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役立たずと追放された俺の保存倉庫は、飢えた世界を救う最後の希望だった  作者: レモンティー


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第六十五話 飢えた兵士の銃口

救援所の前で、帝国兵が倒れた。

ケイン副官の部下で、名はロドル。

武器を握ったまま、列の外で膝をついていた。

俺は駆け寄ろうとしたが、バルクに腕をつかまれた。

「敵兵だ。近づくな」

ロドルは笑った。

「敵兵でも、腹は減る」

彼の頬は落ちくぼみ、指先が震えていた。

軍の配給が滞り、三日間ほとんど食べていないという。

エルザが怒った。

「私たちの袋を奪った軍が、今度は分けろと言うの?」

誰も答えなかった。

俺は保存倉庫を開きかけ、手を止めた。

目の前の一人を救えば、その分だけ村の食料が減る。

だが見殺しにすれば、救援の理念は何なのか。

「軍の配給担当を呼んでください」

と俺。

ケインは顔をしかめた。

「軍の事情に口を出すな」

「兵士が飢えて武器を持ったまま村へ入れば、村人が危険です」

その言葉で副官は黙った。

エルザが持つ民間人の受領簿には、前便までに六十九人、未受領百九十五人と記されていた。

倒れた兵士を助けても、その百九十五人の食料を減らすわけにはいかない。

俺は軍医に別枠の補給を確認した。

俺は条件を提示した。

兵士への食事は軍の補給として別枠で確保し、村の救援袋を流用しない。

武器を置いた者だけが医師の診察を受ける。

必要量は軍の記録に残し、帝国側の補給責任者が署名する。

軍医はロドルの脈を取り、

「兵士だから特別扱いはできないが、患者として診る」

と言った。

救援の場で武器を持つ人間を優先すれば、弱い者ほど列から押し出される。

医師の判断と警備の判断を混ぜないことが重要だった。

「王国の食料を敵軍に渡すのか!」

とバルク。

「今ある救援分は渡しません。兵士の問題は、軍同士で停戦交渉の議題にしてほしい」

その場でロドルには医師が緊急処置を行った。

食料は帝国側の軍医が持っていた分から出した。

俺はそれを確認してから、ケインに一枚の報告書を渡した。

救援所の片隅で、ロドルは自分の銃を磨いていた。

エルザはその姿を見て顔をこわばらせた。

ロドルは気づき、銃を布で包んで床に置いた。

「ここでは使わない」

それだけの約束を守れるかどうか、誰にもまだ分からない。

俺は警備の規則を紙に書き、双方の代表へ渡した。

善意に頼るだけでは、怖がる人を守れない。

バルクは兵士たちに命じ、救援所の外に武器を置く場所を設けた。

帝国側も同じ位置に線を引いた。

敵同士の兵士が一本の線を挟んで立つ光景は奇妙だった。

ミラは

「これ、いつまで続くかな」

と呟いた。

俺は

「明日も続けられるように記録する」

と答えた。

ロドルが帰る前、少年は水の器を受け取った。

彼は

「ありがとう」

と言いかけ、言葉を飲み込んだ。

代わりに深く頭を下げた。

俺はそれを見て、国境の争いが今日終わったわけではないと分かっていた。

それでもなお、一つの銃口が下がったことには意味があった。

「あなたの兵が倒れた事実を、上官に伝えてください」

ケインは紙を握りつぶしそうになった。

「兵站が壊れていると知られれば、私は罰せられる」

夜になってもロドルは救援所を離れなかった。

仲間の兵士が彼を呼びに来たが、軍法会議の話を恐れているのが分かった。

俺は

「あなたの選択を無かったことにはしません」

と伝え、目撃者の署名を三人分集めた。

署名があれば必ず守れるわけではない。

それでも、真実を一人の記憶だけに預けるよりはよかった。

ロドルが倒れた場所には、翌日も足跡が残っていた。

エルザはそこに食料袋を置かないよう配達人に伝えた。

兵士の列と民間人の列が混ざれば、誰が優先されるのかで争いが起きる。

軍医は中州の端に臨時の診察場所を作り、武器を預けた者だけを受け入れる手順を示した。

バルクは不満そうだったが、緊急の治療を妨げない範囲で警備を付けた。

バルクは救援所の見張りを二人増やした。

戦闘のためではなく、食料を待つ人々が安心して列に並べるようにするためだ。

帝国側にも同じ人数を求め、互いの動きを見えるようにした。

俺はその費用を帳簿へ加えた。

安全は無料ではない。

それでも、守らなければ配達そのものが続かない。

ケイン副官は夕方、俺に小さな紙を渡した。

そこには軍の配給量が日ごとに減っていく数字が記されていた。

「上官に出せば、部隊の士気を下げたと責められる」

俺は

「出さなければ、明日の食事は増えません」

と答えた。

副官は紙を取り返そうとしたが、手を止めた。

責任を取るのが怖いという気持ちは、俺にも理解できた。

騒動の翌朝、村の少年がロドルへ水を差し出した。

少年の父は帝国軍に連れて行かれたまま戻っていない。

「兵隊は嫌いだ」

と少年は言った。

「でも倒れてたら、水くらい飲んで」

ロドルは受け取った器を両手で持ち、何も言わずに飲んだ。

俺はその場面を見て、戦争を止める言葉を探すより先に、こうした小さな選択を守りたいと思った。

「隠せば、次は銃口が村へ向きます」

兵士たちが去ったあと、救援所には誰も声を出さない時間が続いた。

エルザが鍋の火を見て、

「冷める前に配ろう」

と言った。

その一言で人々が動き出した。

大きな正義の議論より、目の前の夕食を守ることが今は必要だった。

銃を下ろしたロドルは、弾を一発抜いて俺に見せた。

「撃たなかった証拠にはならんが、俺は覚えておく」

俺はその手を止め、弾を彼自身に戻した。

必要なのは戦利品ではなく、彼が明日も命令と良心の間で一人きりにならないことだった。


翌朝、救援所に武装した兵士が十数人現れた。

指揮官はケインではなく、後方から来た大尉だった。

「村への食料を軍に引き渡せ」

エルザが子供たちを建物の奥へ下がらせた。

バルクの隊員も武器を構える。

中州は一瞬で戦場になりかけた。

俺は大尉へ帳簿を見せた。

「ここにいる民間人の食料です。奪えば受領記録に残ります」

大尉が剣を抜いたとき、ロドルは一歩前へ出た。

まだ三日間の空腹から回復しきっておらず、膝が震えていた。

「子供の食料を取り上げる命令には従えません」

「軍法会議にかけるぞ」

「分かっています」

ロドルは銃を地面に置いた。

隣の兵士も、ゆっくり銃口を下げた。

誰も歓声を上げなかった。

大尉は撤収を命じ、去り際にロドルの名を手帳へ書きつけた。


その夜、事情聴取の呼出状が届いた。

ロドルは紙を握り潰しかけた。

「逃げたら、母さんは安心するだろうな」

「逃げるかどうかは、あなたが決めることです」

と俺は答えた。

「ただ、何があったかを一人の言葉だけで決めさせたくない」

エルザは村人の証言を集め、帝国側の軍医はロドルの衰弱を記録した。

バルクは武器を置いた時刻を確認し、俺は救援所の配給表を添えた。

ロドルを無罪にできる保証はない。

翌朝、彼は証人二人とともに詰所へ向かった。

途中で立ち止まり、俺を振り返った。

「俺が守ったのは、敵国の食料じゃない。あの子たちの今日の飯だ」

俺は頷いた。

ロドルは深く息を吸い、今度は振り返らず歩き出した。

白旗の下に残ったのは、彼が地面に置いた銃の跡だけだった。

銃口を向けられた少年は、しばらくその場所に近づけなかった。

エルザが

「許してあげなさい」

と言いかけると、少年の母親が首を振った。

「許すかどうかは、この子が決める」


翌日、少年はロドルの名を聞いても答えなかった。

それでも炊事場の水運びには戻った。

銃を下ろした兵士の決断と、怖かった子供の気持ちは、どちらも消してはならなかった。

少年は水桶を置く位置を自分で選び、銃の跡から少し離れた場所で仕事を始めた。

誰も近づけとは言わなかった。

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