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役立たずと追放された俺の保存倉庫は、飢えた世界を救う最後の希望だった  作者: レモンティー


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第五十話 食べる麦と蒔く麦

王都での審理から五日後、俺たちは北方の五村を訪れた。

畑は広い。

だが、土はむき出しで、春の種まきが始まっていなかった。

「種がないんです」

村長の老人は、空の麻袋を見せた。

「冬を越すため、種麦まで食べました」

俺は言葉を飲み込み、食べる麦と蒔く麦の行方を考えた。

食料を届ければ今日の飢えはしのげる。

だが、種を食べてしまえば次の収穫がない。

エナは五村の人口と必要な種麦を計算した。

「全部で四トン以上。タクトの倉庫では何度運んでも時間がかかる」

「普通の荷車を使おう」

とハンス。

「王都の運送組合が協力してくれる」

問題は種麦の調達だった。

市場の穀物は食用として売られており、発芽率が分からない。

農家から種用に保管した麦を買う必要がある。

俺たちは南方の農村へ向かった。

しかし農家の代表は首を振った。

「種を売れば、俺たちの畑が蒔けなくなる」

「余剰分だけでいいんです」

「今年は余剰が少ない。値段を上げられても困る」

五村の会議では、最初から激しい言い争いになった。

種を貸す側の村は返済を心配し、借りる側は秋の収穫が不確かなことを訴えた。

「雨が降らなければ、返す麦なんてない」

その言葉に誰も答えられなかった。

俺は無理に賛成を集めるのをやめ、まずそれぞれの畑の面積と過去の収穫量を聞いた。

数字を並べると、同じ村でも土の良い場所と悪い場所で収量が大きく違っていた。

エナは共同備蓄の規則に、災害時の猶予と第三者の確認を入れた。

「返せない人を罰するための帳面じゃない。何が起きたか確かめるための帳面にする」

村長たちは時間をかけて読み、一行ずつ直した。

俺は早く署名してほしかったが、急いで結んだ契約ほど後で争いになる。

日が傾くころ、ようやく最初の二村が合意した。

「俺たちも、昔は種を食べかけた。あのとき助けてもらったから、今度は貸す側になりたい」

ラトナから麦袋が届いた。

続いてベルクの農夫たちが豆の種を持ってきた。

王都の運送組合も、運賃の一部を収穫後払いにしてくれた。

少しずつ、五村へ種が集まっていく。

だが、最後の村で問題が起きた。

村長が種麦を受け取ろうとしない。

「今夜の食事がないのに、種を蒔けと言うのか」

種麦を守ると決めた農家の娘は、空腹の弟に何も言えずにいた。

俺たちは食用の麦を別便で届け、種用の袋には村ごとの印を付けた。

娘は弟に温かい粥を渡してから、父と一緒に畑へ出た。

「これなら、食べずに蒔ける」

俺はその言葉を聞き、種を守れと説得するだけでは足りなかったのだと悟った。

今夜の食事を確保して初めて、人は来年の収穫を選べる。

種を運ぶ荷車が到着すると、村の子供たちが歓声を上げた。

俺はそこで、種袋に赤い紐を結ぶよう頼んだ。

食用の麦と混ざらないようにするためだ。

倉庫の棚も分け、鍵は村長一人ではなく農家の代表二人で管理する。

誰かを疑うためではない。

飢えが深まれば、善良な人でも明日の食事を優先せざるを得ない。

人の弱さを責めるより、迷わずに済む仕組みが必要だった。

種まきの前日、ネネが俺に尋ねた。

「麦って、土に入れたらなくなっちゃうのに、どうして食べないの」

俺は小さな粒を手のひらに乗せた。

「今食べたら一粒。でも育てば、もっとたくさんになる」

ネネはしばらく考え、

「じゃあ、お腹が空いたときに食べなくていいように、別のパンが必要なんだね」

と言った。

俺は驚いた。

大人たちが何日も議論していた問題を、彼女は一言で言い当てた。

俺は引き下がった。

救うために別の村を飢えさせては意味がない。

帰り道、エナが言った。

「種を持っている農家に、次の収穫の買い取り保証を出せないかな」

「まだ収穫していないものを?」

「そう。今は種の一部を融通してもらい、秋には一定量を返す。天候不順のときの負担も、契約に書く」

俺たちは何度も計算した。

返済を厳しくすれば、凶作の村が破綻する。

甘くすれば貸し手がいなくなる。

最終的に、複数の村で種を共同備蓄し、凶作の年は返済を翌年に繰り延べる仕組みを提案した。

最初に賛成したのは、ラトナ村の村長だった。

共同備蓄の場所を決める際、五村の代表は互いの村に倉庫を置きたがった。

自分たちの近くにあれば安心だからだ。

俺は地図を広げ、洪水の危険、街道までの距離、建物の状態を一つずつ確認した。

結局、中心の村ではなく、高台にある古い製粉所を改修する案が選ばれた。

少し遠くても、災害時に守れる場所のほうがいい。

種麦の袋には、収穫した村と保管日を書いた札を付けた。

エナはさらに、発芽を確かめるための小さな試験畑を提案した。

農夫たちは

「そんなことまで必要か」

と笑ったが、去年の古い麦が混ざっていると分かると真剣になった。

食べる麦と蒔く麦は、見た目が似ていても役割が違う。

俺たちはその違いを、誰にでも分かる形で残そうとした。

最初の種まきでは、子供たちも手伝った。

ただし重い袋は大人が運び、子供は浅い溝へ少量ずつ種を落とす。

ネネは一列を終えるたびに振り返り、土の中を見ようとした。

トビが

「掘り返したら芽が出ないぞ」

と注意すると、ネネは口を尖らせた。

俺は二人を見て笑った。

あの粉挽き小屋で見つけた兄妹が、今は次の収穫を待っている。

夕暮れ、村長たちは倉庫の鍵を二本に分けて保管した。

一人の判断で全部を動かさないためだ。

俺はその様子を見ながら、初めて王宮で能力を告げられた日のことを思い出した。

五百キロしか運べないと言われた俺が、今は四トンの種を動かす仕組みを作っている。

力が増えたのではない。

協力してくれる人が増えたのだ。

その言葉は正しかった。

俺は配給表を見直した。

種を渡すだけでは足りない。

収穫まで食いつなぐための食料が必要だ。

「種と食料を別々に運びます。種を食べなくても済むように」

「そんな量、どこにある」

「一つの村では無理です。だから五村で、いや、もっと多くの村で支え合うんです」

村長はしばらく黙っていた。

種麦を残した父親は、夕食の椀を見て初めて肩の力を抜いた。

「明日の飯を心配しながら、来年の麦を守るのは怖かった」

俺は彼に次の便の日付を伝え、遅れた場合の連絡役も決めた。

勇気だけに頼らせないことが、約束を守る方法だった。


やがて、畑の向こうを見た。

「……それなら、もう一度蒔いてみる」

種まきの日、村の子供たちが畑へ集まった。

トビとネネも救援所から手伝いに来ていた。

ネネは小さな手で土をかぶせる。

「これがパンになるの?」

「うまく育てばね」

「じゃあ、いっぱい育ってほしい」

俺は笑った。

「そのために、みんなで世話をするんだ」

夕方、五村の代表が集まり、共同備蓄の契約書に署名した。

エナは新しい帳面の表紙に『北方食糧連絡会』と書いた。

食料を届ける仕事は、俺たちだけのものではなくなり始めていた。

しかし、その夜、王都から急使が届いた。

ネネは蒔いた種の一つを掘り返しかけ、トビに止められた。

「芽が出るまで見えないんだよ」

ネネは土をそっと戻した。

ネネは掘りかけた穴を掌でならし、トビと並んで目印の小枝を立てた。

村長はその小さな手を見て、種の保管係を大人だけに任せず、子供たちにも畑を見に来てほしいと言った。

『王国全域で、民間の食料輸送を禁止する法案が提出された』

俺は地図を見つめた。

食べる麦と蒔く麦を分けた袋には、同じ村の名が書かれていた。

農夫は種麦の封を結び直し、

「今年を越えたら、来年は俺たちが運ぶ」

と言った。

ネネとトビが立てた小枝が、畑の土の上で揺れていた。

農夫は二人に、春になったらその印の場所へ種を持ってくるよう頼んだ。

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