第12話 『全部もらっていいのですか?』
怖れ半分に身構えつつも、期待を込めて辺りを見渡します。さあ、いったい何が起こるのでしょう? 隠し扉が開く? それとも、何かが現れるのかしら? ……けれど。
「あら?」
目に見える変化は、そこまででした。
月明かりを集めた光の奔流は、不自然にぐにゃりと歪み、弾けるように霧散してしまったの。
「え、終わり?」
さっきまで聞こえていた、重い仕掛けの動く音も、もうしません。
私が舞いと歌を捧げたあの時から流れ続ける幽かな弦楽器のBGMが、どこか悲しげに揺れた気がしたわ。
「うーん……」
なにか少しでも変わった事が無いか、すっかり馴染んだ【魔力視】をことさら意識して、光の通った跡をたどり、天井一面を凝視してみる。
ふよふよ、ふよふよ。
もっと近くで見たくて、天井へと近寄って、あっちへこっちへ彷徨い揺蕩う。
「ちょっとだけ反応した?」
黒と白、二色に分かれた天井。まずは、黒い側に描かれた白い月のレリーフへ近づいてみる。
【魔力視】で覗けば、微かな魔力の流れが残っていました。
ピリピリ、さざ波のように黒い側の天井を駆け抜けているのだけれど……。
「……半分だけ?」
白い側との境界で、その流れはふっと途切れてしまうの。
それなら、反対側はどうかしら。
今度は、白い天井に描かれた黒い月のレリーフへ近づいてみる。
……。
「――何の反応も無し、と」
う~ん、まず間違いなく、なにかが足りないんだよね。
ギミックを解くタイプの要素だと思うんだけど……。
部屋のこっち半分が反応する何かを探してくる?
あるいは白い月に反応を示したみたいに、特定の時間か現象を待つ……黒い月、うーん。
この浮島から出られない私じゃ、住民に聞き込みなんかもできないし。
とりあえずこの塔の中に何かないか調べて……その後は図書館かな。
すごく気になる物がこの空間の外周に並んでるのも見つけちゃったし。
「掲示板に投げてみるのも、ありかしらね」
『黒い月』に『白と黒の双子月』。そんな言葉を聞いたことがないか、それとなく尋ねてみるだけなら……。
でも、先日の公式PVには、あの月下の花園も映っていたのよね。
今こんな質問をしたら、私の居場所やユニークシナリオを探ろうとする人が出てくるかも。
「……やっぱり、やめておきましょう」
変な人に付きまとわれるのは怖いもの。
それに、せっかく見つけた謎なんですから、まずは自分でもっと調べてみたいわ。
それにしても。
「今は進められない隠し要素的なギミック。『黒い月』に関係する何か」
耳とふさふさの尻尾を持った、あの小さな黒い影。
まるで私をこの塔へ導いたみたいだったけれど……もしまた会えたなら、今度こそお話してみたい。
「もしかして、あの子も『黒い月』に関係しているのかしら?」
俄然、冒険の匂いがしてきたわね!
一歩ずつ、この美しい世界の秘密に近づくわくわく感に、私のユニークシナリオが少しずつ進んでいる実感に、私の胸は小さく高鳴っていたの。
……その胸の高鳴りの半分は、こっちのせいだけれどね? えへへへへ。
円形の部屋をぐるりと囲む壁には、等間隔に展示スペースらしきものが並んでいました。
壁を彫り込んで造られた窪みの奥には、それぞれ小さな台座が据えられ、透明な宝石の覆いで守られています。
その向こうに並んでいるのは……。
「武器? ううん、武具というべきかしら?」
形も大きさも違う、様々な装備品。
けれど、どれもひどく傷んでいて、かつての姿を留めているのが不思議なくらい。
「むぅ……近くで見ると、ますますボロボロね」
武具の中心に組み込まれているのは、この浮島の大地や塔の壁でも見かけた、漆黒の宝石。
それが心金となって、武具の中核を形作っているみたい。
そして、その周囲を覆うのは、ほとんど透明な純白の宝石。
刃や外殻を形作る、繊細な細工が施されているの。
……けれど。
漆黒の心金には、かつて美しい魔術的な意味をもつ刻印が彫り込まれていたのでしょうね。
今は無数のひび割れに覆われて、ほとんど原形を留めていません。
純白の宝石も割れ、欠け、今にも崩れてしまいそう。
「こんなに綺麗な武具なのに、もったいないですね」
けれど、そっとガラスケースならぬ宝石壁に手をかざせば開く、なんともわくわくするシステムウィンドウ。
★ ════════════════════════ ★
名称:『双月の誓いー???』
レアリティー:??? (損壊)
損壊した双短剣を獲得しますか? 《YES》 《NO》
★ ════════════════════════ ★
そういえば、掲示板で読んだことがあります。
ユニーク要素として最初から完成された強力な武具を望むと、そのぶん大量のポイントが必要になる。
でも、成長や修復によって少しずつ力を取り戻す形なら、最初から完成品を得るより消費ポイントを抑えられるんですって。
「……もしかして、これもそういう装備なのかしら?」
ただ、私のために新たに生まれたのか、それともこの世界に元々あったものを私のユニークシナリオが組み込んだのかはわからない。もちろんなんの関係もない、この塔に昔から残されていた武具をたまたま見つけただけという可能性も……いえ、それはないですね。
結局、どんなクエストが発生しているのかもわからない以上、まだ何もわからないけれど……。
「ふふっ。こんなに素敵なものを見つけたら、素通りなんてできませんよね!」
割と多くのプレイヤーがこうして装備、あるいは装備を作るための素材的な何かをユニーク要素としてインベントリやクエストに隠し持っているのが現状。
生産職泣かせでは? と思わないでもないですけれど、そうした制約付き装備が100%の性能を発揮する頃には生産品の方が強い可能性だってあるわけで。生産職希望のプレイヤーだって、ユニーク要素を獲得していますからね。
まあ、一種の賭けです。
得る物を減らして、ポイントを使い果たしてでも確実なスタートダッシュを決めるか。
分からない将来の大器晩成を狙うべくたくさんの要素を詰め込んで、けれどその解放条件を厳しくするか。
「どれか1個だけしか取れない可能性もありますか……まずは、ギリギリ使えそうなのが無いか見てから決めましょう」
武具が収められていた十二の展示台。そのうち二つだけは、ほかと比べればまだ損傷が軽いみたい。まあ、使えるかというと無理そうな気もしますけれど。
★ ════════════════════════ ★
名称:『双月の誓いー???』
レアリティー:??? (破損)
破損した刀を獲得しますか? 《YES》 《NO》
★ ════════════════════════ ★
《YES》をそーっと、ぽちっとな。
柄に巻かれた柄糸も、鞘に結ばれた下緒も、すっかりぼろぼろに朽ち果てています。
そっと刀を抜こうとすれば、頼りないガタつきまで感じられて……。
「……うぅ、これ、本当に使えるのかしら?」
それでも、特別な装備の獲得に口元がゆるむのを抑えられません。
『双月の誓い』というのはシリーズ名でしょうか?
さらに、ダメもとでしたが……。
★ ════════════════════════ ★
名称:『双月の誓いー???』
レアリティー:??? (破損)
破損した扇を獲得しますか? 《YES》 《NO》
★ ════════════════════════ ★
おや、もしやこれ、全部もらえるパターンです? 《YES》 っと。
一つずつ展示台を巡って、取得ウィンドウの《YES》を選んでいくと……。
「――はい、もらえちゃいました」
なんと、十二の武具すべてが私のインベントリに!
もちろん、ほとんどは損壊した状態なのだけれど。
でも、こんなにも素敵なものを一度に手に入れられるなんて……えへへ。
ただ、刀と扇以外は触れただけでボロボロと崩れそうなのでインベントリに完全封印。その2個も装備するのはちょっとだけ後回しにしましょう。『概念魔装』で取り込んだが最後、帰属化されて、アイテムとしての自由度は永遠に失われてしまいますからね。
システムウィンドウが教えてくれた武器種は、『刀、扇、傘、円刃、盾剣、斧槍、大鎌、双短剣、爪、蛇腹剣、杖、灯』の十二種類。よくわからない物や、さすがにリアルスキルで使うのは無理では? っていう装備も混ざっているけれど、インベントリいっぱいの素敵アイテム(ほぼ損壊)にときめきを感じるわ!
そして最後に、もう一つ。白と黒の境界部分には、他と同じ造りの台座がもう一基残されていました。
けれど、そこだけは空っぽ。何が据えられていたのかも分からない。
「十三番目だけが空席?」
なんとも謎が多い場所……やっぱり、いい!




