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エクスカリバーが交差点の真ん中にささってるんだが…  作者: 源三郎


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第37章 四城同盟

ばらばらだった四つの城が、地下ではずっと一本の樹だった。灯里の対応表と、凪人の巨大な絵が、四城の記憶鉱を三島でつなぎます。けれど、玄弥は総大将になることを断りました。「指揮官ではなく、つなぐ役をやる」と。


 灯里の対応表が、床いっぱいに広げられていた。


 三島大社前の、社務所の一室。畳の上に、模造紙が何枚もつなげて敷かれている。そこに灯里が書き込んだ、四つの城の記憶鉱のつながり。脈の太さ。流れる向き。どこで止まり、どこでつながるか。色とりどりの線が、走っていた。手書きの地図だ。クレヨンで引いた線まで、まじっている。


「これが、四城の地下を流れる、記憶鉱の脈です」灯里が説明した。「東京、静岡、名古屋、大阪。ぜんぶ、ばらばらに見えるけど――」


「三島で、つながってる」凪人がぽつりと言った。


 凪人は、社務所の壁に巨大な絵を貼っていた。一晩で描いたらしい。畳、四枚ぶんはある。木の絵だった。一本の、巨大な樹。その根が四方へ伸びて、四つの城の形になっている。幹のいちばん根元――そこに、三島の町が描かれていた。


「記憶鉱って、樹みたいなんだ」凪人は、絵を見上げた。「四つの城が、枝で。三島が、幹。地下で、ぜんぶ一本に、つながってる。前に、見えたんだ。窓を、くぐったとき。地面の下に、光が流れてるのが」


 四つの城が、いつもばらばらに見えていた。互いに不信を抱えて。指揮系統もちがって。共同戦線を組めずに、各個撃破されてきた。けれど――地下では、最初から一本の樹だった。気づいていなかった、だけで。玄弥は、その絵から、目が離せなくなった。


「これを、つなげば」玄弥はつぶやいた。「四つの城が、一つに、なれるのか」


「理屈の上では」アヴァロンが腕を組んだ。「灯里の対応表と、凪人の絵。この二つがあれば、四城の記憶鉱を、三島経由で一つの脈に束ねられる。そうすれば――四つの城が、同じ誓気を共有できる。声を、力を、つなげられる」


「四城同盟」澪が言った。「ばらばらだった、四つが、初めて、一つになる」


 その日の夜、三島大社前に、四つの窓が開いた。東京の旧江戸城。静岡の駿府城――いや、駿府城は落ちた。再建中の、前線基地から。名古屋城。大阪城。四つの城の軍団長が、窓の向こうに現れた。


 白角騎士団の隊長。白い甲冑。鋭い、剣の構え。

 鋼壁重騎団の隊長。巨大な盾を背負った、大男。

 翡翠翼騎団の団長。あの、駿府城の女性団長。翅をたたんで、立っていた。

 蒼帆魔導艦隊の艦長。蒼い外套。痩せた、横顔。


 四人が、初めて、一つの議題のもとに顔をそろえた。


「作戦を、説明します」灯里が立ち上がった。手が震えていた。けれど、声はしっかりしていた。「四つの軍団が、それぞれの得意な戦い方で、役割を分けます」


 灯里は、対応表を指さした。


「白角騎士団は、斬り込み」灯里は言った。「いちばん速い。前線を切り開いてください。鋼壁重騎団は、防御。盾で、敵の進路を塞いで、味方を守ってください。翡翠翼騎団は、空。上空から黒殻騎の動きを押さえてください。蒼帆魔導艦隊は、遠距離支援。砲撃で、敵の後方を断ってください」


 四人の団長が、互いの顔を見た。


「斬り込みは、我らだけで十分だ」白角の隊長が言った。「他の力など」


「待て」鋼壁の大男が、低く言った。「お前たちは、いつも突出して、囲まれる。後ろを固めるのが、誰だと思っている。我らの盾がなければ、お前たちは、とっくに全滅だ」


「また、それですか」翡翠翼の団長が、ため息をついた。「結局、誰がいちばん強いか。その話に戻る。前の軍議と、同じだ」


 空気が、また冷えはじめた。あの軍議。同じ流れ。誰がいちばん強いか。その話になると、必ずこじれる。黒冠魔導団に、つけ込まれる隙が生まれる。


 玄弥は、立ち上がった。


「ちがう」玄弥は言った。静かに。けれど、はっきりと。「誰がいちばん強いかじゃ、ない。前に言ったはずだ。誰を、帰したいか、だ」


 四人の団長が、玄弥を見た。


「白角騎士団が斬り込めるのは」玄弥は言った。「後ろに、鋼壁の盾があるからだ。鋼壁が守りに徹せるのは、翡翠翼が空から敵を見てくれるからだ。翡翠翼が空を飛べるのは、蒼帆の砲撃が地上の敵を減らしてくれるからだ。――誰かがいちばんじゃ、ない。誰かの強さは、誰かに支えられてる。それだけだ」


 玄弥は、四人を見回した。


「あんたたちは、ずっと、一人で無敗だった。だから、誰にも背中を預けられなかった。でも、もう、一人で勝てる相手じゃ、ない。魔王は。――だったら、預けるしか、ない。いやだろうけど。悔しいだろうけど。隣のやつに、背中を、預けるしかないんだ」


 長い、沈黙があった。最初に口を開いたのは、蒼帆の艦長だった。


「……我らは、すでに、こいつのやり方に賭けた」艦長は言った。「裏切られるかも、しれん。だが、預ける。鋼壁の盾に。翡翠翼の目に。白角の剣に。――背中を、預ける」


「ふん」鋼壁の大男が、鼻を鳴らした。それから、ぼそりと言った。「……我が盾の後ろなら、誰も死なせはせん。白角の跳ねっ返りどもも、まとめて守ってやる。預けたければ、預けろ」


「跳ねっ返りとは」白角の隊長が、むっとした。けれど、すぐに剣をおろした。「……まあ、いい。後ろを、頼む。そのぶん、前は、我らがぜんぶ引き受ける」


「空は、任せてください」翡翠翼の団長が、微笑んだ。「あなたたちの頭上には、一機も通しません。駿府城で、玄弥くんに約束した、とおりに」


 四人の声が、初めてそろった。玄弥は、胸の奥が熱くなった。


 その時、白角の隊長が、ふと言った。


「ならば、聖剣の使い手」隊長は、玄弥を見た。「総大将を、お前がやれ。四軍団をまとめる、頭がいる。お前ほどの適任は、いない」


「そうだ」鋼壁の大男もうなずいた。「お前が、命じろ。我らは、従う」


 玄弥は、首を横に振った。


「俺は、総大将には、ならない」玄弥は言った。


 四人が、驚いた顔をした。


「俺は、指揮なんて、できない」玄弥は苦笑した。「作戦も、立てられない。寝坊ばっかりの、ただの中学生だ。あんたたちのほうが、ずっと戦を知ってる。俺が上に立ったら、かえっておかしくなる。号令ひとつ、まともにかけられる気がしない」


「では、何を、する」白角の隊長が聞いた。


「つなぐ役を、やる」玄弥は言った。「あんたたちは、それぞれ強い。でも、つながってなかった。だから、各個撃破された。俺は――そのつなぎ目に、立つ。白角と鋼壁の間。鋼壁と翡翠翼の間。みんなが背中を、預け合えるように。間に立って、声をつなぐ。指揮官じゃ、ない。つなぐ役だ。それなら、俺にも、できる」


 四人の団長が、玄弥を見つめた。やがて、翡翠翼の団長が、ふっと笑った。


「あなたらしい」団長は言った。「上に立つのではなく、間に立つ。――いいでしょう。あなたがつなぎ目にいてくれるなら、私たちは、安心して前を向ける」


 玄弥は、うなずいた。四城同盟が、成った。


 窓を閉じたあと。玄弥は、社務所の縁側に座り込んだ。どっと疲れが来る。背中を預け合う、というのは、口で言うほど簡単じゃ、ない。何百年も互いを信じてこなかった、四つの軍団を、一つの流れにまとめる。その、つなぎ目に立ち続ける、ということが、どれほどの重さか。やってみて、初めて分かった。膝が、笑っていた。


「玄弥」澪が、隣に座った。麦茶の入ったコップを差し出して。「飲みな。声、かれてるよ」


「……ありがと」玄弥は、受け取った。冷たい麦茶が、喉にしみた。一気に半分、飲んでしまった。


「総大将、断ったの」澪が聞いた。「ちょっと、びっくりした」


「俺に、できるわけ、ないだろ」玄弥は笑った。「作戦とか、号令とか。柄じゃ、ない。でも――間に立つのは、できる。なんでだろうな。子どもの頃から、ずっと、そうだった。クラスで、誰かと誰かがけんかすると、いつのまにか、間に立ってた」


「知ってる」澪は、ふっと笑った。「あんた、昔から放っとけないんだよ。だれかが、ぽつんとしてると」


 玄弥は、麦茶を飲みながら、空を見た。夕焼けが、赤かった。あの、異世界の赤い雲海とは、ちがう。もっと優しい赤。三島の夕焼けだ。この空を守りたい。四つの城も、向こうのみんなも。ぜんぶ。欲張りなのは、分かっている。それでも――一つだって、諦めたくなかった。


 翌日。四つの軍団が、初めて同時に動いた。


 東海道の上空。黒殻騎の大部隊が、三島へ向けて進軍していた。長い、黒い列。これまでなら、四つの城はばらばらに迎え撃って、各個撃破されていた。けれど、今日は、ちがった。


 まず、白角騎士団が、先頭を斬り裂いた。たった一騎が、後ろの兵を待たずに、黒殻騎の列へ突っ込む。誰とも歩調を合わせない。研ぎ澄ました一念だけで駆る。一騎の誓気、というのだと、ガレスが前に言っていた。最速。最硬。けれど、その一念がほんの少しでも迷えば、たちまち脆くなる、諸刃の流し方だと。


「白角突」


 隊長の声とともに、白角の鎧巨兵が、全身を一本の角に変えた。膝を畳み、肩を絞り、機体じゅうの力を、剣の切っ先ただ一点へ集める。槍の穂のように尖った突進が、黒殻騎の隊列の、いちばん厚いところを、まっすぐ貫いた。割れた。


 その割れ目へ、すかさず鋼壁重騎団が入った。白角の一騎とは、まるで逆だ。何機もの兵が、肩を寄せ、盾の縁を噛み合わせ、「ここを守る」という想いを、鎖のように手渡していく。一人倒れても、隣がその位置を継ぐ。だから、崩れない。連環誓気――繋がった誓いで動く流し方だった。


「鋼壁陣」


 大男の号令で、盾が連なり、ひとつの壁になって前へ押し出した。動く城壁。割れ目を押し広げ、黒殻騎を二つに断ち割って、退路を塞ぐ。守りは、無敵。ただ、攻めには転じにくい。だから、ここで止めて、白角に前を譲る。役割が、はっきりと噛み合っていた。


 空からは、翡翠翼騎団が舞い降りた。翅が、光を跳ね返す。空を飛んだ記憶。風の手触り。それを誓気にして、浮く。風の記憶、という流し方。記憶を奪われれば、翼は止まる。駿府で、玄弥は一度、それを見ていた。飛べる記憶を抜かれて、墜ちた空兵たちを。けれど、今日の翼は、生きていた。


「翠翼旋」


 団長の声。翡翠の翼が、こまのように旋回しながら、刃を横に薙いだ。逃げようとする黒殻騎の頭上を、高速で舞って、その退路を、上から断つ。


 そして後方では、蒼帆魔導艦隊が砲門を構えた。船一隻に乗り組んだ全員の、「故郷へ帰したい」という想いを、帆へ集める。一人では、弱い。けれど、束ねれば、絶大。満帆の誓気――みんなの想いを、帆いっぱいに孕ませて、撃つ流し方だった。


「蒼帆斉射」


 艦長の合図で、全艦の砲が、いっせいに火を噴いた。みんなの誓気を一束にした、一斉砲撃。黒殻騎の後方が、断たれた。


 黒殻騎の大部隊が、分断された。もろかった。黒殻騎は、誓気で動いていない。乗り手の怯えを、燃やしているだけの偽物だ。だから、繋がりも、芯も、ない。一機が混乱すれば、隣もつられて崩れる。本物の誓気で噛み合った、四城とは、まるでちがった。


 初めて、四つの軍団が、一つの生き物のように動いた。それぞれの強さが噛み合って、一つの流れになる。三島の社務所で、灯里が対応表を見ながら、各軍団へ指示をつないだ。凪人が、敵の隊列の切れ目を、絵で知らせた。玄弥は、四つの窓の間を走り回って、声をつないだ。


「白角、行ける!」「鋼壁、左、来てる!」「翡翠翼、上、頼む!」


 つなぎ目に立って、玄弥は、声を張り上げた。喉が、ひりひりした。


 黒殻騎の部隊は、分断され、混乱した。捕らえた乗り手は、その場で保護された。鎖を断たれて、自分を取り戻していく者が、続出した。東海道の戦線が、初めて、人間側に傾いた。


 灯里の額に、汗がにじんでいた。四つの城から、いっせいに報告が来る。それを、さばいて、つなぐ。「白角、東へ五十、敵密集」「鋼壁、第三防衛線、保持」――声が、飛び交う。凪人は隣で、ひたすら絵を描いた。敵の隊列の薄いところ。厚いところ。逃げようとする黒殻騎の向き。目に見えない戦場の流れを、絵にして、灯里に渡した。


「すごい」灯里がつぶやいた。「ほんとに、四つが、一つに動いてる」


 玄弥は、四つの窓の間を駆け回りながら、思った。これだ。これが、見たかった。誰かが特別な勇者で、ぜんぶをなぎ倒す、んじゃ、ない。みんなが少しずつ、得意なことを持ち寄って、背中を預け合う。そうやって、初めて、勝てる。一人の英雄じゃ、なく。みんなの、つながりで。


 走りながら、玄弥は、ふと気づいた。白角は、一騎で研ぐ。鋼壁は、繋いで重ねる。翡翠翼は、風の記憶で舞う。蒼帆は、みんなの想いを束ねて撃つ。――同じ誓気なのに。流し方が、四つとも、まるでちがう。


「四つの、流し方が、違う」玄弥はつぶやいた。「だから、噛み合えば、強い」


 同じだから、まとまるんじゃ、ない。違うから、足りないところを、埋め合える。それを、つなぐのが、自分の役目だ。


「勝てる」澪がつぶやいた。「初めて、勝ってる」


 玄弥も、そう思いかけた。その瞬間だった。


 空が、裂けた。黒殻騎の戦線の、ずっと後ろ。東海道の戦いを、まるごと飛び越えて。三島の真上の空が、いきなり割れた。そこから――降りてきた。


 巨大な、黒い王冠。歪んだ玉座。そして、複数の人間の記憶を継ぎ合わせた、異形の巨体。王級鎧巨兵。魔王。そして、その背後に、ローブをまとった、七つの影。七禍卿。


「戦線を、無視した」アヴァロンが青ざめた。「東海道の部隊を、囮にして。本隊が――境界を跳んで、まっすぐ、三島へ」


 四城が、初めてつながった。初めて、勝ちかけた。けれど、魔王は、その勝利を、まるで相手にしなかった。狙いは、最初から戦線では、なかった。三島。記憶鉱の樹の、根元。そして、玄弥。


「来たな」玄弥は、エクスカリバーを握った。手が、汗で滑った。「いよいよ、だ」


 信号が青に変わる音が、遠くで聞こえた。いつもの交差点の音。けれど、その上の空には、黒い王冠が降りてきていた。


『汝、何を守る』


 エクスの声が、いつもより緊張していた。


「ぜんぶだ」玄弥は、空をにらんだ。「町も、四城も、向こうのみんなも。――誰一人、置いていかない」


 最後の戦いが、始まろうとしていた。


読んでくださり、ありがとうございます。

この物語のテーマを、いちばん正面から書いた章かもしれません。特別な勇者が世界を救うのではなく、みんなが少しずつ責任を引き受ける。だから玄弥は、上に立つことを断ります。代わりに、白角と鋼壁の間、鋼壁と翡翠翼の間――そのつなぎ目に立つ。背中を預け合えるように。これが玄弥にできる、たった一つのことでした。

何百年も互いを信じてこなかった四軍団が、初めて一つの生き物のように動く。書いていて、胸が熱くなりました。けれど、勝ちかけたその瞬間に、魔王は戦線そのものを無視します。東海道の部隊は囮で、本隊は境界を跳んで三島の真上へ。記憶鉱の樹の、根元へ。

次章、三島総攻撃。大社前、源兵衛川、学校、駅、商店街。逃げ場のない一日が始まります。玄弥が、いちばん大切なものを、削りながら戦う日です。

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ここまで読んでくださりありがとうございます!
玄弥たちが向き合うのは、倒すだけでは終わらない怪物たち。
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