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役立たずと追放された俺の保存倉庫は、飢えた世界を救う最後の希望だった  作者: レモンティー


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第三十八話 川をさかのぼる食料

二艘目が到着する前、曳き道の修理に参加した農夫が俺を呼び止めた。

「この道を使うなら、畑の端を通ることになる。踏み荒らされたら来年の収穫に響く」

俺は地図を開いた。

確かに最短の経路は、彼の畑を横切っていた。

「迂回できますか」

セルムが首を振る。

「できるが、半日余計にかかる」

今すぐ食料を届けたい気持ちと、来年の収穫を守りたい気持ちがぶつかった。

「畑を通らせてもらう代わりに、作物を傷めた分を買い取ります。それと、舟が通り終えたら道を補修します」

農夫は眉を寄せた。

「その約束を誰が保証する?」

俺は答えに詰まった。

俺が善意を口にしたところで、農夫の損害は消えない。

エナが提案した。

「市の監査役に立ち会ってもらおう。畑の境界を測って、作業前と後を記録するの」

「それなら話は別だ」

と農夫は言った。

作業員たちは荷綱の通る場所に木板を敷き、根を踏まないよう足場を組んだ。

時間はかかったが、誰も文句を言わなかった。

夕方、農夫は泥だらけの手で舟の舳先を押した。

「来年、俺が作った麦もこの舟で運んでくれ」

俺は頷いた。

「そのためにも、この道を残します」

目の前の飢えを救うために、次の収穫を奪ってはいけない。

運ぶ仕事には、荷を下ろしたあとの責任もあるのだ。

川岸の曳き道は、草に埋もれていた。

船頭の老人セルムは、杖で土を叩いた。

「この道なら、浅い舟を岸から引ける。昔は塩を運んでいた」

俺は道を歩いて確かめた。

ところどころ崩れ、橋の下では通れなくなっている。

「使うなら修理が必要だ」

とハンス。

「修理に何日?」

「人数がいれば二日。ただし水際の作業は危険だ」

ミレイは町の土木班を派遣した。

オドが地盤を調べ、危険な箇所は迂回路を作る。

船頭たちは舟の積載量を実測し、無理な荷を載せないと約束した。

俺は周辺の村へ麦の買い付けを頼んだ。

ただし、村の冬越し分は残す。

前払いと引き渡し時の検量を条件にした。

「全部買ってくれないのか」

と農家の男。

「村の食料まで奪ったら、次はここが飢えます」

男はしばらく黙り、それから値札を書き直した。

川の輸送計画を作るとき、船頭セルムは何度も首を振った。

「紙の上では運べても、川は毎日違う」

俺は彼に水位の変化を教えてもらった。

浅瀬、急な流れ、風が吹き抜ける曲がり角。

地図に印をつけ、危険な場所には見張りを置いた。

保存倉庫で運べる量には上限があるが、舟なら何倍もの穀物を運べる。

ただし、舟を一艘失えば人命も失う。

俺たちは積載量を控えめに設定した。

ハンスは

「もっと積めるだろう」

と言ったが、セルムが厳しい顔で答えた。

「沈んだら一袋も届かん」

その場の沈黙は、川をさかのぼる食料という問題にまだ答えが出ていないことを示していた。

出発前、農家の代表から値上げの申し入れがあった。

周辺でも麦が不足し始めているという。

俺は相場を確認し、適正な価格なら受け入れると答えた。

「救援だから安く売れとは言わないんだな」

と農家。

「来年も作ってもらわなければ、救援は続きません」

農家は少し驚いた顔をした。

俺たちは価格だけでなく、次の種まきに必要な麦を残す条件も契約書へ書き込んだ。

最初の舟が出る朝、岸には多くの人が集まった。

誰かが祝福の鐘を鳴らそうとしたが、セルムは止めた。

「まだ着いてない。喜ぶのは向こうの岸に荷を下ろしてからだ」

その言葉は厳しかったが正しかった。

俺も声を上げず、舟の綱が張るのを見守った。

土の上を馬の蹄が踏みしめる。

ゆっくりと、しかし確かに、食料が城塞へ向かって動き始めた。

曳き道の工事二日目、雨が降り始めた。

土が滑りやすくなり、作業は中止。

ハンスは悔しそうに言った。

「あと少しなのに」

「人が落ちたら、二日どころじゃ済まない」

俺たちは代わりに舟の袋を小分けにし、荷崩れしない積み方を確認した。

三日目の朝、空が晴れた。

曳き道の修理には、川沿いの村の人々も参加した。

石工が危険な崖を調べ、農家が馬を貸し、船頭が流れの速い場所を教えた。

誰も無償で働けるわけではない。

俺たちは作業時間を記録し、領主府の緊急予算と通行料の積立金から賃金を払うことにした。

「救援のためだから無料で働け、と言われるかと思った」

と若い石工が笑った。

「あなたが家族に食料を持ち帰れなくなったら、救援になりません」


その夜、作業員たちは自分たちの手で直した道を見つめた。

まだ舟は通っていない。

それでも、昨日まで通れなかった場所に人が立っている。

小さな変化が、明日の食事につながるのだと俺は感じた。

最初の三艘が出発する。

舟が城塞へ近づくにつれ、岸に人影が増えた。

誰かが手を振り、誰かが祈るように胸の前で手を組んでいる。

俺は舟の荷を見た。

これで全員を満腹にはできない。

それでも、今日の食事を一回増やすことはできる。

船頭たちは黙って綱を引いた。

派手な勝利の声はなかった。

ただ、確かな重さを持つ麦袋が一つずつ運ばれていく。

荷を下ろしたあと、セルムは俺に言った。

「明日も川は同じとは限らん」

俺は頷いた。

「水位を毎朝確認します」

彼は笑った。

「それでいい。川を舐めなきゃ、川は道になる」

俺はその言葉を帳面の端に書いた。

食料を届ける仕事は、自然にも人にも謙虚でなければ続かない。

岸では馬が綱を引き、舟には船頭が乗った。

流れに逆らってゆっくり進む。

子供が追いかけてきたが、危険なので土手から離れてもらった。

曳き綱が曲がり角の岩に擦れ、舟が大きく傾いた。

「綱を切れ!」

と誰かが叫ぶ。

船頭セルムは首を振った。

「荷を捨てる前に、人を岸へ寄せろ」

俺は荷のことを考える自分に気づき、慌てて岸の作業員の退避を指示した。

予備の綱を結び直す間、農夫は自分の畑の端に板を敷き、馬の足場を作ってくれた。

「畑が傷む」

と俺が言うと、農夫は答えた。

「傷めた分は約束どおり測ってくれ。それより舟を沈めるな」

一時間遅れて届いた麦で、北区の窯に火が入った。

少年がパンを母親へ差し出し、母親は半分を少年に返した。

俺は次便の綱と灯りを増やすよう記録した。

だが夕刻、セルムの乗った四艘目が戻らないと知らされた。


昼過ぎ、最初の舟が城塞の南門に着いた。

しかし門は開かない。

「軍の許可がない」

と衛兵。

ミレイが駆けつけ、封印された許可証を示した。

「私の責任で通す。数量はここで検査する」

袋が一つずつ量られ、台帳に記されていく。

曳き道を使う最初の便には、荷主の代表も同行した。

運ぶ途中で袋が破れた場合、誰が責任を負うかを確認するためだ。

俺は出発前に、荷の重量と袋の状態を一緒に見た。

小さな穴があいた袋は積み替え、濡れた袋は別にした。

「そこまで細かくやるのか」

と農家が言った。

「届いた先で揉めたくないんです」

農家は笑って頷いた。

信用は、最初の受け渡しから始まる。

川の曲がり角では、馬が足を滑らせかけた。

船頭がすぐに綱を緩め、舟を岸へ寄せる。

誰も怪我をしなかったが、進行は一時間遅れた。

ハンスは時計代わりの砂器を見つめ、唇を噛んだ。

「遅れるな」

セルムは言った。

「遅れても着けばいい。沈んだら誰も食えん」

俺はその言葉を記録した。

次便からは危険な曲がり角に予備の綱を置くことにした。

城塞の内側では、配給所の人々が手を叩いた。

俺は笑いかけようとして、声を失った。

北区の少年が、配られたパンを母親の口へ運んでいた。

母親は痩せ、起き上がる力もない。

「先に食べて」

と少年。

「あなたが食べなさい」

と母親。

二人は互いに譲り合い、パンをなかなか口にしなかった。

俺はそっと声をかけた。

「次の便も手配しています。今は二人で分けてください」

約束の重さが胸にのしかかった。


夕刻、四艘目の舟が戻ってこないと連絡が入った。

逆流する水が綱を引くたび、岸の杭が浮いた。

俺は舟を押し出すのを止め、船頭たちに綱の結び直しを頼んだ。

荷を濡らすより、人を流すほうが取り返しがつかない。

船頭セルムが乗った舟だった。

「綱だけが下流で見つかった」

と伝令は言った。

俺は出航前にセルムが結び直した結び目を思い出した。

切れたのか、誰かが解いたのか。

次の舟を出す前に、まずセルムを捜さなければならない。

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