↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
役立たずと追放された俺の保存倉庫は、飢えた世界を救う最後の希望だった  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
66/110

第六十六話 救援隊を裏切り者と呼ぶ王都

王都へ戻った俺を待っていたのは、感謝状ではなく召喚状だった。

『敵国への不当な物資供与の疑いにより、食糧便代表タクトを審問する』

軍務院の廊下には、北方救援で世話になった御者たちが立っていた。

彼らは目を合わせようとしない。

「巻き込んでごめん」

と俺が言うと、組合長は首を振った。

「謝るな。ただ、王都で食糧便が止まれば、うちの村も困る」

審問官は三枚の記録を机に並べた。

国境で渡された食料、帝国軍に徴発された袋、帝国兵への医療対応。

「これらが敵国の軍事力を支えた可能性を否定できるか」

「徴発された分は確認しています。回収できなかった八袋も隠していません」

「ならば過失を認めるのだな」

俺は深呼吸した。

ここで感情的になれば、救援活動がすべて無責任な善意として片づけられる。

「過失の可能性は認めます。ただ、どの袋が誰に渡ったかは記録があります。民間人へ渡った分と混ぜて判断しないでください」

傍聴席から罵声が上がった。

「敵国の味方め!」

審問の傍聴席には、救援に反対する兵士の家族もいた。

息子を戦場で失った母親は

「敵の子に食べさせる麦があるなら、うちの子にも届けてほしかった」

と泣いた。

俺は言葉を飲み込み、救援隊を裏切り者と呼ぶ王都の行方を考えた。

自分の行為を正しいと主張するだけでは、その悲しみは消えない。

ミラが立ち上がりかけたが、俺は目で制した。

審問官は次に資金の話を持ち出した。

王都の救援基金が不足する中、敵国へ食料を送ったことは国民への背信ではないか。

「北方九村への便は減らしていません。敵国向けの食料は、用途を指定して寄付された分と、現地の交換取引で確保した分です」

審問が長引く間、ミラは王都の広場で救援の数字を説明した。

誰かが

「敵国へ百袋送るなら国内へ百袋増やせ」

と叫んだ。

彼女は

「その百袋は、帝国側の商人が現地で調達したものです」

と答え、資金の出どころを示した。

怒っていた男はすぐには納得しなかったが、紙を一枚受け取って帰った。

別の日、軍人遺族の女性が食糧便を訪れた。

彼女は寄付をするためではなく、息子の部隊に食料が届かなかった理由を知りたかった。

俺は軍の記録に触れられないと伝え、調査窓口を案内した。

できないことをできると言わない。

それでも、問いを放置しない。

女性は帰り際に

「逃げないで聞いてくれたのは初めて」

と言った。

「その証拠は?」

ミラが分厚い帳簿を差し出した。

支出先、寄付者、輸送費、受領印。

すべての日付が並んでいる。

審問官の顔が変わった。

俺は審問の帰りに市場を歩いた。

店先には穀物があり、買う人もいる。

それでも食糧便が止まれば届かない場所がある。

敵国への救援が批判される理由も、国内の不安も、帳簿の数字だけでは消せなかった。

審問の結論が出るまで、ミラは食糧便の仲間へ短い手紙を書いた。

『国境便は停止中。

国内の便は従来どおり』

出発できない御者が手綱を握り直し、

「許可が戻っても、家族が暮らせる賃金がなければ走れない」

と言った。

俺は答えを急がず、組合長と一緒に未払い運賃を一件ずつ確かめた。

審問官が帳簿を閉じたあと、別室で軍務官が俺へ尋ねた。

「本当に敵国の民間人だけに届いたと言えるのか」

俺は

「すべてではありません」

と答えた。

奪われた袋があり、追跡できない分もある。

その事実を隠せば、都合のいい物語になる。

「だから再発防止の条件をつけてください。無条件の許可は求めません」

軍務官はしばらく黙っていた。

王都の広場では、二人の商人が口論していた。

一人は国境便への寄付を募り、もう一人は

「自国の孤児院が先だ」

と訴えている。

俺は双方の話を聞き、国内の救援状況を示す掲示板を作ることにした。

寄付者が届け先を選べるようにする一方、緊急性の高い場所を知らせる。

選択のためには、正しい情報が必要だった。


その夜、ミラは机に突っ伏して眠ってしまった。

帳簿を何冊も照合し、数字の間違いを探していたのだ。

俺は毛布を掛け、彼女の書いた欄を見た。

『未払い運賃、翌週再確認』

国境の向こうの命を守るために、こちらの御者の生活を壊してはならない。

翌朝、俺は最初に運送組合へ向かい、支払い予定を改めて確認した。

「ここまで公開しているのか」

「公開しなければ、疑われるのは当然です」

とミラ。

しかし判決は出なかった。

審問官は調査継続を告げ、食糧便の国境向け輸送を一時停止した。

帰り道、俺は壁に貼られた紙を見た。

『敵に麦を送る者は、味方を飢えさせる』

その下に、小さな字で誰かが書き足していた。

『うちの娘は食糧便に救われた』

夜、ラトナ村から使者が来た。

最初に救った少年の村からだった。

審問後、俺は軍人遺族の支援窓口を訪ねた。

国内で食料が不足する家庭の申請が遅れていると知り、国境便とは別の担当を増やすよう提案した。

敵国を救うことと、自国の困窮者を忘れないことは両立させなければならない。

「村のみんなで集めた豆です。国境へ持っていってください」

袋は小さかった。

村にも余裕はない。

俺は受け取れなかった。

「春の種まで出したら駄目だ」

使者は笑った。

「種は別に取ってある。これは去年、あんたが教えてくれた分け方だよ」

調査継続の間、国境便の再開には条件が付いた。

敵軍への供与を認めたのではなく、村の受領者を確認できる民間救援に限るというものだ。

俺が条件を読み上げると、若い御者が手を挙げた。

「兵が袋を奪いに来たら、俺は止まっていいんですね」

俺は頷いた。

「荷より命を守って、両岸の連絡役へ知らせてくれ」

御者はようやく手綱を取り、隣の仲間へ同じ言葉を伝えた。

御者は両岸の連絡役を確かめ、仲間と停止合図を練習した。

誰も荷を守るために命を捨てる必要はなかった。


翌日、審問の記録が公開されると、王都の人々から質問が届いた。

賛成ばかりではない。

自国の救援を優先すべきだという意見も多かった。

俺は広場で答えた。

「国内の便を止めてまで敵国へ送るつもりはありません。けれど、余裕のある人が、国境の向こうで飢える子供へ届けたいと願うことまで、罪にしてほしくない」

聴衆の中で、最初のパン屋が手を挙げた。

「じゃあ俺の店の余りパンは、俺が届け先を決めていいんだな」

「はい。輸送費も必要量も公開します」

審問官が示した限定許可の条件を受け、組合長は

「監視役を増やせば御者の賃金が減る」

と言った。

俺はすぐには署名しなかった。

国境へ行く者だけが負担を背負えば、次の便は続かない。

広場に集まった寄付人と御者の前で、監視に必要な費用を読み上げた。

パン屋が

「余りパンだけでなく、銅貨も出す」

と手を挙げ、組合は危険手当の最低額を決めた。

許可が出たから救援が再開するのではない。

行く人が生活を失わずに戻れる条件まで作って、初めて荷車は動く。

昨日まで俺を裏切り者と呼んだ男が、申請書の列に並んだ。

「母親の食事を頼みたい。でも敵国へ送る麦は認められない」

俺は反論せず、国内便と国境便の数量、危険手当、軍用転用を防ぐ条件を示した。

男は長い間紙を見つめ、母親の住所を書き込んだ。

「この約束を破ったら、俺が最初に問いただす」

俺は頷いた。

反対する人にも確認できる約束でなければ、救援は続かない。

許可証を受け取った御者は、凍えた指で手綱を結び直した。

「明日も帰ってこられるなら、行く」

と言う。

自由な許可ではない。

それでも、止まった車輪を再び動かす余地が生まれた。

俺は未受領の百九十五人の名簿をエルザに託した。

受け取った人の確認が届くまで、数字を減らさない。

組合長は許可証を持ったまま立ち尽くした。

「これで俺の息子が軍に呼ばれたらどうする」

バルクは輸送の民間性を示す証明を別紙で渡し、徴用が起きた場合の連絡窓口を記した。

組合長はなお不安げだったが、紙を折りたたみ、息子に自分で説明すると言った。

若い御者はその名簿を懐へ入れ、仲間の顔を見た。

「戻ったら、まず誰に届けたか話すよ」

裏切り者と呼ばれた配達人は、返事をせずに荷紐を結び直した。

彼が守りたいのは国境の向こうで待つ家族の食事だった。

俺はその名前を忘れないよう書き留めた。

若い御者は家族への伝言を組合長に託し、手綱を取った。

背後から『裏切り者』の声がした。

彼は振り返らず、届け先の子供の名を確認して馬を進めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。