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役立たずと追放された俺の保存倉庫は、飢えた世界を救う最後の希望だった  作者: レモンティー


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第八十九話 届かなかった村の名前

救援隊が北のフェル村へ着いたとき、広場の鐘は鳴らなかった。

鐘を鳴らすはずの少年が、三日前に亡くなっていた。

「最後に届いた報告では、生きていると書かれていた」

俺は呟いた。

村長は首を振った。

「連絡を出したのは六日前だ。橋が落ちて、伝令が戻れなかった」

俺は持ってきた食料を配った。

温かい粥を食べる人々の顔に、安堵より疲労が濃く浮かぶ。

少年の母親は、配給所に現れなかった。

俺は家を訪ねた。

母親は小さな木の笛を磨いていた。

少年が鐘の代わりに使っていた笛だという。

「あと一日早ければ」

俺が言いかける。

「それは分かりません」

母親は静かに遮った。

「でも、あの子が最後に聞いたのは、誰も来ないという言葉でした」


その夜、俺は眠れなかった。

救援の遅れを記録した帳面には、理由がいくつも書かれている。

橋の崩落、雪、馬の病気、別の村の緊急搬送。

どれも事実だった。

だが理由があっても、少年が亡くなった事実は消えない。

翌朝、ミラが報告書を持ってきた。

「遅延の責任を調べよう。誰かを罰するためじゃなく、同じことを起こさないために」

調査で分かったのは、橋が落ちた後、救援要請が別の役所に回され、そこで二日間止まっていたことだった。

担当者は悪意なく、正規の承認を待っていた。

「規則を守っただけです」

担当者は泣きそうな顔で言った。

「規則が人を守れなかったなら、変えなければ」

俺は答えた。

食糧便は緊急連絡の仕組みを改めた。

橋が使えないときの迂回路、伝令が戻らない場合の再派遣、承認を待たずに少量の食料を先行させる条件。

村の鐘や笛の合図も、近隣集落へ共有した。

少年の母親は、変更された手順を読んだ。

「これで、次の子は助かりますか」

「必ずとは言えません。でも、何もしなければまた遅れます」

母親は笛を差し出した。

「なら、これを持っていってください」

俺は受け取る前に尋ねた。

「本当にいいんですか」

「名前を忘れないでほしいんです」

笛には小さく、少年の名前が刻まれていた。

俺はその名前を報告書の最初に書いた。

数字ではなく、一人の人間として記録するために。

フェル村で調査を続ける朝、母親は俺に一つだけ頼んだ。

「あの子のことを、かわいそうな話として売らないで」

報告書には少年の死を記したが、涙を誘うための言葉は加えなかった。

母親は報告書を受け取らなかった。

俺は控えを役所に残し、六日前の要請が止まった経路を調査記録へ添えた。

フェル村の少年の名を報告書に記したあと、俺は遅れた配達の経路を自分で歩いた。

崩れた橋の手前には、古い渡し場の跡があった。

使える状態ではなかったが、近隣の村人は増水時に別の浅瀬を使っていたという。

その情報は役所の地図に載っていなかった。

俺は村人たちと歩き、危険な場所に印をつけた。

次の救援で同じ道を通るなら、増水の基準を決めなければならない。

少年の母親は作業を見に来なかった。

ただ、夕方に窓から灯りが見えた。

俺はそれを確かめ、声をかけずに宿へ戻った。

フェル村での連絡会議が終わったあと、カイは一枚の地図を持って戻った。

救援路の一本が、雨季には通れなくなるという。

会議では誰も気づかなかった。

俺は承認済みの配達表に線を引き、別の道を探した。

変更には費用がかかる。

だがカイは

「道を知っている人間を会議に呼ばなかった費用だ」

と言った。

次の会議では、地図を描いた者の席が机の端に用意された。

正式な運用前に、笛だけで伝わるか予備試験をした。

最初の試験では、風向きが悪く音が届かなかった。

村人たちは丘の上に中継役を置き、もう一度試した。

今度は谷の向こうから返事が来た。

ただし、笛が聞こえたことと、担当者が荷車を動かせることは別だった。

母親はその試験に立ち会わなかった。

それでも俺は結果を書いた紙を彼女の家の戸口へ置いた。

読むかどうかは、彼女が決めればいい。

俺は笛の合図を聞いた。

「今度は知らせを受け取った人が、迷わず動けるようにしよう」

ミラは村の見守りを引き継ぐ三人の名を記録した。

フェル村では、連絡の試験を見守る子供たちがいた。

俺は今日の配給量と次便の予定を伝えた。

まだ確定していない到着時刻だけは、約束しなかった。


数日後、笛と合図板と伝令を連動させる本試験では、向こう岸から返事が来なかった。

村長は

「風が強いからだ」

と言った。

だが風ではなく、対岸の当番が交代時刻を知らなかったのだ。

俺は役所の担当者を呼んだ。

六日前の要請書を止めた、あの男だった。

「あなたに、今度は試験の記録をつけてほしい」

男は青ざめた。

「また失敗したら、私の責任になります」

「責任を一人に押しつけないために、誰が受け取り、誰が次へ渡すかを記録するんです」

試験をやり直した。

合図板は上がったが、伝令の馬が出るまで十五分かかった。

母親は遠くからそれを見ていた。

俺が説明しようとすると、彼女は言った。

「十五分の理由を、次の子の親に説明できますか」

俺は答えられなかった。

村長が馬を待機させる場所を変え、若者が交代札を二枚作った。

三度目の試験で、合図は途切れず隣村へ届いた。

それでも母親は笑わなかった。

「息子は帰ってこない。だから、うまくいった話だけを残さないで」

俺は最初の二度の失敗も記録に残した。

救援が届かなかった理由を隠さないことが、次に届けるための出発点だった。

村を出る朝、少年の母親が家の前に立っていた。

俺は彼女から預かった木の笛を荷袋から取り出した。

報告書に名を残しただけで、この笛を持ち去っていいのか、最後まで迷っていた。

「返したほうがいいでしょうか」

母親は首を振った。

「あの子が小さいころ、うまく吹けなくてね。息ばかり漏れて、音にならなかったの」

笛の縁には、何度も口を当てた跡が残っていた。

「大きくなったら鐘を鳴らす係になるって、毎朝練習してた。あの子は、知らせることが好きだったんです」

俺は笛を両手で包んだ。

「これを預かって、何をすればいいですか」

「次の子の知らせが届いたか、確かめてください。届かなかったときは、あの子の名前を思い出して」

彼女はそう言い終えると、初めて顔を伏せた。

俺は慰めの言葉を探さなかった。

何を言っても、少年のいない家に帰るのは彼女だからだ。

村境の丘で、若い当番が対岸へ合図板を掲げた。


しばらくして、向こう岸の板が上がった。

当番はその返事を確かめると、次の村へ走り出した。

俺は木の笛を取り出しかけ、手を止めた。

吹かなくても、知らせは届いている。

振り返ると、母親の家の小さな窓に朝日が当たっていた。

俺は笛を荷袋に戻し、走っていく若者の背中を見送った。

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