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役立たずと追放された俺の保存倉庫は、飢えた世界を救う最後の希望だった  作者: レモンティー


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第八十五話 雪の峠で選ばれなかった村

北の山脈では、季節外れの雪が峠を塞いだ。

食糧便の輸送隊は二つの村に向かっていた。

東の村には百八十人、西の村には七十人。

積んだ食料は、どちらか一方へ先に届ける量しかない。

「人数が多い東へ行こう」

バルクが言った。

「西には薬を飲む前に食べなければならない病人がいる」

ミラは反論した。

どちらを選んでも、残る村は雪の中で待つことになる。

俺は地図を広げ、到着までの時間と村の備蓄を確かめた。

西の村は小さくても、峠の向こうへ回る道がない。

東には細い林道が一本残っている。

「俺が西へ行く。東には荷車を回してくれ」

「保存倉庫は五百キロだぞ」

「分かってる。だから西へは三日分だけ。東は運べるだけ運ぶ」

雪道を歩き始めた俺の背後で、御者たちが縄を結び直した。


夕刻、雪が激しくなった。

案内人が道を見失い、谷へ滑り落ちかける。

俺は案内人の腕をつかんだ。

しかし、その拍子に自分の荷物が斜面へ落ちた。

保存倉庫に入れていない毛布が失われた。

食料は無事でも、夜を越す準備が足りない。

「引き返そう」

案内人が言った。

俺は迷った。

無理をすれば、救う側が倒れる。

だが引き返せば、西の村の病人は明朝まで持たないかもしれない。

二人は岩陰で風を避け、持っていた笛を一定の間隔で吹いた。

かつて林業で使われた合図だ。


やがて闇の向こうから返事が来た。

西の村の猟師が、雪の中で救援隊を探していた。

「村で待っていろと言われたんだが、待てなかった」

猟師は笑った。

村に着くと、病人は意識が薄れていた。

ミラの指示を書いた紙を読み、少量の温かい粥を作る。

食べさせる速さを慎重に確かめながら、夜通し看病した。

翌朝、東の村から伝令が来た。

荷車は林道の倒木で止まったが、村人が協力して道を開き、夜明け前に到着したという。

「二つとも間に合ったのか」

バルクが息を吐いた。

「今回はね」

俺は少し考えてから答えた。

選択を間違えなかったからではない。

選ばれなかった側にも、動いてくれる人がいたからだった。

東の村へ向かった御者は、車軸が曲がった荷車を引いて戻ってきた。

倒木を越える際、車輪に無理な力をかけたのだという。

「急がなければ食料が届かなかった」

「だが、次の便まで止めてしまう」

とバルク。

責めるためではなかった。

鍛冶屋に修理を頼み、予備の車軸を手配するためだ。

俺も西の猟師から、雪解け後は落石が増えると教わった。

地図に危険な斜面を記し、二村の報告書には

「次便の経路確認が未完了」

と書いた。

食料を届けたことと、次も届けられることは違う。

医師は礼状の裏に、山道で使える避難小屋の位置を書いた。

ありがとうの言葉より、次の命を守る情報がありがたかった。

俺は病人の息遣いを確かめた。

「助かったと決めるのは早い。医師の指示を待とう」


二日後、次の輸送を準備していると、東の村の使者が峠の下で俺たちを待っていた。

「夜明けまでに届かなければ、産後の母親が倒れる」

最初の便は届いたが、産後の母親に必要な食料が足りないという。

俺は西の病人に渡す分を削ろうとして、手を止めた。

「削る前に、誰が何を持っているか確かめよう」

東の村の使者は、雪で閉じた道の向こうに共同備蓄の乾燥豆があると教えた。

だが鍵を持つ倉庫番は西の村に避難している。

俺たちは伝令を走らせず、山の笛で倉庫番を呼んだ。

返ってきた合図は、開けてよいという許可ではなく

「本人が向かう」

という返事だった。


その夜、倉庫番は猟師に支えられて峠の手前まで来た。

鍵を受け取った東の使者は、立会人二人と受領書を用意し、安全を確認した林道から共同倉庫へ向かった。

翌朝、東の村には豆が届いた。

西の病人に渡す粥も減らさずに済んだ。

ただ、雪の中を歩いた倉庫番は足を痛めた。

俺は礼を言うより先に、医師の診察と帰りのそりを手配した。

「次は俺を呼ぶな」

と倉庫番が言った。

「村に鍵を預けられる人間を三人作れ」

俺はその言葉を地図の余白に書いた。

命を救った人を、次の救援でまた危険にさらしてはならない。

さらに翌朝、東西の村へ続く分岐点で、交代の御者が一人足りないことが分かった。

若い娘が手を挙げると、父親は雪道を知らない娘を止めた。

「峠の下までなら走れる。そこから先は村の案内人に渡す」

娘は自分の役割を地図で示した。

俺は二つの村へ伝令を出し、無理に峠を越えない条件で任せた。

西の村からは、病人を動かせず、看病する家族の食料も残り少ないと知らせが来た。

娘は峠の手前で地元の猟師に荷を引き渡し、幌を防風幕として貸した。

危険な坂へは入らず、猟師が村まで届けた。

病人の母親は受け取った粥を冷ましながら尋ねた。

「東の村は……?」

「別の便が向かっています」

猟師の報告を伝える娘の声は震えていた。

峠の手前で待つ間に手袋は濡れ、頬には霜がついていた。

父親は叱ろうとして、娘の手を見た。

「怖かった。でも、引き渡す場所を決めていたから戻れた」

「次は一人で行くな」

父親は自分の縄をほどき、雪道で使う結び方を娘の指に教えた。

「それから、引き返す時刻を決めろ。届けるだけじゃない。帰ってこい」

父親は一度、娘の濡れた靴を脱がせて傷を確かめた。

指先が赤く腫れている。

「次の便は俺が行く」

「お父さんも一人じゃ駄目だよ」

峠の分かれ道には、先に着けなかった村の名が残っていた。

俺はその名を消さず、翌朝の便の一番上に書いた。

東の村の欄には到着予定を書かず、翌朝の峠の確認担当と連絡方法だけを記した。

御者は自分の休息時間を削ろうとしたが、猟師に止められた。

「生きて戻るのも配達だ」

娘が言うと、父親は苦笑した。

二人は地元の猟師を呼び、危険な斜面を地図に記した。

無事に帰るための約束は、娘だけに守らせるものではなかった。

娘は頷き、濡れた縄を握り直した。

西の村の家族に渡った食料と、父親が教えた帰り道の結び目を、どちらも忘れないように。

雪の峠で後回しにされた村の女は、怒るより先に子供の足を温めた。

俺は次便の到着を約束するだけでなく、峠の手前に待機する食料を分けた。

母親は受け取った食料を今夜と明日の袋に分けた。

隣家の老人が戸を叩くと、彼女は明日の袋から一食分を取り出し、二人で残りを数え直した。

「明日の分まで減らしていいのか」

と老人がためらう。

母親は空の鍋を見せた。

「一人では火を起こせない家もあるでしょう。明日は一緒に炊きましょう」

二人は雪が緩む時間を選び、隣家までの道に目印の枝を立てた。

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