第2話 『特別の代償』
《月が流した涙の子が、生を得ました》
澄み渡る満天の星空!
朧に揺れる満月!
一面に咲き乱れる白く輝く花々!
「最高に、気持ちいいですね」
なんだか不思議なメッセージが表示された気がするけれど、今はこの心地よさに身を任せたいのです!
ふわりと身体を浮かばせ、くるり、純白のシンプルなワンピースドレスの裾を翻し。身長よりも高く舞いあがる。
あぁ、なんて気持ちいいの。
待ちに待ったU-topiaサービス開始初日。
可愛いデフォルメアニマル達が作る数字のカウントダウンが『0』になるのと同時にログインすれば、私の身体は現実の枷を抜け出してこの通り。
すーっと深く息を吸い込むと、微かにひんやりとした夜気が肺を満たす心地よさに、脳髄が痺れそう。
ここは放棄されたお城かしら?
黒い宝石のような石材や煌めく色ガラスで飾られた、かつての優美さを感じさせる建築様式。
けれどそこかしこが崩れ、植物に覆われ、手入れも歴史になる程の長い間されていないことが明らか。
そんな物悲しくも心躍る眼下の景色を眺め、私の開始位置は明らかに『始まりの街』じゃないなと、確信する。
「まずはこの素敵な空を堪能しなくては」
アーリーアクセス空間でみっちりといろいろな練習を重ねた私に抜かりなし。
元々アンナコトがあってからは、起きている時間の大半はVR空間に意識を飛ばして生きる身の上。
皆が他のゲームをしている間も、武器に魔法(ファンタジーなマナの扱い)や飛行移動。地味な練習を1年も繰り返したのよ。
空を飛ぶのだってお手の物……は、言い過ぎだけれど、普通にまっすぐ飛ぶのに問題はないわ。
翼が無くとも、ふわふわふわりと浮かぶ身体からマナ(MP)を限界出力。
余剰マナの燐光を盛大に放射しながら、花に覆われた廃墟の夜空を、風を切って翔けるの。
たまらない快感に身を任せる事わずか10秒程度。
「あ、あら?」
なんだか視界がぼやけてきて、身体の力がすーっと抜けていって、恐怖を伴う不安な感じが背筋を這いあがってくる。
《死亡しました。10秒後にリスポーンします。Lv1のため、デスペナルティーは免除されます》
《称号獲得:最速の死者 (サーバーで最初に死亡したプレイヤーの証。追加効果なし/名誉称号)》
え? えぇ? えぇぇ?
モノクロになった視界の中に浮かぶシステムメッセージに、頭の中がクエスションマークでいっぱい。
何が起きたの!?
私、気持ちよく飛んでいただけよね。な、なな、なんで!
あとそれ、絶対名誉称号じゃないよね? むしろ不名誉称号だよぅ。
視界がすっと切り替わり、私はログインしたまさにその場所、廃墟を覆うお花畑の真ん中に立っていたわ。
「敵にやられた……は、ないわよね。毒、とかでしょうか? でも、そういう時は状態異常のアイコンみたいなのが表示されるはずと、公式サイトの説明に書いてありましたし」
そう、そうね。まずは落ち着いて、視界の端でピコピコ主張しているアイコンをクリックしてみましょう。
あまりの嬉しさと興奮に、何も考えずに飛び出したからいけないのよね。
封筒マークのメールボックスにはサービス開始のお知らせと、プレイヤーへの挨拶の運営メッセージ。
あ、サービス開始の無料配布特典がメールについてる。
『始まりの街』のお店で使える、武器や防具の交換チケットに、来訪者応援セットの引換券。それと10,000Gのゲーム内通貨。
「あら? これは私、今使えないのでは……? もしかしたらピリッて破ったらアイテムに変わったりしないかしら?」
実体化してみた、お洒落な模様が描き込まれた紙を透かして見たりするけれど何も起きる様子はない。
えいって引っ張ってみるけれど、破壊不能みたいな設定なのか、びくともしない。
うん……これは『始まりの街』にたどり着くまでお預けね。
あと光っているのは羊皮紙のマーク、クエストアイコンね。
★ ════════════════════════ ★
・メールを確認する 報酬―1,000G 《獲得する》
・インベントリを開く 報酬―初級生命ポーション×5
・始まりの街の中央広場でランドマークを登録する 報酬―帰還のスクロール×1
・設定画面を開く 報酬―1,000G
・ステータスを確認する 報酬―SP1
……
……
★ ════════════════════════ ★
いっぱい表示されているけれど、出来そうなのからポチポチ。
あれでもない、これでもないってしているうちに私は気が付いてしまいました。
「あ、MPがもうなくなりそう」
視界左上の隅っこに見える青いMPバーがもう残り1割もない。
え、ちょっと待って。
私、リスポーンしてからは飛んでもいないというか、動いてすらいないわよね?
幻想的に輝くお花畑の真ん中で、ただじっと画面を操作していただけなのに。
普通なら致命的とまでは言えないそれ。
MPの枯渇。
それが私にとって意味する事は……。
《死亡しました。10秒後にリスポーンします。Lv1のため、デスペナルティーは免除されます》
ぐすん、また死んじゃった。
モノクロに沈んだ視界を前に、思わず涙目になる私。
えぐえぐ。
ステータス画面を開いて、詳細をポチポチ。
さっきは、はしゃぎすぎてMPを使い切ってしまったから。それなら、次から気を付ければいいの。
でも、今度は?
何もしていないのに死んでしまうなら、どうすればいいのかしら。
うん、なるほど?
原因はわかった……のだけれど。
「これ、私どうすればいいのぉ――」
HPやMPが最大値に固定されて、サービス開始まで細かいステータスは未確定。その代わりいくらでも練習ができるアーリーアクセス空間では気が付かなかった、私の『ユニーク要素』に付随する問題が今、牙をむいて襲いかかっていたのです!
ジトーっと見つめる、いろいろなことが書かれたステータス画面の一部。
関係しそうなところだけを……。
★ ════════════════════════ ★
キャラクターネーム:ルミナティア
種族: 純魔の幻体(系統:魔力受肉体・ユニーク個体)
属性: [未解放]
……
【ステータス】 ※成長傾向指標
HP: ---(抹消:MPへ統合)
MP: A
STR(筋力): ---(抹消)
VIT(耐久): ---(抹消)
AGI(敏捷): E
DEX(器用): E
MAG(魔力): A
RES(精神): F
LUC(幸運): C
……
★ ════════════════════════ ★
お任せ設定にした名前、U-topiaがくれた私の名前、ルミナティア。
とても綺麗で、好き!
そしてなにより、うん、そうなの。
私の種族は『純魔の幻体』。
身体というか、存在の全てがマナでできた不思議生命体。
だから、HPなんてものは存在しないの。代わりにMPが、私の命そのものになっている。
つまり、魔法を使ったりしてMPが減るのは、普通のプレイヤーがHPを削られるのと同じこと。
さっき空を飛んで死んじゃったのは、何も考えずにマナを使いすぎたから。
……そこまでは、わかった。
でも、それなら。
どうして何もしていなかった今も、死んでしまったのかしら?
★ ════════════════════════ ★
【スキル】 残りSP:20
[種族特性]
【制約:完全魔力体・劣化】、【概念魔装】、
【魔力視 Lv.1】、【浮遊 Lv.1】、【魔力飛翔 Lv.1】
[武術系] (未習得)
[魔術系] (未習得)
[補助系] (未習得)
[生産系] (未習得)
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少しだけ冷静さを取り戻し、元凶を見つめます。
そう、ユニーク設定のためにいろいろなデメリットを積み上げた最たるもの。
種族特性スキルな貴女、【制約:完全魔力体・劣化】です!
合計47万UPにも値するこれには、それはもう重い制約が複数入っているわけですが……今問題なのは、ええ。
よく見れば、月明かりに照らされた私の指先から、淡い燐光が零れ落ち続けています。
きらきら、さらさら。
下を向いた視線を遮る、発育に恵まれたごく一部を除き、ほっそりとした身体。
この身に纏う儚げな白いワンピースドレス。
時間が経つにつれて少しずつ透明度を増して、向こう側に咲く白い花々が、うっすら透けて見え始めているの。
まるで、綺麗なガラス細工になっていくみたい。
……なんて、見惚れている場合じゃありませんよね。
私の身体そのものが、少しずつ失われているってことなんですもの。
その原因となっている、内包された制約の内2つをジトーっと見つめます。
いえ、やらかしたというか、あの時ほいほいOKしたのは私ですけれどね?
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【制約:完全魔力体・劣化】
・HP抹消(MPで代用される)
・身体の維持に常時MP消費[極大]
……
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でもでも、めげませんよ!
私、実はいろいろなファンタジー小説とかを読んでいて詳しいのです。
吸血鬼なら、日光を浴び続けて日光耐性を鍛える!
アンデッドなら、聖なる遺物とか教会跡地に果敢にアタックを繰り返して聖属性の弱点を克服!
スライム系なら、いろいろ取り込んで超進化!
ふふーん。
私の場合なら、わかりますよね?
よーし、獲得可能スキルリストを上から下までじっくり調べましょう!
……。
…………。
――私、やっぱりダメかもしれない。くすん。
《死亡しました。10秒後にリスポーンします。Lv1のため、デスペナルティーは免除されます》
ねぇぇ~~ちょっと待って~~。




