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役立たずと追放された俺の保存倉庫は、飢えた世界を救う最後の希望だった  作者: レモンティー


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第四十七話 反逆者の荷車

「タクトを拘束する命令が出た」

リディアは誰もいない倉庫で告げた。

「まだ執行前だ。今夜のうちに逃げろ」

俺は命令書の印を見直した。

誰の判断で救援が止まったのか、曖昧にはできない。

「逃げれば食糧便が犯罪組織だと認めることになる」

「捕まれば、あなたが食料を運べなくなる」

その通りだった。

エナが机に地図を置いた。

「私たちが決めるべきなのは、タクトが捕まるかどうかだけじゃない。タクトがいなくても配達が続くかどうかよ」

ハンスは黙って頷いた。

俺たちは各村の連絡係へ手紙を出し、仕入れ先、配給先、運送費、残量を共有した。

保存倉庫がなくても動く小さな便を増やすためだ。

夜半、兵が救援所を囲んだ。

隊長はリディアではなかった。

王都から来た騎士ダリオが剣を抜く。

「反逆者タクト。王命により拘束する」

「抵抗しません。ただ、逮捕状を見せてください」

ダリオは書面を突き出した。

そこには『民衆の不安を煽り、食料の流通を混乱させた』と記されていた。

逮捕の前、俺は保存倉庫の中身を確かめた。

食料を持ったまま拘束されれば、必要な人へ渡せなくなる。

俺は救援所の厨房に粉と豆を出し、サラに受領証を書いてもらった。

「全部置いていくの?」

と彼女。

「俺が持っていても、牢の中では役に立たない」

残したのは緊急時の飲み水と、少量の保存食だけだった。

エナは俺に署名を求めた。

谷の食糧便の臨時代表を彼女に移す書類だ。

俺はためらった。

「俺が捕まると決めつけているみたいだ」

エナは睨んだ。

「決めつけじゃない。備えよ」

俺は署名した。

いつの間にか、俺は自分が中心でなければ仕事が進まないと思い込んでいたのかもしれない。

彼女は書類を畳み、

「帰ってきたらまた一緒に働けばいい」

と言った。

護送の途中、馬車がぬかるみに嵌まった。

兵士たちは怒鳴りながら車輪を押したが、動かない。

俺は窓越しに

「後ろの荷を下ろせば軽くなります」

と声をかけた。

ダリオは一瞬迷い、手錠をつけたまま俺を降ろした。

俺は車輪の下に板を入れる位置を示した。

ようやく車が動くと、兵士の一人が

「助かった」

と呟いた。

ダリオは彼を睨んだが、俺は何も言わなかった。

敵味方に関係なく、困っている人がいれば手を貸す。

それは俺が選んだ仕事の根っこだった。

地下牢の食事は冷えた粥だった。

隣の房には年老いた男がいて、半分を残している。

食べられないのかと尋ねると、歯が痛いという。

看守に伝えても取り合ってくれなかった。

俺は自分の粥に水を足して柔らかくし、看守の許可を得て隣へ渡した。

男は驚いた顔をした。

「お前、何の罪で入った」

俺は苦笑した。

「食料を運んだ罪だそうです」

男はしばらく黙り、それから小さく笑った。

「どの行為が該当しますか」

「口答えするな」

俺は手を差し出した。

縄が手首に食い込む。

門の外では、人々が集まり始めていた。

「タクトを返せ!」

「病院の食料を持ってきた人だぞ!」

ダリオが剣を掲げる。

ダリオは護送車の中で、俺の能力について何度も尋ねた。

「五百キロを一瞬で消せるなら、兵糧を運べるな」

「食料なら運べます。でも、俺がどこにでも行けるわけじゃない」

彼は黙った。

軍隊にとって便利な能力でも、道が塞がれば同じように止まる。

港の係員は、積み荷の数が合わない理由を潮のせいにした。

リオは黙って濡れた縄を解き、荷の下から乾いた袋を一つ取り出した。

「潮が届かない場所まで濡れているのは変だ」

袋には別の倉庫の印があった。

係員は逃げようとしたが、船長が通路を塞いだ。

怒りの声が上がる前に、俺は袋を封じ、立会人の名前を記録した。

街道を埋めた荷車の先頭には、かつて通行料を払わされた農家がいた。

「売りに来たんだ。助けを乞いに来たんじゃない」

看守はその言葉を俺に伝えた。

俺は鉄格子の内側で初めて笑った。

俺一人を止めても、農家の収穫までは止められない。

俺はその制約を隠さなかった。

王都に近づくと、道端に荷車の列があった。

北方へ向かうはずの穀物が、許可待ちで停まっている。

御者たちは何日も宿代を払い、馬の餌を買っていた。

「こんなことをして誰が得をするんだ」

ハンスならそう怒っただろう。

俺は手錠の下で拳を握った。

食料があるのに、道が閉じている。

最初にラトナ村で見た問題が、王都の入口にまで広がっていた。

牢の中では時間がゆっくり過ぎた。

俺は指で床に道順を書き、救援所から王都までの距離を思い返した。

馬車なら何日、徒歩なら何日。

そんな計算をしているうちに、少しだけ気持ちが落ち着いた。

外では仲間たちが動いている。

俺はこの夜も仲間たちの無事を祈った。

看守は俺の問いにすぐ答えず、廊下の灯りを確かめた。

「王都じゃ、誰が正しいかより誰が偉いかで決まる」

俺は首を振った。

「それでも、記録は残せます」

牢に入った夜、俺は自分の無力さを数えた。

剣も使えず、魔法で壁を壊すこともできない。

保存倉庫には食料が残っているが、ここで出せば看守に没収されるだけだ。

俺は焦る気持ちを抑え、エナたちに任せた仕事を思い出した。

牢へ連れていかれる直前、ハンスは俺に小さな帳面を見せた。

そこには各村の連絡係と、俺がいなくても使える仕入れ先が書いてあった。

「この先は俺たちが運ぶ」

と彼は言った。

俺は自分の保存倉庫が使えないことを恐れていたが、彼の手は震えていなかった。

護送車の中でネネからもらったパンを半分に割る。

飢えた子が俺へ食料を渡した。

助ける側と助けられる側の境目が、少しずつ消えていた。

代表を移した書類。

各村の連絡係。

共同倉庫の記録。

俺がいなくても動くために作ったものが、今は唯一の希望だった。

看守が灯りを消す前、隣の老人が小さく言った。

「お前の仲間は来るのか」

俺は答えた。

「来なくてもいいんです。食料を届けてくれれば」

老人は不思議そうに笑った。

「変な奴だな」

俺も笑った。

確かに、こんなことを考える囚人は珍しいだろう。

「近づけば反逆の共犯とみなす!」

俺は叫んだ。

「みんな、手を出すな!」

騒ぎになれば、最初に傷つくのは食料を必要とする人々だ。

そのまま俺は王都行きの護送車に乗せられた。

車輪が動き始めたとき、トビとネネが門の外にいた。

ネネは小さな布袋を掲げていた。

「お兄ちゃん、これ!」

兵が止めようとしたが、ダリオは見逃した。

袋の中には、固く焼いた小さなパンが一つ。

「わたしたち、もう食べられるから。今度はお兄ちゃんに」

俺は喉が詰まった。

「ありがとう。大事に食べるよ」

護送車が進む。

遠くなる救援所を見ながら、俺は思った。

これまで俺は、食料を届ける側だと思っていた。

だが、あの子たちはもう、誰かに食料を分ける側になっている。

王都へ着くと、俺は地下牢へ入れられた。

保存倉庫の能力を調べるため、役人が何度も尋問に来た。

「食料を無限に作れるのだろう」

「作れません。買ったものを保存して運ぶだけです」

「嘘をつくな。村が飢えなくなったのは、お前の魔法のせいだ」

「農家が育て、船頭が運び、職人が道を直したからです」

役人は苛立った顔で立ち去った。

三日目、牢の窓から鐘が聞こえた。

看守が言った。

「お前の仲間が王都へ来たぞ」

「何人ですか」

「数え切れん。荷車が街道を埋めている」

俺は立ち上がった。

看守は牢の扉を閉める前に、小さく尋ねた。

「俺の娘も市場で待っている。あの荷車は、本当に食料を売るのか」

俺は頷いた。

「買える値段で。届ける人もいる」

看守は鍵を握り直した。

看守は娘の名を一度だけ呟き、俺の返事を聞くと鍵を腰へ戻した。

「……何をしに?」

看守は苦笑した。

反逆者と書かれた札を荷車から剥がすと、下に古い行き先の文字が残った。

御者はそれを指でなぞり、

「待っている村へ行こう」

と馬を進めた。

「食料を売りに来たんだとさ」

看守が窓から覗くと、王都へ続く道に荷車が連なっていた。

『反逆者』と呼ばれた御者たちは、子供の待つ市場へ食料を運んでいた。

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