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役立たずと追放された俺の保存倉庫は、飢えた世界を救う最後の希望だった  作者: レモンティー


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第五十五話 燃えた麦畑の証人

火災のあったノルド領へ着いたとき、畑は黒い海のように広がっていた。

焼けた麦の匂いが、風に乗って町まで届いている。

「落雷だそうです」

案内の役人が言った。

だが俺は空を見た。

ここ十日、雨雲は出ていない。

「誰が落雷を見たんですか」

役人は答えなかった。

畑の所有者は老農夫のベルンだった。

手のひらを火傷し、包帯を巻いている。

「火は三か所から同時に出た」

とベルンは言った。

「俺が水を運んでいる間に、別の畑も燃え始めた」

俺は焼け跡を歩いた。

畑を区切る道の脇に、油の染みた布切れが落ちていた。

「これを保管してください。触った人の名前も記録して」

同行の警備兵が布を袋に入れた。

「商会の仕業だと言いたいのか」

と役人。

「まだ分かりません。決めつけたら、証拠を見落とします」

町では食料価格が急騰していた。

火災前の倍になった店もある。

俺は農家から聞き取った残存収穫量を集め、焼けていない畑を守るための見回りを提案した。

しかし夜、見回りの青年が襲われた。

幸い命に別状はなかったが、犯人は逃げた。

「もうやめろ」

とベルン。

「次は誰かが死ぬ」

「危険な見回りを続けるべきじゃない。警備隊に引き継ぎます」

その代わり、村人たちには火災当夜の目撃情報を集めてもらった。

匿名で提出できる箱を置き、誰が書いたかを詮索しないと約束する。

焼けた畑で拾った布切れを、俺は自分で持ち帰らなかった。

誰がいつ拾い、どこに保管したかを記録しなければ、後で証拠として扱えなくなると警備兵が教えてくれたからだ。

食料の受領記録と同じく、正しい手順が人を守る。

火災のあと、農夫たちは互いを疑い始めていた。

隣の畑だけ燃え残ったことを理由に、放火犯だと決めつける者までいた。

俺は集会で証言と噂を分けて掲示し、確かめられていない話を名前付きで広めないよう頼んだ。

焼け残った麦を刈り取る日、ベルンは片手で鎌を握れず、悔しそうに立っていた。

隣家の娘が代わりに刈り、ベルンは束の数を記録した。

作業を奪われたのではない。

今できる役割を、二人で探したのだった。

三日目、箱に一枚の紙が入っていた。

『火の前に、青い幌の馬車が通った。

御者は右手に赤い手袋』

同じ日に別の村からも、青い幌の馬車を見たという証言が届いた。

俺は輸送記録を調べた。

火災の夜に通行許可を得た馬車は一台。

商会名は空欄だったが、許可印は領主の事務所のものだった。

「印を盗まれた可能性もあります」

とミラ。

「だから、許可を出した人を確かめよう」

領主の書記官は震える手で帳簿を開いた。

「私は許可していません。印章は三日前から行方不明です」

さらに調べると、許可証に使われた紙は役所のものではなかった。

紙問屋の印から、隣町の印刷工房へたどり着く。

ベルンの孫は焼けた畑の端で、炭になった麦の穂を一本拾った。

「これも証拠になるの」

俺は

「火のついた場所を知る手がかりにはなる」

と答えたが、穂だけでは犯人は分からないとも伝えた。

少年はうなずき、拾った場所に石を置いた。

証拠を集めることと、憎む相手を決めることは違う。


翌朝、少年は石の位置を警備隊に自分の言葉で説明した。

工房主は最初、口を閉ざした。

しかし警備隊が正式な証言保護を約束すると、偽の許可証を作らされたことを話した。

依頼主は、穀物の値上がりに賭けて大量の先物契約を結んでいた仲買人だった。

「逮捕できるのか」

とベルン。

「捜査は警備隊の仕事です。俺たちは残った畑を守って、食料を運びます」

俺は焦げた土を手に取った。

犯人を捕まえても、焼けた麦は戻らない。

少年が見た火の色と、警備兵が記録した風向きは食い違っていた。

俺はどちらかを嘘と決めつけず、燃え残った杭の位置を地図に写した。

証人を守るのは、都合のよい証言をさせるためではない。

間違っていても話せる場所を残すためだ。


翌朝、他領から運ばれた豆と芋が配給所に並んだ。

村人たちは静かに列を作った。

焼け残った畑の見取り図に、証人が立っていた場所と火の広がった方向を記した。

推測を証言として残さないよう、二人で読み合わせた。

焼け残った倉庫の柱に、俺は黒い煤の境目を見つけた。

火がどちらから回ったのか、見た者の証言と食い違っている。

焦げた帳簿を捨てずに包み、再建費用の議論が始まる前に調査を求めた。

俺は井戸の測定を引き受けた農夫の名を、地図の脇に書き添えた。

ベルンは袋を受け取ると、焼け残った畑を指さした。

「あそこだけは、まだ収穫できる。手を貸してくれないか」

俺は相手の目を見て、頷いた。

失ったものを数える仕事と、残ったものを守る仕事。

その両方を、今日から始めなければならなかった。

燃えた麦畑の端で、少年は黒くなった木杭を抱えていた。

火事の夜、見張りをしていたのは彼だった。

大人たちは少年が眠ったせいだと責めたが、少年は

「風が逆から吹いた」

と繰り返す。

俺は焦げた藁の倒れ方を見て、火が水路の向こうから広がったことに気づいた。

ミレイが水路沿いを歩くと、油の染みた布が石の下から見つかった。

少年の失敗ではないと分かっても、畑は元に戻らない。

村長は少年に謝り、焼け残った区画の種を共同で守ると決めた。

少年は涙を拭き、

「次は見張りを二人にして」

と頼んだ。

俺はその提案を採用した。

犯人探しと、次の火を防ぐことは別の仕事だった。

火事の翌朝、ベルンの孫が焼け跡から曲がった鉄の留め具を拾った。

「うちの門のじゃない」

と少年は言った。

役人は危ないから捨てろと命じたが、ベルンは傷のある手で受け取った。


翌朝、警備隊が証拠箱を封じに来た。

ベルンの孫は箱の前に立ち、手を引っ込めた。

「僕が夜に見回っていたら、畑は燃えなかった?」

ベルンは火傷した手を見せた。

「お前が火の中へ入っていたら、わしは畑と孫の両方を失っていた」

少年は涙をこらえ、火が上がった順番を描いた紙を差し出した。

最初の火のそばで見た荷車の車輪には、片側だけ欠けた鉄輪がついていたという。

警備隊長が顔を上げた。

「昨夜、同じ傷の車輪を持つ荷車が南門を通っている」

「犯人と決めつけないでください」

と俺は言った。

「車輪を調べ、荷の出入りと時刻を照合してください」

隊長は二人の隊員を派遣し、少年には護衛をつけた。

少年を囮にして犯人を追うことだけはしない。

その日の昼、焼け残った畑でベルンが鎌を握った。

孫も隣で麦を刈り、来年の種に回す袋を別にした。

夕方、南門から伝令が戻った。

「荷車は見つかった。だが荷台は空で、御者が姿を消している」

少年が祖父の袖を掴んだ。

ベルンはその手を握り返した。

「分かったことと、まだ分からないことを分けろ。お前が見た車輪は、確かに捜す手掛かりになった」

俺たちは新しい見回りの道を決めた。

犯人を捕まえる前にも、次の火から守らなければならない畑があった。

少年は

「俺が見たと言えば、あの役人に家を追い出される」

と震えた。

ベルンは孫の肩を抱いた。

「証言しなくても、お前を責めない」

少年はしばらく黙り、それから警備隊長を見た。

「僕の名前を町中に貼らないで。それでも、見たことは話す」

隊長は証人の住まいを巡回路に加え、供述を公開する前に保護方法を決めると約束した。

真実を語る勇気を、子供一人に背負わせてはならなかった。

隊長は少年の証言を別の隊員にも確認させ、家への見張りを増やした。

ベルンは孫の手を握り、

「今夜は畑じゃなく、家で飯を食おう」

と言った。

少年は初めて小さく頷いた。

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