第13話 『武術系スキル……知らない子ですね?』
活動限界で何度かリスポーンしながら、塔を調べること数時間。
相変わらず最上階には、宝石細工の星空と本物の夜空が重なった美しい光景が広がっているけれど、仕掛けに変化はありません。
それから、二重螺旋階段を取り巻くお部屋も調べてみました。
……けれど、こちらも残念。
ほとんどのお部屋には鍵がかかっていて、入れた場所にも、探索のヒントになりそうなものは見つからなかったの。
【鍵開け】とか、トレジャーハントに役立つらしい【嗅覚】とか。こういう時には、便利そうなスキルがいっぱい思い浮かんでしまうわね。……まあ、そもそも今の私、残りSPが0なのですけれど。
ふにゅう。ないものねだりは、後回しですね。
そんなこんなしているうちにまたリスポーン。
ただいま、幻月花のお花畑。1か月以上ここで過ごして、もう第二の故郷な気分だけれど、ここ、あくまでお外なのよね。
野宿の子――うん。リスポーン地点を変えるには町の神像とか、決められたオブジェクト、あるいは宿やマイホームといった安全地帯に設定された寝床が必要。どれも今の私にはないものね。
「もしかしてお城の中に、暮らせるお部屋とかないかしら?」
お城暮らし、ちょっと憧れるわね? でも、あの塔の中でもそうなのだけれど、私の属性『月華』に一番適した魔力で満たされているのが月明かりに照らされるこの幻月花の花園らしくて、MPの減少が一番緩やかになるのはこの場所。だから、やっぱりしばらく保留かしら。
あれから結局、住民……かもしれない、例の黒い影とも会えないし。今はちょうど夕飯時。ママは今日も帰れないから、現実の私は点滴で栄養補給継続中。
ん、慣れてはいてもちょっと寂しさが。こういう時はあれね、探索を優先して我慢していた、お宝確認タイム!
「――にゅふふ」
まずは、こちら。現実で手に持つ機会なんて私じゃなくても普通はない、『刀』!
細かな罅割れに覆われ、破損していてなおその優美さをうかがわせる、芸術品。
魔力でできたこの身体だけれど、被物理影響の制約のお陰で、アイテムとして手に持つこともできる。確かな武器としての重みが伝わってくる。
装備――しちゃおうかな。
終ぞまだ出番のなかった【概念魔装】スキル。
うん、きっとこれは私のための武具、のはず! と、スキルを意識してみると。
《対応する[武術系]スキルが未習得です。現在の破損状態では【月華の舞い】を対応スキルに設定する事はできません》
ふにゃ!?
え、え、そういう仕様なの?
今新しいスキルを覚えるSPなんてないよぉ……血の気が引くのを感じる。
も、もしかして私、詰んだ!? 1SP、1SPでいいからどこかに落ちてない?!
半ばパニックになりながらメッセージボックスや、クエスト一覧を漁る。ユニークシナリオに関連するクエストは見えなくても、チュートリアルや汎用クエストの中に……前に調べたから無理なのしか無かったのは知ってるけど、ある、きっとあるはずなのよ……!
「……あった!」
ほらほら、あった、ありましたよ! SPがもらえるチュートリアルクエスト!
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・初めてのお買い物
達成条件:『始まりの街』の住民商店で商品を購入する
報酬:1SP
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「ふふっ。お買い物するだけなら簡単よね! 所持金だって初期配布の一万Gがまるまる残って……」
……うん。
お店がない、知ってた。
「次! 次を探しましょう!」
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・スキルを覚えてみよう
達成条件:[武術系]又は[魔術系]スキルを一つ習得する
報酬:1SP
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「あら? あら……あ、あぁぁああああぁぁぁああぁぁ」
魂の叫びが胸の奥から漏れるのを感じます。
絶望の淵に突き落とされたこの私を嗤わば笑って!
なんと、今まさに私が必要としている武術系スキルを覚えるだけで、SPが『1』もらえるらしい。
ノーマルの初級スキルなら必要SPは1……どぼじで、わだじは、ごの゛グエズドヴぉ、わ゛ずれでだのぉぉぉぉ。
あの時、なけなしの初期SPを使い切る前に、これをやっていれば!
……。
「こほん」
いえ、あの時にもしもこの存在を覚えていたら、初級の魔術系スキルとか、徒手戦闘とかそういうなにかを取っていましたね。少なくとも武器が無い状態で、武器限定のスキルを取るはずがありません。
うん、過去のルミナティアちゃん間違ってない。私えらい子。
「ふぅ……」
なんとか心の平穏を取り戻したところで、次。
★ ════════════════════════ ★
・回復アイテムを使ってみよう
達成条件:初級生命ポーションを使用してHPを回復する
報酬:1SP
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「……HP、ないもん」
ふにゅう。
こうしている間にも減り続けるMP。いつかまた消えてしまうこの身体。
……私、ちゃんと生きているんですよ?
MPのクエストもあったけれど、そちらでもらえるのはゴールド(G)。
それにそもそも、私がランキングイベント報酬でもらったのは『中級』魔力ポーション。
「ぐすん……割とプレイヤーに優しいゲームのはずなのに、私にはちょっとだけ、いじわる過ぎませんかぁ……?」
あ、自業自得ですか、そうですね。
最高のハードモード独走中の、公式生配信のネタにすらなる子でしたものね。
「お買い物して、住民のお手伝いをして、宿屋で休んで……そういうのも、楽しそう……だったのかもしれない、な」
つい、ぽつりと弱音がこぼれました。……うん。きっと、そういう冒険だって楽しいのでしょうね。
けれど、そこにいるのがプレイヤー、現実の人間だと意識してしまったら。
私はきっと、怖くなってしまう。
その場でログアウトして、自力では身動き一つできない現実の身体へ逃げ込んでしまうのが、目に見えているもの。
……だから、今は。
私には、私の選んだ道がある。
少なくとも、この一か月を無駄だったとは思わないし、今までの冒険だって、とっても楽しかったのだから。
「うん。落ち着いたら、エリシアさんに会いに行きましょう」
『オリジン・ラウンジ』に建てるお家も、相談したいものね!
――他にも一応こまごまとしたSP獲得可能なクエストはあったけれど、やっぱり今の私には全部不可能。
よく考えたら、今すぐ武器が必要とも限らないのよ!
うん。それはそれで、レベルアップとそれに伴うSP獲得もできないという事で辛いのだけれど。
そうやってなんとか心の平穏を、って、そう、そうよ!
扇、扇は!?
刀は無理でも、舞うための扇なら……【月華の舞い】が対応スキルになるのでは?
いろいろといっぱいいっぱいになり過ぎて、頭が回っていなかったわ。損壊しているものは……うん、どれも無理なのね、予想はしていたわ。そもそも対応スキルだってないからどのみち同じことね。
「取り出しましたるは、この美しき1対の扇!」
じゃじゃーん。
双短剣もそうだったけれど、実はこの扇も、二つで一つ。
白と黒、一対になった舞扇だったの。
扇骨は、親骨から中骨に至るまで、すべてが漆黒の宝石で造られています。
その一方で、扇面の材質は二つで異なっているの。
片方は、黒く透き通った宝石。
もう片方は、ほとんど透明な、純白の宝石。
どちらにも繊細な透かし彫刻が施されていて、月明かりを受けるたびに、きらきらと美しく輝きます。
「まあ、どっちも持って舞ったらバキバキに壊れてしまいそうなのですけれどね」
他の武具よりましとはいえ、無数の罅に覆われた姿は哀愁すら感じる。
どうしても振り払えない、破損した状態で取り込んで、本当に良いのかという迷いは再びよぎります。
【概念魔装】に取り込んでしまえば、もう元の武具には戻せない。それは、修理ができる誰かに預ける事すらできないかもしれないという事。それなら、先にほかの場所を探索して、修復の手掛かりを探すべきかしら。
せっかく行動範囲も広がったし……でも、ちょっとだけ、焦りもあって……。
「……ふふっ」
ゲームの中なのに、クエスト(指示)を追いかけるでもなく、まるで本当に知らない世界を冒険しているみたい。
うん、これぞ冒険よね?
あの不思議な黒い影を追いかけて、たどり着いた塔で出会った武具たち。
今唯一、魔装として私の一部になってくれる形ある品。
あの子が本当に私を導いてくれたのかどうかなんて、まだわからないけれど。
それでも、なんだか不思議な縁を感じてしまうの。
「……うん。決めました」
ゲーム的なあれこれを一度わきにおいて……ただ純粋に、私、この扇を使って舞ってみたい。
そう思って、白と黒の舞扇を握り直しました。
《スキル【概念魔装】を発動。【月華の舞い】を対応スキルとして設定します》
手の中の1対の扇が優しく、淡く輝く白と黒の光の粒子となって、私の胸元の[魔力核]へと吸い込まれていく。
《複数の概念魔装が登録されたため、魔装一覧機能が解放されました。以後個別装備の魔装表記は省略されます》
ピコン、とステータス画面が浮かび上がり、装備欄の下に、新たな項目が追加されていました。
そして、アイテムインベントリからは扇が消えています。
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【魔装一覧】
セット防具:純白のワンピースドレス
武器:『双月の誓いー???』(扇) 状態:破損―機能封印状態
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「これでいいのでしょう……か?」
ふとその時、腕をくすぐる温かな風――いえ、吐息のような何かを感じて、右を見ると。
「ひゃわぁぁ!!?」




