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役立たずと追放された俺の保存倉庫は、飢えた世界を救う最後の希望だった  作者: レモンティー


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第八十八話 百万人を救えない数字

各地から集まった報告を合計すると、必要な食料は現在の備蓄を大きく上回っていた。

ミラは計算を三度やり直した。

「全部の地域へ同じ量を配ったら、十二日で倉庫が空になる」

「優先順位をつければ?」

バルクが尋ねた。

「助かる地域は増える。でも後回しにされた場所では死者が出るかもしれない」

会議室は静まり返った。

俺は地図を見た。

赤い印が増えすぎて、村の名前が読めなくなっている。

「俺たちは、全員を救えると約束してきたわけじゃない」

口にすると、胸が痛んだ。

「でも、助けを求める声を無視していい理由にもならない」

議論は夜まで続いた。

子供を優先する案、重症者を優先する案、輸送距離の短い地域から救う案。

どれも一理あり、どれも誰かを置き去りにする。

そこでハンナが言った。

「食料を配るだけの表を作っているから足りないのよ。働ける畑と、動かせる水車も数えて」

彼女は農家だった。

穀物の袋ではなく、畑が生む次の収穫を見ていた。

俺たちは計算を変えた。

すぐに食べる分、収穫まで支える分、輸送を維持する分を分け、地域ごとに不足する日数を公開する。

さらに備蓄の余裕がある都市には、一定量の供出を要請した。

王都の商人たちは反発した。

「強制徴発か」

「違います。買い取り価格と支払日を公表します。無償では求めません」

だが資金が足りない。

黒穂との対立で信用を失った銀行も融資に慎重だった。

俺は自分の食糧便の設備を担保に出すと言った。

「それを失ったら、次の配達ができなくなる」

ミラが止めた。

「分かってる」

「分かっていない。あなたが一人で全部背負うと、組織まで潰れる」

ミラの言葉に、俺はその場の反応を見届け、まだ解決していない問題を確かめた。


翌朝、食糧便の仲間たちは共同保証の仕組みを持ち寄った。

小口の出資、収穫後の返済、監査人の選任。

誰か一人の英雄的な犠牲ではなく、負担を分け合う仕組みだった。

それでも計算上、全員に十分な食事を届けられる保証はない。

俺は最終表の余白に書いた。

「不足は隠さない」

ミラは到着予定の札を裏返し、まだ届かない村の名を赤く囲んだ。

俺は輸送担当を呼び、道が閉ざされた時刻を聞き取った。

遅れを隠す報告ではなく、次に動ける道を探す報告が必要だった。

会議の途中で、遠い町の代表が

「うちはまだ飢えていない」

と言った。

俺は

「だからこそ今、備蓄を数えてほしい」

と頼んだ。

余裕のある町が動けるうちに準備すれば、危機が来たとき救援を待たずに済む。

代表は帰り際に、町の倉庫を公開点検すると約束した。

銀行の代表は共同保証の説明を聞き、

「全員が少しずつ責任を持つなら、誰も責任を取らないのでは」

と問うた。

ミラは監査人を別に選び、月ごとに入出金を公開する案を示した。

誰かの失敗を皆で隠すためではない。

早く見つけて止めるためだ。

農民の一人は、字が読めないから署名できないと言った。

ハンナは数字を声に出して読み、隣の農民に確認してもらった。

銀行の代表はその様子を見て、条件付きの融資を検討すると答えた。

救援に必要な金はまだ足りない。

とりわけ北のフェル村からは、橋が落ちた後の連絡が途絶えていた。

俺は確認を急がせたが、返事は届かなかった。

それでも初めて、返済できる仕組みについて話し合えた。

共同保証の文書に最後の署名が入った夜、ミラは俺に休むよう命じた。

俺は反論しかけたが、鏡に映った自分の顔を見て言葉を飲んだ。

眠らずに判断を続ければ、いずれ誰かを危険にさらす。


翌日、配給表の訂正を求めて山岳の代表が戻ってきた。

海辺の診療所へ優先便を回せば、自国の村は二日待つことになる。

代表は村人に責められる覚悟で来たのだという。

ミラは善意だけで決めず、山の備蓄を再計算した。

三日目の便が遅れれば危険だ。

俺は中継地の御者二人に連絡し、悪天候のときの迂回路と代替の保存食を手配した。

代表は

「これなら説明できる」

と言った。

会議の末、診療所への便は一日早まり、山へは別の町から豆が送られることになった。

誰もが望む量には届かない。

だが地図の赤い印は、ただの不足の数ではなく、誰がいつ確かめ直すかを書き込む場所になった。


その日の午後、山岳の代表から別の申し出があった。

「うちの村には、食料を運べる荷役人が四人いる。海辺の診療所へ向かう便の積み替えを手伝わせてくれ」

ミラは表を見直した。

山の村は二日待つが、積み替えが早まれば診療所の便は半日短縮できる。

ただし山岳の人々に無償の働きを強いるわけにはいかない。

俺は賃金と宿泊先を確認し、代表に書面を渡した。

代表はその場では署名しなかった。

「村の四人にも選ばせたい。俺の善意で、あいつらの腹を空かせるわけにはいかない」

翌朝、四人から引き受けるとの返事が届いた。

ミラは配給表の欄外に、食料だけでなく働く人の食事も確保するよう書き加えた。

救援の数字は、運ぶ人間の暮らしを削って成立させてはならなかった。

海辺の診療所から返事が届いたのは、会議の二日後だった。

優先便で届いた豆は、患者だけでなく付き添いの家族にも分けられたという。

だが山岳の村からは別の知らせが来た。

予定の峠が崩れ、代替の保存食を積んだ荷車が引き返したのだ。

俺は『必ず届く』と言った自分の言葉を思い出した。

迂回路は用意していたが、現地の崩落までは読めなかった。

ハンナは山にいる農家へ連絡を取り、近隣の集落が持つ豆の残量を確かめた。

山岳の代表は自分の村へ向かう早馬を出した。

誰かが二日を譲った善意を、失敗した計画の言い訳にしてはならない。


翌朝、近隣の集落から運び込まれた豆で最初の鍋が動いた。

ミラは表の『到着予定』を『到着確認』へ書き換えた。

ミラは届かなかった村の欄を消さず、受領確認が来るまで赤線を残した。

数日後、配給表の再点検で後回しになる地域の名が読み上げられたとき、会議室の端にいた少年が立った。

「そこ、僕の村です。十二日待ったら、妹は歩けません」

地図の赤い点に、初めて声が付いた。

俺は数字を消そうとしなかった。

「必要な量は変わらない。でも順番は変えられる。いま届く分を先に送ろう」

ミラが反論した。

「それでは港の病院が一日遅れる」

「病院の患者数を確かめて。運べる食料と薬を分けて、両方の命を数え直したい」

少年は机に手をついた。

「僕の村を特別扱いしてほしいわけじゃない。妹の名前が、数字から消えないようにしてほしい」


翌朝、少年の村へ向かう荷車は一台だけだった。

十分ではない。

だがその荷台には、次の収穫まで生き延びるための豆と、村人が自分で畑を動かすための種が積まれていた。

「数字に終わりはなくても、今日の確認は終わらせよう」

俺は未着の便の担当を割り振った。

荷車の出発前、山岳の代表から荷下ろし場所の返事が届いた。

「荷下ろしは橋の手前にしてくれ。橋を渡れるのは人だけだ。村の者が袋を背負って運ぶ」

俺は少年に地図を渡した。

「君の村の人が決めた場所だ。俺たちはそこまで運ぶ」

少年は妹の名前が書かれた配給札を握りしめた。

「ありがとう。でも、橋の先の道は僕が案内する」

数字だけの表では見えなかった一本の道が、少年の指先から地図の上に現れた。

ミラは港の病院へ伝令を送り、患者の食事が一日分残っていることを確認した。

病院には薬を先行便で送り、翌朝の食料便は取り消さない。

少年の村へ出す荷車一台のために、別の患者を見捨てたことにしない。

確認の返事を聞いてから、俺はようやく出発の印を押した。

会議が終わる直前、俺は配達表の空欄に気づいた。

フェル村の救援要請は六日前の日付で、橋が通れないとある。

受領の印がなかった。

「誰が返事をした?」

誰も手を挙げない。

先ほどの少年の村とは別の経路だ。

ミラは伝令に、村へ入れなかった場合も戻る時刻を決めて報告するよう命じた。

俺はフェル村の名を今夜の配達先へ移した。

机の上に残る六日前の紙は、数字を数え直すだけでは埋まらない遅れを示していた。

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