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役立たずと追放された俺の保存倉庫は、飢えた世界を救う最後の希望だった  作者: レモンティー


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第六十九話 一万人分の食料が消えた

国境の村の炊事場で、エルザが再訪記録を俺に見せた。

閉鎖中に食事を抜いた十一世帯は、再開後の二日間に炊事係と配達人が一軒ずつ訪ね、温かい粥と翌日用の豆を届けた。

十一世帯すべてで受領を確認したが、備蓄が尽きた家には三日後の再訪を約束し、継続支援の担当を村の三人に分けた。


三日後、エルザと村の担当三人は約束どおり十一世帯を再訪した。

九世帯には前便の豆が残っていたが、病人のいる二世帯では鍋が空だった。

二軒には共同炊事場からその日の粥を運び、翌週分の豆を補充した。

村の担当者は各戸の残量を確かめ、便が遅れれば炊事場の備蓄を回すと決めた。

支援を続ける仕組みを村人自身が作った。

最後の家では、老人が椀を受け取る前に、戸口の孫を呼んだという。

エルザは

「全員へ初回の一食を渡すことと、明日も食べられるようにすることは別の仕事」

と書き添えていた。

俺はその一行を読み、次の便を村人自身が決め始めたことを知った。

翌日の昼、俺たちが国境の村を発つ支度をしていると、帝国南部から別の救援要請が届いた。

そこに書かれた人数は、これまでとは桁が違った。

国境から南へ二日の平野に、避難民が一万人集まっているという。

俺は帳簿を開いた。

保存倉庫の五百キロでは、一万人の一日分にも足りない。

馬車と船を使っても、輸送の手配に時間がかかる。

「一万人全員へ届けるには、現地の商人と農家を動かすしかない」

ミラが頷いた。

「でも帝国の商人が、王国の食糧便を信用する?」

俺はエルザに協力を頼み、帝国側の穀物商たちと会うことになった。

場所は中州。

互いの兵が見守る中、五人の商人が集まった。

「金は先払いだ」

と一人。

「受領が確認できた分から支払います」

と俺。

「敵国の男の約束など信じられるか」

俺は王国側の取引記録を見せた。

何度も破られた契約も、失敗した輸送も、消さずに残してある。

「失敗が多いな」

と商人。

帝国側の女商人は、最初の百袋を出す条件として御者の安全を求めた。

「食料を失うのも怖いが、人を失う方が怖い」

俺は護衛を軍へ丸投げせず、村の道案内と停車場所の情報を集めた。

契約には危険な道を避ける権利も明記した。

「だから、どこで失敗したか分かります」

商人たちは顔を見合わせた。

最年長の女商人が言った。

「最初は百袋だけなら出せる」

こうして帝国側での買い付けが始まった。

穀物は王国へ運ばず、帝国内の倉庫から避難所へ直接送る。

国境を越えるのは資金と確認書類だけだ。

最初の百袋が届き、二日目には追加の二百袋が出発した。

しかし三日目、避難所の責任者から緊急の報告が届いた。

追加便が途中で止められたのだ。

戻った御者の一人は

「もう二度とあの道は走らない」

と言った。

俺は引き止めなかった。

危険を冒すかどうかは本人が決めることだ。

代わりに別の道を探し、護衛を増やす案を商人へ出した。

安全のための費用は増える。

だが、安さだけを優先すれば、次の犠牲者が出る。

女商人は軍の倉庫へ入る許可を求めたが、返事は三日間届かなかった。

彼女は怒りを隠さず、

「契約を守らない国に商売は続かない」

と言った。

俺はその言葉を記録した。

救援を続けるには、善意だけでなく商売の信用が必要だった。

避難所から届いた手紙には、子供が描いた馬より大きな荷車があった。

ミラは笑ったが、俺はその絵を帳簿に挟んだ。

届いたという報告のない荷を、届いたことにはできない。

『追加便の二百袋が届いていない』

輸送隊の御者は全員無事だったが、荷車は空で戻っていた。

受領印はある。

なのに食料がない。

女商人は避難所の係に印を確かめ、押した人の名を尋ねた。

俺が指示するより早く、彼女は次の配達人に確かめ方を教えていた。

避難所の責任者が、泥だらけの地図を広げた。

「二百袋を取り戻しても、明日の食事は足りません。ほかの道はありませんか」

行方を追っていた追加便二百袋のうち、百八十六袋、九千三百キロを徴発所で確認できた。

残る十四袋は所在不明だ。

確認した袋は立会人のもとで避難所へ運び直す手配をしたが、到着までは配給に数えられない。

一万人の一日分は五千キロ。

取り戻せても二日分には足りなかった。

「最初の便を救援の完了にしてはいけない」

女商人は指で川沿いの道をなぞった。

「軍の徴発所を避けるなら、東の渡し場から入れる。ただし荷車は一日に六台までよ」

御者頭が答えた。

「一台に二十袋。六台で百二十袋、六千キロだ。川が増水しなければ、明日の夕刻から毎日運べる」

「それでも足りない日が出る」

とミラ。

俺は現地の農家が提供できる量を尋ねた。

避難所近くの三つの村が、一日二十袋、千キロを継続して出せるという。

ただし種麦には手をつけない条件だった。

「東の道で六千キロ、地元で千キロ。初日に七千キロ届けば、五千キロを配り、二千キロを予備として残せる」

女商人は首を振った。

「計算の上ではね。渡し場が止まれば六千キロが消える。もう一本、南の丘道を調べておくわ」

俺たちは、到着した袋だけを数えることにした。

出発予定の数字で避難民を安心させるわけにはいかない。


翌日、東の渡し場に最初の六台が着いた。

御者は袋を下ろすたび、避難所の係と声を合わせて数えた。

百二十袋、六千キロ。

現地の二十袋、千キロも届いた。

係は合計七千キロの受領を確かめ、五千キロをその日の配給に回し、残り二千キロを予備として封印した。

鍋を炊く水は井戸番が隣村から確保していた。

列の最後で待っていた少年が、空の器を胸に抱えたまま俺を見た。

「明日も来る?」

俺は約束しかけて口を閉じた。

天候も橋も、俺には決められない。

「明日の分も運ぶ予定だ。もし遅れたら、ここに理由と次の時間を書く」

少年は掲示板を見上げた。

女商人が自分の名で翌日の担当欄に署名した。

「俺がいなくても、この人たちが運ぶ」

少年はようやく器を差し出した。

湯気の立つ粥が注がれ、彼は一口飲んでから、隣にいた妹へ器を渡した。

俺の保存倉庫は五百キロしか入らない。

けれど目の前には、俺の能力を通らずに届いた食料があった。

ところが夕方、渡し場の係から連絡が入った。

上流の雨で水位が上がり、東の渡し場が数日止まる恐れがあるという。

女商人は南の丘道から戻った御者に尋ねた。

「一日に何台なら安全に通れる?」

「二台だ。二十袋ずつで四十袋、二千キロ。それ以上は崖道で車輪がすれ違えない」

地元の農家から届く千キロを合わせても三千キロ。

一万人へ一日五千キロ配る計画では、毎日二千キロが不足する。

「予備の四十袋、二千キロで不足を埋められるのは一日だけ。雨が三日続けば、その後の二日で計四千キロ足りない」

避難所の責任者が不足を掲示板に書いた。

俺は隣で、次の道を探した。

女商人は地図の西端を指した。

「石切場へ通じる旧道がある。道幅は狭いけれど、荷を小分けにした驢馬なら通せるはずよ」

御者頭は即答しなかった。


翌朝までに橋板と崖の状態を確かめ、通れると分かるまで人を送り込まないと決めた。

その夜、避難所の母親たちが集まった。

「鍋を洗う水は私たちが運びます。食料用の荷車を水で塞がないで」

井戸番も、隣村から水を運ぶ人員を引き受けた。

俺たちはその申し出を輸送表に書き加えた。

翌朝、旧道を調べた案内人が戻った。

「崖の崩れはない。驢馬十頭を二往復させられる。荷は一頭五十キロまでだ」

一往復五百キロ、二往復で千キロ。

さらに川下の漁村が、小舟で一日二十袋、千キロを上流の安全な船着き場まで運べると返事をくれた。

船着き場から避難所までは、村人が手押し車で運ぶ。

「丘道二千、農家千、旧道千、小舟千。これで一日五千キロだ」

ミラが数字を読み上げた。

「ただし旧道と小舟は天候次第。どちらかが止まれば、予備の二千キロを使えるのは一日だけね」

「そうだ。安全が確認できない便は出さない。翌日の不足が見えた時点で、帝国側の別の倉庫にも追加調達を頼む」

俺は新たな仕入れ依頼に署名した。

代金も御者の賃金も、後回しにはしなかった。

東の渡し場の増水は二日続いた。

初日の夕方、川下の小舟が来ないと分かったとき、配給係の若者は予備袋を開ける手を止めた。

「明日も来なかったら、子供の分までなくなる」

丘道二千、農家千、旧道千の計四千キロが届き、初日の予備二千キロから千キロを補って五千キロを配った。

予備は千キロに減った。

明日も小舟が止まれば、残りも尽きる。

若者は自分で連絡係を選び、荷役人の交代表を作った。

「明日の便が遅れたら、俺が列に説明する」

俺はその名前を掲示板に記した。


翌日は小舟が再開し、丘道二千、旧道千、農家千、小舟千の計五千キロが届いた。

必要な五千キロを配り、予備の千キロには手を付けずに済んだ。

掲示板には到着量と代替便の担当を記した。

列の最後にいた少年は、今度は掲示板の連絡先を母親に指さした。

母親は配給係に声をかけた。

「小舟が止まったら、私たちにも知らせてください。水汲みや荷運びなら手伝えます」

係の若者は交代表を広げた。

母親は名前を書きかけ、背中で眠る幼い子を抱き直した。

「荷運びには出たい。でも、この子を置いていけない」

炊事係の女が手を挙げた。

「私の当番が終わる昼までは、炊事場で預かれる。午後は誰か頼める?」

水汲みを終えた老人が頷き、二人は預かる時刻を一枚の札に書いた。

母親は札を確かめてから、翌日の荷運び欄に自分の名前を記した。

「遅れたら、子供を迎えに戻っていい?」

「もちろん。代わりの人も決めておこう」

若者が隣の欄へ予備の担当者を書き込むと、母親はようやく肩の力を抜いた。

五百キロの保存倉庫では一万人を支え続けられない。

だが四つの道を動かす人々には、子供を預かる手もあった。

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