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役立たずと追放された俺の保存倉庫は、飢えた世界を救う最後の希望だった  作者: レモンティー


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第四十五話 岸に着けない救援船

船着き場の杭は抜けかけ、足場の板は半分が川に落ちていた。

「こんな状態で荷を降ろせば、船ごと流される」

対岸で待つ母親が子を抱き上げた。

近づいてほしいという声が聞こえたが、ベックは舵を切らなかった。

ここで転覆すれば、今日の食料も明日の船も失う。

ベックは舵を握ったまま岸を見た。

対岸には食料を待つ人々がいる。

だが岸に近づくたび、船底が石に擦れた。

俺は保存倉庫の残量を確かめた。

五百キロまでなら自分で運べる。

しかし船を降りる道がない。

「少し上流に浅瀬がある」

と若い船頭が言った。

「そこなら歩けるかもしれない」

ベックは首を振った。

「流れが速い。足を取られたら終わりだ」

俺は対岸へ声を張り上げた。

「大工か石工はいませんか!」

人々の中から、片腕に包帯を巻いた男が進み出た。

「大工なら俺だ。ただし道具はない」

「材料は?」

オルンが倉庫から運んできた梁には、古い家の名前が彫られていた。

水害で流された家の柱だったという。

「俺の父が建てた家だ」

と彼は言った。

「壊して使うのは惜しいが、腐らせるよりはいい」

俺は返事を迷った。

救援には、誰かの思い出を材料にしなければならない場面もある。

オルンは木目を確かめ、まだ強度の残る部分だけを切り出した。

作業の途中、若い船頭が急いで縄を結び、ベックに叱られた。

「その結び方じゃ濡れたら緩む」

青年は反発した。

「早くしないと人が飢えるんだろ」

ベックは怒鳴り返さず、同じ縄を二通りに結び、川へ浸した。

片方だけがほどけた。

「速さは、ほどけない結び目の上にある」

青年は唇を噛み、黙って結び直した。

俺も同じことを学んでいた。

岸に集まった人々の中に、食料を先に欲しいと叫ぶ男がいた。

彼の妻は寝込んでいるという。

俺はすぐに袋を渡したくなったが、サラから受け取った優先順位の記録を思い出した。

救援所の職員が男の家へ行き、病状を確かめたうえで必要な食事を運ぶことになった。

男は最初、不満そうだった。

しかし後から

「妻には固い豆が食べられなかった」

と謝りに来た。

俺は頭を下げた。

「こちらこそ、先に聞けばよかった」

夜、オルンは仮設桟橋の杭を触り、

「明日までなら持つ」

と言った。

俺は思わず

「明日も」

と繰り返した。

今日の成功を永久の安全と取り違えてはいけない。

ベックは翌朝の水位確認を担当し、オルンは修理に必要な材料を一覧にした。

エナは費用を計算し、地元の役所へ申請書を作った。

たった数歩の足場を守るために、多くの人の仕事が必要だった。

「古い倉庫の梁が残ってる」

俺たちは船を安全な場所へ戻し、岸からの作業を始めた。

男の名はオルン。

戦争で家を失い、救援所の修理を手伝っていたという。

「こんな橋、半日で作れるか分からん」

「半日で全部は要りません。まず人が安全に渡れる足場だけ」

オルンは考え込み、短い杭を二本打ち込むよう指示した。

作業が始まると、待っていた人々も手を貸した。

石を運ぶ者、縄を編む者、子供を遠ざける者。

俺は食料を運ぶために来たのに、今は木材を支えていた。

岸へ着けない船から、小さな布が振られた。

船頭は

「薬を待つ子がいる」

と叫んだが、潮が強くて近づけない。

俺は食料の大袋を下ろし、先に小舟へ移せる軽い荷を選んだ。

全量を一度に運ぶことを諦めて、今夜必要な分だけは先に渡す。


昼過ぎ、川上から流木が押し寄せた。

作業に参加した人々には、簡単な役割表を作った。

誰が縄を確認し、誰が杭を打ち、誰が子供を遠ざけるか。

最初は面倒だと言われたが、流木が来たとき、声をかける相手が決まっていたことで混乱を減らせた。

俺は日本の倉庫で何度も行った安全確認を思い出した。

作業前の数分を惜しんで、取り返しのつかない事故を起こしたくない。

オルンは腕の包帯を隠そうとしていた。

俺が気づいて休むよう言うと、彼は怒った。

「片腕が痛むくらいで役に立たないと言うのか」

俺は慌てて謝った。

「そうじゃない。あなたに倒れられたら、次の船着き場を直す人がいなくなる」

彼は少し黙り、若い職人に作業を教え始めた。

自分で全部やるより、人に教えるほうが難しい。

しかし、それが町に技術を残す方法だった。

川辺で待つ老人が、作業する人々へ水を配った。

自分では重い梁を運べないからと、朝から水を汲んでいたのだ。

俺は礼を言い、次の便のときにも手伝ってほしいと頼んだ。

修理の材料を数えると、足りない釘が二十本あった。

オルンは壊れた木箱から使える釘を抜き、曲がったものを金槌で伸ばした。

新品ではないが、強度を確かめてから使えば役に立つ。

町の人々は手分けして次の作業を準備した。

荷を降ろしたあと、俺は受領票に署名をもらった。

サラは

「また書類?」

と笑ったが、すぐに真剣な顔になった。

「次の便を頼むためには、何が何袋届いたか分からないと困る」

その通りだった。

俺の能力で突然現れた袋も、普通の荷車で届いた袋も、使う人には同じ食料だ。

特別な力に頼った分だけ、記録を丁寧に残さなければならない。

オルンは流された家の梁を仮設桟橋に使ったあと、削り屑を小さな布に包んだ。

「父が建てた家の最後の欠片だ」

俺は礼を言ったが、彼は首を振った。

「礼なら明日の船を着けてくれ」

その場にいた若い大工が、自分も修理を手伝うと申し出た。

俺の倉庫で渡せたのは最初の荷だけだ。


翌日から使う桟橋の図面を、オルンと若者が地面に描き始めた。

壊れた家の木材が、次の誰かを迎える場所になる。

夕方、オルンは仮設桟橋の最後の梁に手をかけた。

包帯の巻かれた腕が震えている。

「ここだけは、俺が締める」

「次の船でも使う場所です。若い大工にも任せてください」

とエナ。

オルンが手を離し、若者が楔を打ち込んだ、その瞬間だった。

「離れろ!」

ベックの叫びで皆が岸へ戻った。

組みかけの足場が折れ、木材が流される。

オルンが膝をついた。

「もう材料がない」

俺は胸の奥が冷たくなるのを感じた。

待っている人の顔を見れば、諦めるという言葉が出てこない。

「船の積荷を全部下ろす必要はない」

エナが言った。

「タクトの倉庫なら、船から岸まで一度に運べる。必要なのは人一人が渡れる場所」

「でも俺が落ちたら……」

「だから安全帯を使う。あなたを英雄にするための作業じゃない」

オルンは残った木材で狭い仮設桟橋を組み、ベックは船を二本の縄で固定した。

俺は荷を収納し、腰に縄を結んだ。

足場は揺れたが、岸まで三歩だった。

「着いた!」

歓声が上がった。

俺は保存倉庫から麦袋を出した。

袋が次々と現れるたび、人々は驚いたが、誰も魔法の仕組みを尋ねなかった。

今必要なのは食料だ。

その日のうちに、病院へ最初の麦と豆が届いた。

だが、オルンは折れた足場を見つめていた。

「明日はどうする。あんたが来なければ船を着けられない」

「今日の方法は応急処置です。明日は皆が使える船着き場を作りましょう」

夕暮れ、エナが救援所から戻ってきた。

「王都から監査官が来るって」

「食料を届けたことを調べるのか?」

船長は岸の子供たちを見たまま舵を切り直した。

近づけば食料を渡せる。

だが転覆すれば次の便も来ない。

俺たちは接岸を諦め、岸から安全な受け渡し場所を探した。

「それだけじゃない。谷の食糧便そのものを営業停止にするそうよ」

川を越えた先には、さらに大きな壁が待っていた。

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