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月夜の大神と対魔刑事と 〜陰陽師の女刑事は、月夜に獣と化す『人ならざる男』と恋に堕ち、組織を離れ、神降しの巫女となる〜  作者: 國村城太郎


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第8話 別の捜査線

「黒瀬、倒した屍食鬼(グール)を車に運んでくれ。玲子さん、すぐ調査を頼みます」


 指揮車に渼星が戻ってくる。


「班長すみません、残っていた屍食鬼(グール)はトラックに乗って逃亡しました」


 悄然として項垂れる渼星。


「そうか、そちらは所轄の封鎖に期待するしかないが、難しいだろうな」


 何かを見通すように話す鷹宮。


 実際その後の連絡で、トラックに所轄は振り切られたことがわかる。


 さらに、水城から連絡が入る。


「班長、追跡してた男たちですが、突然苦しみだして倒れました。救急車を呼びましたが、死亡が確認されています」


「そうか……何らかの呪詛か、今は手詰まりだな」


 目を瞑ってしばし考え込む鷹宮は、すぐに結論を出し全員に連絡する。


「これにて状況は終了。全員今夜は撤収する」


 探し伸ばした手を、悉く振り払われたような現状に、暗澹としながら渼星は家路についた。



 翌日の警備企画課は、どんよりとした空気に包まれていた。


「逃走したトラックですが、埼玉の建設業者から盗難届が出ていました。工事現場の企業との関連は見つかっておりません。まだ車両は近くに乗り捨てられているのが今朝発見されました。この線から追いかけるのは難しいです」


 水城の報告があがる。


屍食鬼(グール)を調べていますが、国内での例が少ないから、どこまで人為的に管理されていたのか、まだ結論は出せないわね」


 昨夜から寝不足なのか目の下に隈を作りながら、玲子さんが話す。


「死体の運び人の方はどうなった?」


 班長が渼星に尋ねる。


「解剖の結果、死因は心臓麻痺でした。念のため遺体を霊的に確認してみましたが、痕跡を追うことはできませんでした。毒ではなく、呪いのたぐいだとは思いますが、確証は得られませんでした」


 事件を追うための線が途切れかけているのを感じて、課員たちは深くため息をついた。


「黒瀬は、運び人の顔写真から身元の聞き込み調査を頼む。水城は、トラックや工事業者と施主の線から情報を追ってくれ。渼星は、霊的な調査で、屍食鬼(グール)の養殖場が他に移されていないか探してみてくれ。玲子さんは引き続き屍食鬼(グール)の身体の調査をお願いします。みんな、頼むぞ」


 班長の指示のもと、全員が今できることをするために動き出す。だが、その場にいた誰一人として、前途を楽観してはいなかった。



 事件現場を中心に、土のある場所を昼間に屍食鬼(グール)を隠せる場所、という観点で、調査範囲を広げていた渼星は、何も見つからないことに焦りを覚えていた。


 休息に立ち寄った喫茶店で、ふと手帳から一枚の名刺を取り出した。


大上吼(オオウエコウ)


 そう書いてあるその紙を、くるくると回しながら、渼星は考え込んでいた。


 なぜ、彼はあの男たちを尾行していたのか?

 今回の事件と関係のある取材をしていたのか。 

 彼に連絡を取るのは仕事のためだ。そう、何もおかしなことではない。

 そう自分に言い聞かせたところで、では何をもって『おかしい』と思ったのかと気づいてしまい、渼星は小さく眉を寄せた。


 やっと気持ちに折り合いをつけて、大上に連絡をするころには、熱かった珈琲がすっかり冷めてしまっていた。



「この男を見たことがありますか?」


 大上が尾行していた男の写真を渼星は取り出して、見せていた。


 写真と渼星の顔の間で視線を行き来させた後、大上は渼星を見つめながら笑った。


「私が彼を追いかけていたのは、知っているでしょう?」


 驚いて渼星は答える。


「えっ、見られていたの、気づいていたの?」


「いろいろ危ない取材もありますから、視線には敏感なんですよ」


 悪戯っぽい表情で笑ったあと、真面目な顔をして話を続けた。


「取材の中で、ああいう人物の素性は一応押さえるようにしています。身元もある程度は調べていますよ。そちらの捜査で必要な情報なんですか?」


 どう話を切り出そうかとしばし思案した渼星は、結局事件性のはっきりわかる情報を開示することにした。


「はい……実は、その男、昨夜変死体で発見されたんです」


「それは……、穏やかではありませんね」


「あれ、あまり驚かれないんですね?」


 意外に思った渼星はそう尋ねる。


「いえ、少し意外だっただけです。そういう事情なら、こちらで掴んでいる範囲はお話しします」


 そう言って、大上は男の取材で得た情報を開示していってくれた。


「その海外資本の企業に出入りしていると…社員なのかしら?」


「調べた限りでは、明確な雇用関係はなく、外部スタッフのような形みたいですね。私が取材に行っても相手にされないと思いますが……、でも、死亡した男の線からなら、倉橋さんの立場で接触できる余地はあるんじゃないですか?」


 大上はそうニッコリ微笑んで決断を即した。


 渼星は少し黙った。

 どう考えてみても、今はこれしかたどれる線がない。


「……ありがとうございます。まずは、そこを当たってみます」


 そう言って渼星は席を立った。


 大上は、立ち去る渼星の背を静かに見送った。

 その眼差しには、穏やかな熱が宿っていた。


 もちろん、その視線を渼星は知らない。



 30分後、渼星は警察手帳と男の写真を持って、その会社で、男の身元を問い合わせていた。


「エミル・デミアさん、三十四歳ですか。こちらではどのようなお仕事を?」


「はい、彼は契約社員で輸送スタッフですね。港に着く本国からの荷をトラックで運ぶ業務です。昨日は、ちょうどお休みでした。まさかこんなことになるとは……」


「ご家族などは?」


「彼は独身で、親族は本国にしかいないはずです」


「それでは誠に申し訳ないんですが、御社の親しい方に身元の確認をお願いします。保管の都合もありますので、なるべく早くお願いできますか?」


「わかりました、明日にでも警察署の方にお伺いさせていただきます」


「ご協力に感謝します」


 住所など基本的な情報を得て、渼星は会社を出た。


 目の前の道路に停めてあった車から、大上が声をかけてくる。


「送りますよ、乗ってください」


 いつもの笑顔に負けて、渼星は助手席に身体を滑り込ませた。


「こちらの取材も含めて協力しますよ」


 そう言ってニコリと笑う大上に、渼星は、待ち伏せされていたわね……と、ため息をついた。


「しょうがないわね、この住所まで行ってください」


 そう言って、男の家のあるアパートの住所を書いたメモを手渡した。


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