第4話 『千の屍と、ひと雫の甘露』
むきゃぁぁ~~!!
特例により、VR空間からのフルリモート出席が認められている大学2年次の必修講義。
食事なんていう人類の贅沢は、栄養剤の点滴にとってかわられている私。
あり余るログイン時間の全てを費やす事、はや1週間。
技術の進歩のお陰で、儚い美少女と表現できる程度には体が維持されている事に感謝しかありませんが……。
「腹パン。そう、腹パンです」
ええ。モノ申すくらいでは到底足りません。
出てきなさい1年前の、頭お花畑な私。懲らしめてやらなければちょっと気が済みませんよ?
解決策――と、私が思う、やり直しがきかないであろう挑戦に至る前の確認作業。
その結果が、これらの称号。
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称号:千の屍を大地に捧げし者 (Lv.2)
称号保有効果:リスポーン待機時間30%削減
獲得条件:1か月以内に1,000回死亡し、リスポーン
称号:空に恋焦がれて (Lv.3)
称号保有効果:最大飛行速度3%上昇、地上疾走最大速度3%減少
獲得条件:飛翔に伴う行動により、1か月以内に1,000回死亡
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「ルミナティアもう、お家かえるぅ……」
いけません、思わず泣きごとが。いえ、この身体は常にお家にありますけれどね?
ちなみに同系統称号は上位条件を達成するごとにより高レベルのものに入れ替わって、保有効果も上がっていくみたいです。デメリット効果付きでプレイスタイルに合わない、都合が悪い称号の場合はレベルを上げないように注意が必要ですね。
私は常時ほんのり浮遊した状態で歩いたり飛んだりできるので、実際の地面に足をつける事はまずありません。
そんな状態でも歩いている実感のある、ちょっと不思議な感じですが、身体を動かす神経の活性化にはこれでも問題ないことをママと確認済み。
そんなわけで、『空に恋焦がれて』はかなり美味しい称号ですね。
諸々目途が立てば、どうせならLv.MAXまで上げてしまいたいです。
クエストをくれる住民(NPC)もおらず、倒すべきモンスターというレベルアップの糧もいない。
SP追加獲得の可能性がほぼ絶たれている環境。
到達可能な範囲に宝箱や安易な解決策が落ちていない事も探索済み。
1週間も費やして、初期状態の私にできそうな事は全て試しきったはず。
失敗すればキャラクターリセットでユニーク要素も上限が決まったしょぼい物になるというリスクを孕みますが……。
「女は度胸! いえ、それは違いましたか? いづれにせよ――まずは、これ」
【魔力視】を、あたりに咲き乱れる白く輝く花に向ける。
……うん。やっぱり。
逆に【魔力視】を停止してみると、月明かりに照らされた白い花々はそのままに、花びらを包み込んでいた淡い燐光だけが、ふっと消えてしまうの。
もう一度【魔力視】を使えば、ほら。白い輝きがふわりと戻ってきました。
つまり、この花が纏っている不思議な輝きは、マナそのもの。
そう思って、花の蜜を吸ってみたり――月光に照らされ、そっとお花に唇を添える私は美しかったと思いますよ? ふふーん。果ては花から根っこに至るまで食べてみたりもしましたが、何の意味もないことは検証済み。
初期SP20と、チュートリアル的なクエストのSP1で保有SPは21。
この境遇でこなせるような、SPをはじめとする意味のある報酬が設定されているクエストは他に無し。
発生済みのはずのユニークシナリオの隠されたクエスト内容はわかりませんが……これだけ色々試して駄目なら、そう簡単に行き当たるものでもないはず。
【初級識別:植物】 《必要SP1》
意を決して、習得。
スキルを意識して咲き誇る花を見つめれば。
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名称:幻月花 (げんげつか)
種別:植物
レアリティー:★4 EP
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最低限ですが、一応情報が見えますね。
この切迫した状況で、Lv1では最低限の簡易情報が見られるだけのスキル。
ええ、もちろんわざわざ取得したくなんてありませんでしたとも。
この程度であればインベントリに収納しただけでも、種別以外は見えますからね?
今は命の重さにも等しいなけなしのSP!
ところが、掲示板で調べた情報によると、これから習得する予定のスキルには、少々厄介な条件があるらしいの。
対象をゲームシステム上で正しく識別・鑑定できていないと、そもそもスキルが正常に機能しないんですって。
つまり、必要な準備というわけです。
……うぅ、仕方がないとはいえ、やっぱりちょっともったいない気分。
それはそうと、今のプレイヤーの大半がいる初期フィールドエリアで見かける素材やアイテムは、レアリティー★1 COか、せいぜい★2 UC止まりらしいです。★4 EPがそこら中で育っているだなんて……ここは割ととんでもない場所ですね。
さて、続いて習得するスキルは……実は、調合と錬金術のどちらにするかで、猛烈に悩みました。
どちらも『抽出』というスキルが派生するらしいのですが、その中身が少し違うみたい。
第1陣の同期プレイヤーさんたちが公開してくれていた検証情報によれば、【調合:抽出】は素材から物質的な成分を取り出すもの。それに対して【錬金:抽出】は、マナをはじめとする、魔力的な不思議要素を抽出できるんですって。
……だったら。
私が今、どうしても欲しいのは、この花から零れる白いマナそのもの。
花をそのまま食べても何も起きなかったのだもの。試すなら、やっぱりこちらよね。
【初級錬金術】 《必要SP5》
そして、習得したことで新しく解放されたスキルを、続けてぽちっと。
【錬金:抽出】 《必要SP1》
これで合計7SPもの出費……!
でも、これだけはきっと間違っていない、はず。
両方とれるなら試したかったけれど……。
「選択を間違えてSPが足りなくなれば、そこでお終いですからね……緊張に震えが止まりません」
公式イベントとか周年記念で、SP配布もあるかもしれません。
けれど、ただでさえ他のプレイヤーよりも出足の大きく遅れているこのハードモードルート。そんなのを待てるわけないのです。
掲示板では、高難度ユニークで『詰み』になり、キャラクターリセットしたプレイヤーの嘆きが溢れています。
しかも、やり直しでは積めるデメリットが8万ポイント程度までに制限されるそう。
私が選んだのは、160万ポイント超。
失敗してやり直しても、もう同じ『特別』は手に入らないのよね。
自分が選んだ道……だからこそ慈悲もない……。
スキル欄を開いてみれば、確かに各スキルを習得できています。
あ、一部スキルレベルが上がっている。
1週間の努力も完全な無駄ではなかったとわかって、少しだけ救われますね。
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【スキル】 残りSP:14
[種族特性]
【制約:完全魔力体・劣化】、【概念魔装】、
【魔力視 Lv.2 ↑】、【浮遊 Lv.2 ↑】、【魔力飛翔 Lv.2 ↑】
[武術系] (未習得)
[魔術系] (未習得)
[補助系] 【初級識別:植物 Lv.1】
[生産系] 【初級錬金術 Lv.1】、【錬金:抽出 Lv.1】
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そっと、足元に咲く白い花に指先を添えて……【錬金:抽出】を意識。
他の錬金系スキルは器具がないと使えないらしいのですが、これだけは、お道具不要。
「ん、いけまし……た?」
花が纏っていた白い輝きがほんのりと薄れ。
私の指先に吸い寄せられた薄明かりが、綺麗で小さなまあるい珠を形成しています。
そっとインベントリにしまってみれば、表示されているアイテム名は『★3 (RA=レア):幻月花の雫』。
う、花のレアリティーよりも1段階劣化してる。
でも、試しにまずはそっと口に含んでみましょう。
残り1割を切ったMPをしっかり視界に収めながら……こくり。
上品な甘さが喉を通り過ぎる心地よさ。
うん。
これは確実な前進ですよ!
だって、花の蜜をそのまま吸った時は、味さえ感じられなかったのですから。
それなのに、マナを抽出してできた雫にはちゃんと甘さが、味がある。
つまり、この身体はマナとして取り出したものには何らかの反応を示す、ということよね?
装備を取り込んでマナで再構成する【概念魔装】という種族特性もあるのだもの。物質そのものより、マナとの相性が良いのかもしれない。
「これなら、MPだって……!」
……。
期待を込めてMPバーを見つめますが……。
「これまで通り、がりがりと減少するばかりで変化なしですか」
でも、まずは焦らず。
スキルレベルが低いせいという可能性も大きいですから、MMOらしく反復によるスキルレベル上げです。
地道な繰り返しの先にきっと何かが変わる……はず!
『始まりの街』の東西南北を封鎖するボス最速討伐挑戦で沸き立つ掲示板とか見てません、見てませんから!
なんですか、最速討伐イベントって。
ふにゅう。
うん、まあ、私も一連の公式イベントでは一部チャレンジで上位ランクに行けそうですけれどね。
例えばそう、これ関連とか……喜びづらいですけど。
《死亡しました。7秒後にリスポーンします。Lv1のため、デスペナルティーは免除されます》
もはや見慣れたモノクロの視界。
一歩ずつ前に進むために、無数の私を脱ぎ捨てていくのです。
さあ、こんばんは、新しい私。
――そしてさらに3週間があっという間に過ぎ去り。
U-topiaサービス開始1か月記念公式生放送などというイベントも目前に迫る今日。
「きた! やっときましたよ!?」
『★4 (EP):幻月花の涙』
そう、私のインベントリに燦然と輝く新たなアイテム!!




