↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
役立たずと追放された俺の保存倉庫は、飢えた世界を救う最後の希望だった  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
84/110

第八十四話 港に着いた船は空だった

南の港から届いた知らせは、予定していた救援船が空荷で到着したというものだった。

「積み込みは済んだはずだ」

リオが船荷証券を机に広げた。

書類には麦二百袋。

だが船倉には濡れた麻袋が三枚残っているだけだった。

黒穂連合商会の仕業だと疑う声が上がった。

俺はすぐには頷かなかった。

「証拠を見てから決めよう」

港へ向かう途中、避難民の列が街道を塞いでいた。

子供を抱いた父親が、荷車に乗せてほしいと頼む。

「食料を取りに行く船なんだ」

御者が困った顔をした。

俺は荷台の積み方を変え、病人と幼児を先に乗せた。

そのぶん到着は半日遅れた。

港では船長が拘束されていた。

積み荷を盗んだ疑いだ。

「俺は確かに積んだ。出航前に船が一度だけ検査で止められた」

検査記録には別の船の番号が書かれていた。

船長は読み書きが不得手で、番号の違いに気づかなかったという。

俺は倉庫番、検査官、荷役人の話を別々に聞いた。

証言が一致したのは、嵐の前夜に港の第二倉庫へ荷を移したという点だけだった。

第二倉庫を開けると、麦袋は積まれていた。

ただし半分は海水を吸い、食用にできない状態だった。

犯人探しより先に、残った麦を検査して運び出す必要があった。

「誰かが盗んだわけじゃないのか」

リオが尋ねる。

「まだ分からない。でも管理を誤ったことは確かだ」

検査官はうつむいた。

高潮の警報を受け、独断で倉庫を変えたのだという。

安全なはずの倉庫には、床下から海水が入り込んでいた。

船長は釈放された。

しかし失われた麦は戻らない。

俺は残存分を北へ回し、港の近くでは魚の干物と豆を集める手配をした。

「書類が正しくても、食料は届かないことがある」

リオは船荷証券を折り畳んだ。

「だから、積む時と降ろす時の両方で確かめるんだな」

港を出るころ、船長が新しい検査票を持ってきた。

今度は自分で数字を読めるよう、荷役人に教わったという。

失敗を隠さなかった人間たちが、次の船を動かし始めていた。

港の片隅で、荷役人の少年が濡れた麦を捨てる作業を見つめていた。

「食べられないなら、家畜にやればいいのに」

リオは傷み方を確かめ、危険なものは飼料にも回せないと説明した。

捨てる量を減らしたい気持ちは皆同じだった。

それでも安全を削れば、次の被害を生む。

少年は黙って、袋の数を記録し始めた。

濡れた麦の処分を決める会議では、船主が損失を港の役所に負わせようとした。

役所は船長の責任だと主張した。

俺は誰が悪いかを決める前に、いつどの判断がされたか時刻を並べた。

高潮警報が出た時点で避難先の倉庫を確認していなかったこと、移動後に床の高さを測らなかったこと、船長への連絡が遅れたこと。

責任は一人に押しつけられない。

港の会議は長引いたが、最後には倉庫の床を上げる費用を複数の関係者が分担した。

損失の補償はまだ決着していない。

だが次の船の麦を守るための工事だけは、その日のうちに始まった。

港を離れる前、リオは倉庫の壁に高潮の水位を刻んだ。

線の上には日付を書き、次に嵐が来たとき誰でも危険を判断できるようにした。

港の子供たちがそれを見て、なぜこんな高いところまで水が来るのか尋ねた。

リオは説明し、決して面白半分で近づかないよう教えた。

船長は新しい航海日誌の最初の頁に、失われた麦の袋数を書いた。

忘れないための数字だった。

船長の釈放が決まった後も、若い船員は港へ戻れなかった。

倉庫を移した夜、検査官に命じられて荷を運んだことを証言したため、雇い主から次の航海を外されたのだ。

リオは船員の名を掲示せず、時刻と倉庫番号だけを監査役へ渡した。

船長は自分の航海日誌を差し出し、

「俺の記録も調べてくれ」

と言った。

調査の結果、高潮警報を受けた移送自体は妥当だったが、床下の浸水を確認しなかった管理上の過失が明らかになった。

港の役所は補償額をすぐには決められなかった。

それでも次の船を待たせず、床の高い第三倉庫を使う許可を出した。

若い船員には新しい積み込みの立会人という仕事が与えられた。

船長は彼の前で一袋ずつ数え、二人で記録に署名した。

「次は、空の船倉を見てから騒ぐんじゃない」

リオは港の水位標を見上げた。

誰かが黙ったまま失う麦を、これ以上増やさないための線だった。


三日後、補償を求める農家たちが港に集まった。

役所の担当者は

「調査が終わるまで払えない」

と繰り返した。

だが、畑へ戻るための種麦まで海水で失った農家に、調査の終了を待つ余裕はなかった。

「帳簿に損失を書くだけでは、次の収穫が消えます」

俺は船長に、まだ使える豆と種麦の在庫を確かめてもらった。

船長は自分の取り分を先に減らすと申し出たが、若い船員が止めた。

「船員の賃金まで削れば、次の船を動かす人がいなくなります」

リオは農家、港、輸送組合の三者で暫定の貸付証を作った。

貸す量、返す期限、返せなかった場合の協議先を明記する。

農家の一人は紙を握りしめたまま言った。

「助かったとは、まだ言えん。だが畑を捨てずに済む」

俺はその言葉を記録した。

失った麦の責任は消えない。

それでも次の収穫を守る仕事は、判決より先に始められる。


翌朝、第三倉庫の床を調べると、板の下に昨夜の雨水が残っていた。

若い船員が指摘しなければ、誰も気づかないまま袋を積んでいただろう。

「また出航を遅らせるのか」

船主は苛立ったが、船長は首を振った。

「一刻待てば確かめられる。前の二百袋は、待たなかったせいで失った」

若い船員が前へ出た。

「干物を積める小舟が二隻あります。漁師を呼んできます」

船長は頷いた。

「今度は、積み荷を俺とお前の二人で確かめよう」

漁師は干物の樽を開けて傷みを調べた。

避難所の今夜の食事には使えるが、失われた種麦の代わりにはならない。

俺は避難所への配達表と、農家へ返すべき種麦の補償表を分けた。

荷役係が第二倉庫の袋の印を見比べ、顔を上げた。

「移した順番と記録が合わない」

航海日誌には高潮を避けた移送時刻があるのに、受取人の署名がなかった。

船長は自分の名で不足分を申告し、若い船員は床の水を拭き取ってから次の積み込みに立ち会った。

干物を積んだ小舟は避難所へ出せる。

しかし種麦を失った農家には、補償と代替の種を別に届けなければならない。

港の鐘が鳴るころ、小舟は岸を離れた。

船長はまだ空いたままの種麦の欄に、翌日の調査時刻を書き込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。