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役立たずと追放された俺の保存倉庫は、飢えた世界を救う最後の希望だった  作者: レモンティー


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第四十四話 封鎖された街道の向こう

北方街道の関所に、王国軍の旗が上がった。

兵士たちは荷車を止め、積荷を調べている。

民間の食料輸送は全面禁止。

救援所へ向かう道も例外ではなかった。

「戦時の安全確保だそうだ」

ハンスが憮然とした顔で言う。

「でも北方では戦闘が起きていない」

俺は関所の向こうを見た。

道には畑が続いている。

そこにいる農民たちも、町へ作物を運べないはずだ。

エナが別の地図を広げた。

「川を使えば関所を避けられる。でも水位が低い。大きな船は通れない」

「小舟なら?」

「積める量が少ないし、岸から救援所まで運ぶ人手が必要」

俺は船が着いた時刻を聞き、岸で待った人々の証言と比べた。

保存倉庫を使えば、俺自身が小舟で五百キロを運べる。

だが、次の便はどうする。

「最初の一便だけ俺が行く。その間に、農民と船頭で輸送の仕組みを作ろう」

エナは頷きかけて止まった。

「その川、領主の許可が必要よ」

許可を求めに行くと、領主代理の男は冷笑した。

「王都の命令に逆らってまで救援する理由があるのか」

船頭組合の小屋には、古い水位表が貼られていた。

月ごとの水深と、船底が川底に触れた場所が細かく記されている。

ベックは指で赤い印をなぞった。

「春の増水なら船は通る。だが今は上流の堰が閉まっている。水が急に落ちることがある」

俺はただ川を迂回路と考えていた自分を恥じた。

道は地図に描かれた線ではない。

毎日変わる水と、それを知る人間の仕事なのだ。

出航前、ベックは船頭たちを集め、積荷の置き方を決めた。

重い麦袋を片側に寄せれば小舟は傾く。

俺が保存倉庫に収納すれば重量は消えるが、全員がその能力に頼れば次の便を再現できない。

「今日は魔法なしの積み方も記録しておこう」

とベックは言った。

俺たちは一袋ずつ量り、船底の目印を確認した。

俺の能力は便利だが、便利さを隠れた前提にしてはいけない。

川岸の農家には、船を出すことに反対する人もいた。

「王都に逆らえば畑を取り上げられる」

彼らの不安はもっともだった。

俺は安全を保証できないと正直に伝えた。

代わりに、出航記録を公開し、船頭の家族に何かあったときの支援金を、取引の利益から積み立てる案を出した。

ベックはそれを聞いて眉を上げた。

「最初から危険を認める商人は珍しい」

俺は一拍置いて答えた。

「危険がないと言って人を乗せるほうが怖いです」

船が動き出したあと、対岸から老人が手を振った。

彼は荷を受け取るためではなく、水位を知らせるために来たのだという。

岸の石に白い線を引き、次の船が危険を見分けられるようにしてくれた。

誰かが食料を作り、誰かが運び、別の誰かが道を見守る。

配達とは、その小さな仕事をつなぐことなのだと、俺は改めて感じた。

ベックは船頭たちを呼び、岸に残る者と下流へ向かう者を分けた。

若い船頭は

「俺も乗る」

と申し出たが、ベックは首を振った。

「お前は次の便の船長だ。今日の水位を岸から記録してくれ」

若者は不満そうだったが、次の便を待つ患者の名簿を渡されると、黙って受け取った。

。

若者は悔しそうに船を見送り、岸の石へ目印を刻み始めた。

「川の真ん中は見た目より速い。岸へ寄せすぎれば浅瀬に乗り上げる」

ベックは木片を流して見せた。

俺が急いで出航時刻を早めようとすると、彼は首を振った。

「乗員が休んでいない。疲れた手で縄を結べば、港へ着く前に落とすぞ」

待つ人々のことを考えると、胸が焦った。

それでも俺は時刻を変えなかった。

出航できない理由を病院へ伝える使いを出し、下流の受取係には、船が着いてから荷を運ぶ順番を知らせた。

出航直前、農家の一人が岸に駆けつけた。

「役人が船頭の名前を聞き回っている。帰ってきたら捕まるかもしれない」

俺は船を止めるかベックに尋ねた。

彼は家族へ預ける金と帰港先を確認してから、静かに櫂を握った。

「怖くないのか」

と農家がベックに聞いた。

「怖いさ。だから戻って来られるように準備してる」

その言葉で、俺はようやく船の出発だけを成功と呼ぶのをやめた。

船が川の曲がり角に差しかかると、ベックは帆を緩めた。

上流の雨で水位が変わり、昨日は見えていた岩が波の下に隠れている。

「ここで荷を片側へ寄せるな。重心が傾けば戻せなくなる」

若い船頭が慌てて袋を抱え直す。

俺は収納できる食料の量を計算したが、全部を倉庫へ移すわけにはいかなかった。

次の便を担うのは彼らだ。

ベックは長い棒で川底を測り、安全な水路を一つずつ確認した。

岸では農家が白い布を振っていた。

浅瀬の位置を知らせる合図だという。

「道が閉じても、川を知る人がいる」

とエナが言った。

「だからこそ、その人たちに危険を押しつけないようにしないと」

俺は運賃と船の修理費を別々に記録した。

船頭たちが無事に戻って、次の便にも乗れるようにするためだ。

下流の船着き場が見えたとき、岸には病院の職員と大工が待っていた。

しかし杭の一本が折れ、結んであった縄が切られていた。

新しい刃物の跡がある。

「誰かが細工したな」

ベックは険しい顔で岸を見た。

俺は船を無理に寄せず、受取係に小舟を準備してもらうよう叫んだ。

荷を待つ子供たちには、崩れた岸から離れてもらった。

「犯人は後だ。先に安全な場所を作る」

ベックは予備の杭を持ち、船頭たちと浅瀬へ降りた。

俺も縄を取った。

食料はまだ船の上にある。

ここからが最後の仕事だった。

ベックが杭を打つ場所を決めると、下流の大工が対岸から声を掛けた。

「こっちの岸なら荷を受けられる。だが一度に人を集めるな」

俺は子供たちに岸から離れて待ってもらい、受取係だけを船着き場へ呼んだ。

病院の担当者は人数を確認し、運ぶ順番を決めた。

切られた縄を見たベックは歯を食いしばったが、誰かを追いかけようとはしなかった。

「食料を先に降ろす。犯人はそのあとだ」

その判断に船頭たちが頷いた。

俺たちは危険な岸を避けて小舟を寄せた。

最初の麦袋が大工の手に渡った瞬間、子供たちの間から歓声が上がった。

船を下りた病院の職員は、袋を受け取るなり頭を下げた。

ベックは『礼なら、次の船が着けるよう岸を直してくれ』とだけ言った。

俺も縄を結び直し、次の便が来る時刻を確かめた。

岸に残った大工は、次の便に備えて杭の位置を地図に記し、暗くなっても見える目印を立てた。

船頭が変わっても同じ危険を繰り返さないためだった。

病院の職員は受領した袋の数を声に出して数え、大工が同じ数字を板に刻んだ。

岸を離れる前にベックも確認する。


翌朝の船頭が誰であっても、足りない分と危険な場所が分かるようにするためだった。

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