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役立たずと追放された俺の保存倉庫は、飢えた世界を救う最後の希望だった  作者: レモンティー


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第五十二話 井戸の水を売る男

岩山の麓にあるカラン村には、水があった。

「一桶、銅貨二十枚だ」

「昨日は十枚だったでしょう!」

「水が減った。値段も変わる」

俺は井戸の縁に残った湿り気を見た。

ここからセリオ村までは荷車で半日。

水を運べれば助かる命がある。

井戸の権利を持つという商人バルクは、立派な外套を着て現れた。

「食糧便か。食い物を安売りする連中が、今度は水にまで口を出すのか」

「井戸を買いたいわけじゃない。使える水量と、村人に必要な量を知りたい」

「商売の秘密だ」

俺は井戸に縄を垂らし、水面までの深さを測った。

村の古い記録には、雨の少ない年でも水位が大きく変わらなかったとある。

「井戸は地下の湧き水につながっている可能性がある。取水を増やせるか調べたい」

バルクは笑った。

「調べるには金がいる。水を買う金もない連中が何を言う」

そこへ井戸掘りの老人グムが来た。

杖を突きながら、井戸の石組みを見上げる。

「ここは昔、村全体で掘った井戸だ。わしの父も石を積んだ。誰か一人の物じゃなかった」

「契約書がある」

とバルク。

「見せてくれ」

と俺が言うと、商人は紙を突き出した。

そこには井戸の『維持管理と取水の優先権』を買ったと記されている。

所有権の移転ではない。

「優先権と独占権は違う」

バルクの目が細くなった。

「裁判でもするつもりか。終わる頃には村が干上がるぞ」

工事の途中で、隣村の農夫が抗議に来た。

「水路を開けば、下流の畑の水が減る」

グムは昔の分水石を探し、村ごとに水を分けた跡を見せた。

子供の肩には縄の跡が残っていた。

重い桶を何往復も運ぶため、学校に通えないという。

大工たちは余った車輪を使い、二つの桶を載せる小さな手押し車を作った。

少女は車を押して笑ったが、俺は運搬の負担を減らす方法を考えた。

井戸の列には怒号が飛んだ。

取水量と順番を板に書き出すと、少しずつ声が静かになった。

足りないことは変わらない。

その言葉は正しかった。

今すぐ争っても、喉の渇いた人は救えない。

当面の取水量を契約で確保した。

代金は食糧便の共同基金から出す。

ただし、村の生活用水を先に取り、測定した水位を毎日公開する条件を付けた。

「値段は俺が決める」

とバルク。

「それなら、こちらは別の水源を探します」

俺はグムに目を向けた。

老人は地面を杖で叩く。

「山の反対側に、昔の導水路がある。土砂で埋まっているがな」

バルクの表情が変わった。

導水路が復旧すれば、高値で水を売れなくなる。

「そんな古い溝、役に立つものか」

「役に立つかどうか、掘って確かめるだけです」

水の順番を待つ老人が、列の途中で膝を折った。

村長は自分の桶を渡そうとしたが、老人は首を振った。

「決めた順番を破らせたくない」

俺は救急用の水を別に確保し、優先配給の理由を皆に説明した。

公平さを守ることは、苦しい人を見ないふりすることではない。


翌日、セリオ村から二十人が来た。

水を運ぶためではなく、導水路を掘るためだった。

カラン村の人々も鍬を持って加わった。

二日目の昼、泥の下から石の水路が現れた。

しかし出口は崖の下で途切れている。

ここから先は新しい樋が必要だった。

「木材がない」

と村長。

「なら、今すぐ水が出るとは約束できません」

俺は言った。

「その間の飲み水は買います。工事費と別に計算する」

バルクは不満そうに代金を受け取った。

だが取水量を公開する約束は守らせた。

三日目、村の大工が作った樋に初めて水が流れた。

子供たちが歓声を上げる。

老人グムは流れを見て笑った。

「昔はこれで畑まで水を引いたんだ」

井戸の売買記録には、水を受け取れなかった家の名も追記した。

金額だけを残せば、次の担当者は同じ不公平を見落とす。

ミラは水の届かない家を、配達予定表の余白に書き足した。

それは約束がまだ果たされていない場所を示していた。

「終わった仕事だけ数えたくないの」

と彼女は言った。

乾いた畑の持ち主たちは配水順を争った。

ミラは苗の本数を聞き取り、畑への配水は飲み水を確保した後に行うと伝えた。

ミラは御者にも配達順を確かめてもらい、まだ水の届かない家を地図に記した。

俺は水の流量を測り、飲み水に回せる量を計算した。

まだ足りない。

それでも一桶二十枚を払えない家にも、分けられる水が生まれた。

バルクは井戸の前で黙っていた。

俺は彼に言った。

「井戸の管理には金がかかる。それは払います。でも、誰かが渇いていることを理由に値段を上げ続ける仕組みにはしません」

水路の先で、少女が桶を満たした。

水面には、久しぶりの青空が映っていた。

水を売る男の家の前には、空の桶を抱えた親子が並んでいた。

母親は銅貨を数え直し、子供に

「今日は半分だけ」

と言った。

俺は男の井戸を見せてもらい、井戸枠に新しい補修跡があるのを確かめた。

男は私財で壁を直し、崩落を防いでいた。

水を無料にしろと言うだけでは、次に壊れたとき誰も修理できない。

村長は村の共同基金から補修費を負担する案を出したが、男は

「また金が足りなくなる」

と拒んだ。

そこで修理代を領収書で確認し、井戸を共同管理する期間を決めた。

男には保守の賃金を払い、飲み水には一日の上限を設けず、畑への散水は当番制にする。

母親が桶を満たしたとき、男は初めて列から目をそらさなかった。

井戸の順番を決める役目を引き受けたのは、昨日までバルクのために水を売っていた青年だった。

母親たちは桶を地面に伏せた。

「順番を決めるのも、あんたたちなの?」

青年は言い返さず、村長へ帳面を差し出した。

「俺が一人で決めれば、昨日と同じです。家ごとに届いた量を、みんなの前で記録してください」

「書いたからって信用できるものか」

「明日も、明後日も確かめてください。逃げません」

水売りのバルクは、井戸の縄を切った。

「俺が金を払って直した井戸だ。お前たちが勝手に使えば、次に壊れたとき誰が責任を取る!」

俺は言い返そうとして、修理跡を思い出した。

「修理の仕事は奪いません。領収書を確かめて、維持費を共同で払います。でも今、子供の水を止める理由にはならない」

バルクは唇を噛み、縄の切れ端を放り投げた。

「なら自分で汲め。桶が下りなければ一滴も取れんぞ」

悲鳴が上がった。

俺が縄を買いに走ろうとしたとき、追い返されていた母親が自分の洗濯紐をほどいた。

「うちの子が飲む水だ。あんたの許可はいらない」

隣の家の老人が紐をつなぎ、青年が滑車を支えた。

グムが結び目を確かめ、井戸の縁へ体を伏せる。

最初の桶が上がった瞬間、母親は自分の子ではなく、倒れた老人へ水を運んだ。

バルクはもう一度縄に手を伸ばしたが、以前は彼の護衛だった青年が前へ出た。

「水を守る仕事だと思っていた。奪う仕事なら、もうやらない」

俺はその場で水を倉庫にしまわなかった。

まず、村人自身が汲めるようになったことを見届けた。

村長は井戸の縁に刻まれた古い水位の印を指でなぞった。

「この印を読める者を、あと二人育てよう。数字を隠せば、また値札が勝つ」

グムが手を挙げ、若い母親も続いた。

バルクは帳簿を持って現れたが、値段を書き込む欄の隣に、住民の代表が署名する欄が増えているのを見て黙った。

俺は井戸の縁で、母親とグムが同じ印を指さすのを見ていた。

「名前を書けない家はどうする」

と青年が尋ねた。

村長は一軒ずつ家の目印を聞き取り、読み書きのできない人にも分かる札を用意した。

井戸の前で順番を待つ老人は、空の水桶を膝に抱いていた。

値段の交渉を終えるまで、あの人に待っていてくれとは言えない。

反対する者には、翌朝の会合で理由を述べる機会を残した。

老人が抱えていた桶に、青年が先に一杯の水を注いだ。

列の後ろから異論が出ると、村長は優先順位を書いた札を掲げた。

「隠れて決めない。理由も明日、ここで話そう」

老人は礼を言い、桶を両手で抱えて帰った。


翌朝、井戸の番を任された青年は、列ができる前に滑車を点検した。

グムが縄のほつれを見つけると、青年は桶を下ろす手を止めた。

「交換には半刻かかります。その間は導水路の水を手押し車で運びます」

「昨日も、うちの子は後回しだった」

母親の声に青年はうつむいた。

だが、村長が掲げた配水表から目を逸らさず、病人と乳児の家を先に回ると告げた。

井戸の水位を測ったグムは、数字を読み上げる前に母親へ縄を渡した。

「わしの目だけを信じるな」

母親は濡れた結び目を指で確かめた。

昨日は槍に追い返された手が、今日は配水の判断に加わっていた。

「またあんた一人で決めるの?」

「いいえ。異議があれば、ここで聞きます。昨日水を受け取れなかった家も、名前を消しません」

青年は自分の桶を列の最後へ置き、グムと縄を張り直した。

母親は返事をしなかったが、導水路から水を運ぶ手押し車を押し始めた。

導水路から運んだ水は共同かまどで煮沸した。

昨日倒れた老人が火の番を申し出ると、母親は

「交代する日も決めましょう」

と言った。

老人は少し迷い、二日目の欄を空けて隣の家の名を書いた。

修理が終わると、青年は桶を一つだけ引き上げた。

列の母親が、底から水の滴る縄を見つめて言った。

「明日、また切れたら?」

「俺だけで直そうとはしません。今日、結び方を見た人が三人います」

グムが頷くと、母親はようやく伏せていた桶を起こした。

青年は桶を手渡し、次の家の名前を帳面で確かめた。

誰かが見張らなければ守れなかった井戸を、誰もが確かめられる井戸へ変える。

その仕事はまだ始まったばかりだった。

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