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役立たずと追放された俺の保存倉庫は、飢えた世界を救う最後の希望だった  作者: レモンティー


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第四十八話 王都に集まった百台の荷車

後にエナから聞いた話では、王都の市場に百台を超える荷車が並んだ。

積まれていたのは小麦、豆、乾燥野菜、塩。

どれも、かつて飢えていた村の人々が育て、集め、運んできた食料だった。

エナは市場の中央に帳面を置いた。

「谷の食糧便の代表タクトは拘束されています。でも、私たちは合法的な取引を続けます」

農夫たちは頷いた。

「俺たちの作物を売ることまで禁止するのか」

「買い手がいるなら、ここで売る」

王都の商人たちは驚いた。

北方の輸送が止まり、食料の値段が上がっていたところへ、直接販売の荷車が現れたのだ。

市場を管理する役人が駆けつけた。

「許可はあるのか!」

「各村の生産者証明と市場使用料の領収書があります」

エナは書類を差し出した。

役人は渋々、道を開けた。

俺はその頃、地下牢で何も知らずにいた。

看守がパンを一切れ置いていく。

エナの報告によれば、王都へ入る前夜、彼女は荷車の代表を集めた。

「誰も武器を持たないこと。値段を隠さないこと。通行人を脅さないこと」

農夫の一人が不満を漏らした。

「あいつらはタクトを捕まえたんだぞ」

エナは頷いた。

「だからこそ、私たちは同じことをしない」

ハンスは荷車を十台ずつに分け、広場の入り口を塞がないよう時間をずらした。

王都での行動は抗議であると同時に、商売の実力を示す場でもあった。

最初の客は小さな食堂の女将だった。

彼女は豆の値段を聞き、何度も確認した。

「この値段で本当に売るのかい」

エナは仕入れと運賃を説明した。

女将は泣きそうな顔で袋を抱えた。

「三日ぶりに、店で豆の煮込みを出せる」

それを見た隣の商人も列に並んだ。

市場の空気が少しずつ変わっていく。

だが、安い食料が届けば全員が喜ぶわけではない。

高値で仕入れた小さな店は、在庫を抱えて困っていた。

エナは店主たちの話を聞き、急に値段を下げるのではなく、共同で在庫を販売する方法を提案した。

「高値で仕入れた人も、被害者かもしれない」

ハンスはその言葉に頷いた。

悪徳商会への怒りを、町の小さな店に向けてはいけない。

王都の子供たちは荷車に描かれた麦の印を指さし、

「食糧便だ」

と呼んだ。

ラトナの村で最初に描いた、下手な麦の絵だった。

俺は牢の中でその光景を知らなかったが、エナは後で教えてくれた。

「あの印を見たら、ちゃんと値段を教えてくれるって、みんな言ってた」

一つの名前を守るのは、力でも脅しでもなく、約束を守り続けることなのだと思った。

「外じゃ大騒ぎだぞ」

「暴動ですか」

「違う。商売だ。みんな妙に行儀がいい」

俺は少しだけ笑った。

エナらしい。


翌日、王都の孤児院から購入の申し込みが届いた。

さらに病院、職人組合、宿屋が続く。

荷車の列は、怒鳴り声ではなく値札と秤で動いていた。

しかし、統制局は黙っていなかった。

市場に並んだ荷車は、すべて同じ値段で売っていたわけではない。

遠い村から来た麦は運賃が高く、近郊の豆は安い。

エナはその違いを隠さず説明した。

「同じ値段に見せかけるより、理由が分かるほうが信頼されます」

食堂で働く少女は、配給表の数字を見ても笑わなかった。

「うちの弟は昼に寝ているの。列に並べない」

俺は朝の配給を増やす案を出したが、料理人は火と水が足りないと首を振った。

そこで少女が、冷めても食べられる固焼きパンを作ろうと提案した。


翌日、弟は枕元の包みを自分で開けた。

数字の上では同じ一食でも、食べられる時間は人によって違った。

客の中には不満を言う人もいたが、帳簿を見せると納得してくれた。

ある商人は大量に買い占めようとした。

エナは一人当たりの購入上限を設けるか迷った。

普通の商売なら大量購入は歓迎される。

だが、今は病院や食堂にも食料が必要だ。

彼女は購入目的を聞き、転売用と施設用の注文を分けて受付した。

すべてを公平にする魔法はない。

それでも、決め方を公開することはできる。

市場の片隅で、農夫たちは昼食を分け合った。

王都で買った高価な料理ではなく、村から持ってきた豆の煮込みだった。

エナは食べ終わるとすぐ帳面を開き、売れ残った袋の行き先を決めた。

売れなかった食料も、無駄にはできない。

子供が一人、荷車の車輪を指さして笑った。

村から来た御者は、その子に小さな麦の絵を描いてやった。

見知らぬ町でも、食べ物を届ける約束は伝わるのだ。

ハンスは市場の裏で、荷車の車輪を修理していた。

王都まで来る途中で傷んだ車が何台もあった。

「帰りのことを考えろ」

と彼は御者たちに言った。

食料を売り切っても、車が壊れれば次の便は出せない。

修理費を共同で負担する案に、若い御者たちが賛成した。

谷の食糧便は、一つの組織というより、仕事をつなぐ約束の集まりになっていた。

夕方、王都の老人がエナに話しかけた。

「あんたたちはいつまで来る」

エナは少し考え、

「私たちが来なくても、この市場で買えるようになるまで」

と答えた。

老人は驚いた顔をし、それから頷いた。

「それが一番いい」

その言葉を、エナは後で俺に伝えてくれた。

「価格を不当に下げ、市場を混乱させた」

として、販売停止を命じたのだ。

市場の出来事は、牢にいた俺には見えなかった。

後でエナが持ってきた記録には、最初に値札を掲げた農夫の名前と、買い物を終えた老人の言葉まで書かれていた。

エナは

「百台の荷車を動かしたのは、あんたを助けるためだけじゃない」

と言った。

「自分たちの作物を、自分たちの値段で売るためよ」

俺は帳面を閉じた。

俺が釈放される前に、食糧便はすでに俺の手を離れて歩き始めていた。

エナは記者と商人たちの前で帳簿を開いた。

「仕入れ値、輸送費、販売価格をすべて示します。どこが不当なのか、数字で説明してください」

役人は答えられなかった。

「私たちは赤字で売っていません。高値で買い占めた人の利益が減るだけです」

その言葉が市場を駆け巡った。

一方、ハンスは王都の運送組合と交渉していた。

「荷車を百台も並べ続ければ、道が塞がる。共同倉庫を使わせてほしい」

組合長は渋い顔をした。

「俺たちの仕事を奪いに来たのか」

「逆だ。運送はあんたたちに頼みたい。俺たちは仕入れ先をつなぐ」

話はまとまった。

荷車の運転手たちは、王都の仕事も請け負えるようになった。

夕方、俺の牢にリディアが来た。

「王都の監査官が、あなたの帳簿を調べた。違法な取引の証拠は見つかっていない」

「なら出られますか」

「まだだ。統制局が別の容疑を探している」

彼女は声を落とした。

「でも、ひとつ分かった。北方への輸送停止命令で利益を得た商会がある」

「名前は?」

「王都中央穀物商会。統制局の役人と同じ日に会合していた」

俺は目を閉じた。

食料を止めることで利益を得る者がいる。

分かっていたはずなのに、実際に人が死んだあとでは怒りを抑えられない。

「証拠を集めてください。誰かを罰するためだけじゃなく、二度と止められない仕組みにするために」

リディアは頷いた。

市場の掲示板で、老人が小麦の値段を指で確かめた。

「明日もこの値段で買えるのかい」

エナは農家の代表を振り返った。

代表は翌週の便の到着予定を板に書いた。

「約束できるのは、この量までだ。足りなくなれば、隠さず知らせる」

広場に百台の荷車が並んでも、荷を下ろす人手は足りなかった。

エナは御者と市場の人々を組にし、通行路を塞がないよう一台ずつ荷を移した。

その頃、俺は地下牢の小窓から鐘を聞いていた。

市場の様子は見えない。

夜になって看守がパンを置くと、紙切れが一枚添えられていた。

エナの筆跡で、売れた袋の数と、まだ運べない村の名前が書かれていた。

俺はその名前を読み返した。

百台の荷車が集まっても、まだ届け先は残っている。

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