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役立たずと追放された俺の保存倉庫は、飢えた世界を救う最後の希望だった  作者: レモンティー


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第八十七話 食べるために燃やした種

西の平原では、避難民が種麦を燃やして暖を取っていた。

「食べ物を燃やすなんて」

若い御者が声を上げた。

老人は黙って手をかざした。

凍えた幼児がその膝で眠っていた。

「燃やさなければ、今夜を越せない」

俺は言葉を飲み込み、食べるために燃やした種の行方を考えた。

種を守るべきだと何度も訴えてきた。

しかし、目の前の命を守るために種を燃やした人間を責める資格はない。

集落には薪がなく、近くの森は伐採を禁じられていた。

木を切れば罰金、種を燃やせば来年の畑がなくなる。

どちらも残酷な選択だった。

「燃料を届けよう」

バルクが言う。

「遠くから薪を運ぶと、その分食料が積めない」

俺は答えた。

そこで村の鍛冶屋が、壊れた農具と石を使った小さな共同かまどを提案した。

少ない薪で複数の鍋を温め、夜は人々が同じ建物で眠る。

問題は、建物を開ける権限だった。

穀物商の所有する倉庫が空いていたが、商人は

「商品が傷む」

と鍵を渡さない。

俺は倉庫の賃料を提示した。

商人は高額を要求する。

避難民の代表は怒って石を拾った。

「投げるな」

俺が止めた。

「壊せば、今夜使える屋根がなくなる」

商人の息子が倉庫の裏から現れた。

彼も寒さで震えていた。

父親は商品の保管に必死で、息子が三晩も寝ていないことに気づいていなかった。

「父さん、僕もあそこで寝たい」

その一言で、商人は鍵を出した。

ただし倉庫の補修費用は食糧便が負担する約束になった。

夜、共同かまどの火が灯った。

子供たちが温かい豆の煮込みを分け合う。

老人は燃やさずに残った種麦を俺に差し出した。

「もう、これしかない」

俺は受け取らなかった。

「これはあなたたちの来年です。保管場所を作りましょう」


翌朝、商人の倉庫の一角に種の保管棚ができた。

鍵は商人と避難民代表が一本ずつ持つ。

片方だけでは開けられない仕組みだ。

俺は帳面に書いた。

生き延びるための火と、来年の種。

その両方を守るには、食料以外のものまで届けなければならない。

共同かまどの当番表を作ると、老人が自分も薪を割ると言い出した。

若者は危ないから休めと言ったが、老人は

「火を見張ることならできる」

と笑った。

老人の見張りで、鍋を運んでいた若者が初めて二時間眠れた。


翌朝、若者は薪を割る前に老人の膝へ毛布を掛けた。

俺は当番表に老人の名前を書き加えた。

共同かまどができても、燃料は足りなかった。

鍛冶屋は火を消さずに保つ方法を考え、調理する時間を一日に二度へまとめた。

夜の見張りには、足の悪い老人が座った。

彼は火の色が変わると若者を呼び、煙突が詰まる前に知らせた。

子供たちは食事のあと、種袋の絵を描いた。

麦、豆、かぼちゃ。

俺は

「来年は全部育つといいな」

と言いかけてやめた。

育たない年もある。

だから一種類に頼らず、違う作物を少しずつ残す。

鍛冶屋は子供の描いた絵を棚に貼り、春まで毎日見えるようにした。

種の保管棚には、毎晩二人の当番がついた。

ある夜、子供がこっそり棚へ近づいた。

空腹で盗もうとしたのではない。

袋に描いた絵が雨で濡れていないか心配だったのだ。

老人は子供を叱らず、棚の扉を一緒に確かめた。

明日の食事を守る人と、来年の畑を守る人が同じ屋根の下にいる。

その光景に、俺は少しだけ希望を見た。

俺は子供の描いた種袋を棚へ戻した。

「今夜の食事と春の種、両方を守る方法を考えよう」

バルクは配給所の扉を開けたままにした。

外で待つ人にも、何が残っているか見えるようにするためだ。

「足りないなら足りないと書け」

係員は黒板の数字を消し、正しい残量を書き直した。

報告書の余白に、燃やされた種の量と来春までに補えない畑の名を残した。

吹雪の夜、共同かまどの薪が尽きかけた。

倉庫の棚には、春に蒔くための種袋が残っている。

娘は袋を抱きしめた。

「これを燃やせば弟は温まる。でも春には何もない」

老人は棚へ手を伸ばした。

俺は止められなかった。

代わりに、今夜だけ暖を取るために必要な燃料の量を鍛冶屋に尋ねた。

「あと二時間。炉を小さくしても、それだけだ」

バルクが馬の鞍を外した。

「隣村の廃屋に薪が残っている。取りに行く」

「吹雪だ。戻れないかもしれない」

「種を燃やさせるより、俺が行く方が正しいとは言わない。だから二人で行く。帰れなければ合図を出す」

俺は保存倉庫から食料を出し、帰路に必要な湯を入れた。

毛布は荷車に積み直す。

倉庫の五百キロという上限も、食べ物と飲み物しか入れられない制約も変わらない。

二人が戻ったのは、炉の火が消える寸前だった。

薪は足りたが、馬は雪で脚を傷め、翌朝の食糧便は遅れることになった。

「今夜は守れた。でも明日の便を遅らせた」

俺が言うと、娘が首を振った。

「次の冬は、雪が降る前に薪を集める。当番は私が書く」

老人は種袋を棚に戻した。

袋の底はまだ焦げていた。

失った種が戻ったわけではない。

今夜、新しく燃やさずに済んだだけだ。

俺は食糧便の予定表に、燃料を運ぶ便を一つ加えた。

食料だけ届いても、凍える夜は越せない。


翌朝、近隣の農家が少しずつ余った種を持ち寄った。

受け取る家族の名と春の返却方法は、商人と避難民代表が同じ帳面に書いた。

老人は孫の手に一袋を載せた。

「これは食べる麦じゃない。春まで守る麦だ」

孫は袋を棚へ戻し、扉に描かれた麦の絵を指さした。

「じゃあ、冬の薪はどうするの」

老人は鍛冶屋の方を向いた。

「明日から俺もかまどの火を見張る。雪が解けたら、村の皆で薪を集めよう」

俺は燃料の運搬を食糧便の正式な仕事に加え、種の保管棚と共同かまどの当番を別々に記録した。

一度種を燃やした人を責めるためではない。

次の冬、同じ選択を強いられないようにするためだった。

共同かまどの当番が始まって三日目、老人は鍛冶屋を呼んだ。

「同じだけ薪をくべているのに、昨日より湯がぬるい」

鍛冶屋は煙突の継ぎ目に手をかざした。

冷たい空気が流れ込み、熱が逃げている。

「薪を増やす前に、ここを塞ごう」

壊れた鍋の鉄板を切り、継ぎ目に打ち付けた。

老人は鍋を支え、幼い孫は離れた場所から火を見守った。


翌朝、同じ量の薪で二鍋多く粥が温まった。

「種を燃やさなくて済むかい」

孫の問いに、老人はすぐには答えなかった。

棚に残る焦げた種袋を見てから頷いた。

「少なくとも、今夜はな」

鍛冶屋は道具を片づけようとしたが、老人が呼び止めた。

「明日も煙突を見に来てくれ。俺にも直し方を教えてほしい」

燃やされた種の灰を、農夫は手のひらで掬った。

「これで冬は越せた」

俺はその言葉を否定せず、次の春に蒔く種をどこから運べるか尋ねた。

鍛冶屋は鉄板の切れ端を老人の手に渡した。

老人は燃やしてしまった種袋を畑の端に埋めた。

「春にここを見たら、次は種を残せるようにする」

孫は焦げた袋の上に小石を置き、来年植える場所を覚えた。

かまどの火が、二人の指先を照らしていた。

老人は孫の手に小石を握らせ、春になったらここへ来ようと言った。

「でも、これから蒔く種の数も一緒に覚えてくれ」

孫は棚の袋を一つずつ数え、最後の袋だけは祖父と二人で持ち上げた。

祖父は

「全部残そう」

とは言わなかった。

孫は残された種袋を祖父と数えた。

燃やした袋の跡に置いた小石を、祖父は動かさなかった。

「春になったら、ここから始めよう」

孫は土に印を付けた。

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