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第3話 『私、やっぱり詰んでいませんか?』

 私ことルミナティアはもう、だめかもしれません。


 ハーフアップにまとめた腰までの長さがある艶々の白銀の髪を、今はちょっとしおれさせて。

 ほんのりぷくーっとほっぺを膨らませる私。


 蒼銀の瞳に映るのは、無情で冷酷無比で意地悪なスキル習得画面。


 アーリーアクセス空間でちゃっかり存在を確認しておいた、お目当てのスキルたち。

 習得候補にはちゃんと並んでいるし、解放済みの表示まで付いているの。

 それなのに……。

 肝心の習得ボタンが、どれもこれも無情にグレーアウトされているではありませんか!



【生命⇒マナ変換】 《必要SP1》


 人差し指で、つんつん、ぽちー。


 《HPステータスが存在しません。習得不能》



【MP自動回復】 《必要SP1》


 つんつん、つんつん。


 《マナ生成器官が存在しません。習得不能》



【マナ生成器官追加】 《必要SP10》


 てしてし、てしてし。


 《現在の種族では習得する事ができません。習得不能》



 一応リストでは解放済みになっているという事は、なにかが変化すれば取得できるはず……。


 掲示板で調べた限りでは、前提条件を満たしていないスキルは、そもそも一覧に表示されないらしいの。例えば鑑定系の上位スキルは、下位の識別スキルを何十、何百種類もの対象に使って、初めて習得候補に現れるんですって。


 つまり、候補に表示されているのに取得できない私の場合、原因はやっぱり種族の制約。


 住民に相談すれば習得条件を教えてもらえるそうだけれど……。

 私の場合、プレイヤーや住民どころか、モンスターらしき影すら、視界に入る範囲にいませんが。



 《死亡しました。10秒後にリスポーンします。Lv1のため、デスペナルティーは免除されます》



 さようなら、古い私。

 こんばんは、新しい私。


 いえ現実はまだ午前11時くらいですけれどね?



 幻想的な月下の花園に嫋やかに立ち尽くす美少女。

 それが私。


 ええ、ただ存在しているだけで5分に1回死亡からのリスポーンを繰り返しています。


 さすがにどうしろと?


 巡航速度と呼ぶのでしょうか。MP効率の良い速度で、限界30秒の飛行を各方面に繰り返してわかった事。

 この廃墟、少なくとも地上の見える部分にはモンスターすら見当たらないです。


 気になる場所はいっぱいあるのよ?

 お城にも入れそうだし、崩れた噴水に、教会、図書館らしき建物まで!

 どれもこれも、ファンタジー好きにはたまらない探索スポット!


 ……なのに、私の活動限界が短すぎて話にならないので今は後回し。


 目の前にこんなに素敵な冒険の舞台が広がっているのに、まともに探検することさえできないなんて……。

 うぅ、もったいない。もったいなさすぎるぅ! はっ、今はそれよりも。


「モンスターがいない。つまり、経験値の獲得も多分厳しい……レベルが上がらないのでMP最大値すら今は増やせない。やっぱり詰んでいませんか?」


 いえ、あきらめてはいけませんね。

 できる事がないか、ひとつづつ調べていくのです。


 まずは、私の現状の元凶。

 ユニークポイントを獲得するために設定した、山盛りのデメリット。

 その一部をU-topiaが種族特性としてまとめ上げたものが、【制約:完全魔力体・劣化】なのです。


 この異常だらけのステータスも、その結果というわけね。


 ★ ════════════════════════ ★

 ・HPはMPで代用。身体の維持に常時MP消費[極大]

 ・筋力、耐久ステータス抹消 (関連する装備・スキルの使用不可)

 ★ ════════════════════════ ★


 うーん。HPがないからHPを使うスキルは習得できない。だからって、MPも自力では回復できない。

 ええ、改めて確認しただけで、今すぐ解決できる問題じゃありませんね。


 パス!


 続いて表示されているのは、装備に魔法、それに物理攻撃への耐性に関する制約。


 ★ ════════════════════════ ★

 ・装備したアイテムの『帰属』化(取引・素材への再利用不可)

 ・射出系遠隔魔法の使用制限(放出時のMP喪失過大)

 ・被物理影響(霊体等と異なり、物理攻撃を受ける)

 ★ ════════════════════════ ★


 まず装備の『帰属』化。

 お試しで装備しただけでも取引できなくなるのは、MMO的には結構痛い制約だけれど……獲得ポイントも大きかったし、割と気楽に選んだものなのよね。


 そして、この制約を取り込む形で生成された種族特性の一つが、どうやら【概念魔装】。

 普通の装備をそのまま身に纏う代わりに、私の身体へ取り込んで、自分のマナで再構成して使えるんですって。

 ただし、取り込んだ現物は消えてしまい、元に戻して売ったり、素材に再利用したりすることもできない。


 自分で選んだ制約が、こんな風に新しい種族の仕組みへ組み込まれているのは、なかなか面白いわね。

 けれど――。


「まあ、今は装備する武器すらありませんしね」


 パス!



 射出系の魔法も、マナを身体の外へ放出すれば、それだけ命が削れてしまう。接触魔法や自己強化ならともかく、遠距離攻撃なんて今の私には自殺行為です。これも、まずは生き延びられるようになってから。


 パス!



 ふと、自分の手を見下ろしてみれば、もうじきMPが尽きるせいか指先から少しずつ身体が透け始めています。

 まるで、綺麗なクリスタルガラスで作られたお人形みたい。

 そっと触れてみれば、ひんやりしているけれど、確かに柔らかな感触が返ってくるの。


 本当に不思議な身体ね。


 けれど、こうして透けていくのは、私の命そのものが失われている証拠。

 MPが減っていく理由はわかっている。問題は、どうすればその減少を補えるのか。


 そういえば、ユニークポイントを獲得するために選んだ制約の中に、もう一つ種族特性に組み込まれたものがありました。


 ★ ════════════════════════ ★

 ・致命部位追加 [魔力核]

 ★ ════════════════════════ ★


「……うん。これが一番、気になるのよね」


 この制約を選んだ時に詳細は決められず、ただ致命的な弱点が一つ追加されるというだけでした。

 そして、ユニークシナリオの一部としてこの種族が生成された結果、私の胸元に現れたのが、この命の中枢らしい宝石。

 豊かな谷間からちらり覗く、澄んだ青色の宝石――『魔力核』。


 身体を維持するだけでMPが減り続ける。なのに、マナを自分で生み出すことはできない。

 でも、名前からしていかにも何かありそう。

 制約をユニークの作り込みに取り込んでくれたU-topiaなら、この魔力核を調べることで、ヒントが見つかるかもしれない。


「まずは、マナがどんな風に流れているのか……確かめてみましょう」


【魔力視】を意識して、そっと胸元の青い宝石を見つめてみます。

 澄んだ宝石の奥には夜空に瞬く星々のような、小さな輝きが無数に浮かんでいました。


 きらきら、きらきら。


「……綺麗」


 けれど、肝心のマナの流れは……うーん。なんとなくは見えるけれど、これがどう動いているのか、何を意味するのかまでは分かりません。もっとよく調べられたらいいのだけれど……。


 綺麗な輝きを見つめていると、ふと、アーリーアクセス空間で過ごした1年間の日々が思い出されます。


 いろんな魔法に武器戦闘術を、夢中になって練習したものです。

 でも、あの時はMPが減らなかったからこそ、自由に楽しめたのよね。


「……いつか、またあんな風に遊べるようになるのかしら」


 うう、つい弱気に。

 いけない、いけない、集中しましょう。


 ……。


 ……、……。



 《死亡しました。10秒後にリスポーンします。Lv1のため、デスペナルティーは免除されます》



 システムメニューを開くと、時間はもうリアル15時。

 ゲーム内は誰もがいろんな時間帯を楽しめるように、リアル4~6時間で1日が過ぎるのですが……。

 そういえばここはずっと同じで、夜のままですね?


 大変幻想的で美しい場所なので、これはこれで良きなのですが。

 ここが何か特殊なフィールド(空間)という事なのでしょうか?


 それで肝心の進捗ですが――駄目です。

 進捗、ダメです!


 マナの動きがないとだめなのかと、飛びながらいろいろ見つめてみたり。

 魔力核だけではなく、私から零れ落ちるマナの……私の場合、命の煌めきを見つめてみたり。


 きらきら、さらさら。

 私の身体から零れ落ちたマナが、月明かりの中へ溶けていく。


「……あら?」


 その輝きを【魔力視】で追いかけていると、遠く離れた崩れた回廊の陰で、黒い何かが揺れた気がした。

 小さな、人影……?

 ううん、頭の両側に垂れた耳みたいなものまで見えたような。


 でも、目を凝らした途端、輪郭がふっとほどけて夜の闇へ溶けてしまった。


「……光の加減、かしら。何かが風に揺れた? でも、それらしい物すらなさそうだけれど」


 月明かりが煌めく場所だもの。見間違いをしたとしても不思議ではないわよね。

 それにしても、こんなに綺麗な場所なのに、誰もいないなんて……ちょっと寂しい。


 まあ、まだサービス開始初日。

 デメリット山盛りの代償に、ユニークな何かを獲得する未来が開けたはずなのですから、ここはじっくり頑張りましょう。





 ちなみに私のユニークポイント源の中にある、『代償に対するユニークメリット段階付与 [高難度]』。

 ユニークの特典は最初からもらえず、自分で条件を満たして解放しなければならない。


 これを選んだあの後。さらに、その上で!

『獲得ユニーク解放指針 [非開示]』、なんていうのまで追加しちゃったのです!


 ……ふふ、つまり? 普通は先にクエストが提示されて、その条件をクリアすれば報酬がもらえるところ、何をすれば特別な報酬が解放されるのか、その手がかりすら教えてもらえない! 自分で考えて、自分で試して、正解を見つけるしかない。


 じゃじゃーん、超絶ウルトラハードモードの完成!!


 ええ。1年前の私、そしてその大変さに思いをはせる事もなく解放感に浸って練習を楽しみ続けていた私に、ちょっとモノ申したいですね?



 ふぅ、冷静になりなさい、私。

 ふと視線を落とせば、月明かりを浴びた白い花々が、相変わらず静かに輝いています。


 とりあえず……一応、ヒントになるかもしれない要素の目星はつけられました。

 とはいえ、いろいろと取り返しがつかない私の初期環境。

 本当にこれに手を出してよいものか……悩む……ぐぬぬぅ。


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