのは、ふさふさの尻尾みたいにも見えた。
再びの静寂へと戻ろうとする世界を、『行かないで』と名残惜しげに引き留めようとするように。
幽かな音色が、世界を満たし始める。
蒼い月光と、白い幻月花の燐光を慈しむように。
いつになくひっそりと、明度の落とされたウィンドウがこっそりと視界に浮かび上がる。
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ユニーククエスト#1 『忘却の廃墟に零れ落ちた月の涙』
クリア評価:S+
クリア報酬:※以下の報酬SPは、対象スキルの習得・進化に自動充当されます
種族属性が解放されました
『属性:月』が付与されました
SP10を獲得し、スキル[種族特性]:【月の魔吸 Lv.1】 を獲得しました
特殊追加クリア報酬が付与されます:
『属性:華』が付与されました
複合属性が解放され、『複合属性:月華』が追加されました
SP9を獲得し、スキルが進化しました:【歌唱】 ⇒ 【月華の歌声】
SP9を獲得し、スキルが進化しました:【舞踊】 ⇒ 【月華の舞い】
SP10を獲得し、スキルが進化しました:【月の魔吸】 ⇒ 【月華の魔吸】
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視界に浮かび上がった、たくさんの報酬。
『月華』。
私をずっと照らしてくれていた月と、この場所に咲き誇る白い花々。
その二つが重なった、とっても綺麗な名前。
ふふっ……それよりも、今は。
ふと視界の端に目をやれば、そこには見慣れた青いMPバー。
今も確かに減っていってはいるのだけれど。
「すごい。こんなに、ゆっくり」
何もせずにいるだけで、五分ごとに死んでしまっていた私。
何度も、何度も。死んでは生き返って、また死んで。
それでも、諦めずにここまで来た。
そして今。
マナとして零れ落ちる、私の命の煌きが、確かに緩やかになっているの。
まだ、自由に何でもできるわけじゃない。それでも、ようやく。
私、自分の力で、最初の一歩を踏み出せたのね。
嬉しさに、抑えきれない微笑みが浮かんでしまうけれど、無粋な確認も検証も後回し。
今は月明かりに照らされた花園と、幽かに流れる弦楽器の調べを。
この情景を、独り占めできる幸福に浸りましょう。
――あ、でもね。1年前の私に一つだけ言わせて?
『獲得ユニーク解放指針 [非開示]』の制約を設定していなければ、もう少しだけ。
そう、クエスト条件が表示されたりして、楽だったとは思うの。
でも、もしもそうなっていたなら、私らしくない別のクリアに導かれてしまった可能性もあるのかも?
少なくとも、私は今日、この静かな花園で歌ってみようなんて、思いついたかしら?
もう一度、大好きだった舞いを楽しもうなんて、考えたかしら?
それならむしろ、1年前の私を褒めてあげないといけないのかな。
「えへへ、よくやりました、私」
そういえば、明日はU-topiaのゲームサーバーがメンテナンスの日。
公式生配信では、サービス開始記念イベントの結果発表もあるはずですし、いよいよ第2陣のプレイヤーさんたちもやってくるのよね。
まあ、私がほかのプレイヤーさんたちと関わる機会は、まだ当分なさそうですけれど。
それよりも、今は。根を詰めてゲームに勤しんだ、この一か月。
今日くらいは至上の甘露を味わいながら、月明かりに満たされたこの世界を、ゆっくり楽しもうかな。
ちょっとしたご褒美……ね、いいでしょう?
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付録:現在の主人公のステータス
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名前: ルミナティア
LV: 1
種族: 純魔の幻体(系統:魔力受肉体・ユニーク個体)
属性: 月/華 ↑
複合属性:月華 ↑
職業: [未設定]
称号: [未設定]
【ステータス】 ※成長傾向指標
HP: ---(抹消:MPへ統合)
MP: A
STR(筋力): ---(抹消)
VIT(耐久): ---(抹消)
AGI(敏捷): E
DEX(器用): E
MAG(魔力): A
RES(精神): F
LUC(幸運): C
【スキル】 残りSP:0
[種族特性]
【制約:完全魔力体・劣化】、
【概念魔装】、【月華の魔吸 ↑*中級/ユニーク】
【魔力視 Lv.3】、【浮遊 Lv.3】、【魔力飛翔 Lv.5】
[武術系] (未習得)
[魔術系] (未習得)
[補助系]
【同調 Lv1】、【初級魔力纏Lv1】、【初級識別:植物 Lv.2】
【月華の歌声*初級/ユニーク Lv1 ↑】、【月華の舞い*初級/ユニーク Lv1 ↑】
[生産系]
【初級錬金術 Lv.1】、【錬金:抽出 Lv.3】、【錬金:充填 Lv.1】
【装備】
武器1: (未設定)
武器2: (未設定)
頭 :(未設定)
胴 : [概念魔装]純白のワンピースドレス
腕 :(未設定)
脚 :(未設定)
装飾1~14:(未設定)
【保有称号】
称号:最速の死者
称号保有効果:無し (名誉称号)
称号:万の屍を大地に捧げし者 (Lv.3/MAX)
称号保有効果:リスポーン待機時間50%削減
称号:空を染める恋の色 (Lv.5/MAX)
称号保有効果:最大飛行速度5 %上昇、地上疾走最大速度5%減少
称号:抽出名人 (Lv.3/MAX)
称号保有効果:抽出時、獲得アイテム数増加確率50%上昇
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