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役立たずと追放された俺の保存倉庫は、飢えた世界を救う最後の希望だった  作者: レモンティー


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第三十六話 封鎖された西門


翌朝、俺は西門を通れなかった荷車の御者たちを集めた。

「通行料を払えば通れる、と言われた人はいますか」

若い御者が手を上げた。

「銀貨二十枚だと。うちの荷は豆だ。そんな額を払えば売り上げが消える」

別の御者は、城内の親類に薬を届ける途中だった。

彼の荷まで止められていたと知り、俺は言葉を失った。

エナは荷の種類と目的地を一枚ずつ記録した。

俺は門の封鎖を単なる嫌がらせとして片づけないことにした。

誰が、どの荷を、どれだけ止められたのか。

それを明らかにしなければ、次の交渉でまた弱い者から切り捨てられる。

「食料だけ通せばいい、とは言えないね」

とエナが呟く。

「ああ。病人の薬を止めていい理由にもならない」

御者たちは荷車を日陰に寄せ、互いの馬に水を分けた。

街道を塞ぐ柵の向こうでは、傭兵たちが昼食を取っていた。

こちらの荷には手をつけさせないくせに、彼らの鍋からは温かな湯気が上がっている。

俺は怒りを飲み込んだ。

今ここで剣を抜けば、最初に困るのは荷車を守る御者たちだ。

その代わり、御者の代表に伝えた。

「通行を再開させるまで、待機費用を記録してください。誰かの善意で損を埋めるやり方は続きません」

彼らは驚いた顔をしたが、やがて一人ずつ頷いた。

西門の前に立っていたのは、ヴァルデンの兵士ではなかった。

黒い旗を掲げた傭兵隊が、街道を横切るように柵を組んでいる。

「この先は通行禁止だ」

隊長が言った。

「誰の命令ですか」

「契約主の名前を明かす義務はない」

俺は引き返した。

武力で突破できる相手ではないし、荷車を失えば救援も続かない。

ハンスは悔しそうに拳を握った。

「俺たちが食料を持っていると知ってるんだ」

「なら、向こうもこちらの動きを見ている」

俺たちは城塞の地図を広げた。

北門は軍用、東門は狭い石橋、西門が主要街道。

南門は川に面しているが、船着き場は壊れていた。

「川から運べないか」

とエナ。

「船が足りない。水位も低い」

西門の封鎖を受けて、御者たちは次々と契約の解除を申し出た。

荷車を壊されれば、家族を養う手段を失う。

俺は引き止めなかった。

「危険を承知で運べとは言えません。積み替えの仕事なら、町の外でもあります」

一人の御者が不満そうに言った。

「逃げるみたいで嫌なんだ」

ハンスが答えた。

「生きて帰って、次の荷を運ぶほうがいい」

その言葉に、御者はようやく頷いた。

俺たちは危険な街道へ入る便を止め、食料を分散して保管した。

商会が倉庫を一つ押さえても、すべては失わないようにするためだ。

地下水路の調査では、オドが古い図面の間違いを見つけた。

実際の壁は図面より厚く、途中に補強材が入っている。

「ここを壊せば、上の家まで沈む」

俺は計画を白紙に戻しかけたが、オドは別の入口を示した。

「時間はかかるが、ここなら安全に調べられる」

作業員たちは土砂を少しずつ運び出し、天井の亀裂に印をつけた。

俺は保存倉庫を使えば荷車を通さずに済むと考えていたが、そもそも人が通れなければ意味がない。

能力があるからこそ、危険を過小評価しそうになる自分を戒めた。

脅迫状が届いた夜、エナは食糧便の帳面を抱えたまま眠れずにいた。

「私たち、誰かを怒らせるために始めたんじゃないのに」

「そうだね。でも、今やめたら食べられない人がいる」

彼女は長く黙り、やがて帳面を閉じた。

「じゃあ、明日も数字を間違えないようにしよう」

その声は震えていた。

勇気は怖くなくなることではない。

怖いまま、必要な仕事を一つずつ続けることなのだ。

そこでミレイが古い設計図を持ってきた。

「城塞には昔、地下の排水路があった。今は閉鎖されているけれど」

排水路の出口は西門の柵より下流にある。

しかし、図面には落盤の印がついていた。

「人を入れる前に調べないと危険です」

と俺。

町の石工長オドに協力を頼み、入口の状態を確認した。

内部は狭く、天井には亀裂がある。

「大量の荷車は無理だ」

とオド。

西門から戻った御者たちの中に、家族を城塞内に残した男がいた。

「俺だけ逃げたみたいだ」

と彼は言った。

俺は否定しなかった。

男が感じている苦しさを、簡単な言葉で消すことはできない。

「今、何をしたいですか」

「食料を運びたい。でも傭兵が怖い」

俺は安全な場所での荷の仕分けを頼んだ。

彼は最初、そんな仕事に意味があるのかと顔をしかめた。


翌日、彼が仕分けた豆袋が北区の共同炊事へ回ると、エナが受領印のある紙を見せた。

「あなたが量った分です」

男は紙を握りしめた。

「俺にも、できることがあったんだな」

俺は相手の目を見て、頷いた。

危険な道へ飛び込むだけが勇気ではない。

後方で確実に働く人がいるから、救援は続く。

「人が安全に通れるところだけ使えますか」

地下水路の入口に立つと、冷たい空気が吹き上がってきた。

オドは壁に手を当て、慎重に音を確かめる。

「ここは古い。急ぐと崩れる」

俺は焦りを抑えた。

町の中では食事を待つ人がいる。

だが作業員を危険にさらしてまで急げば、別の命を失う。

「安全な範囲だけで進めてください」

と頼むと、オドは短く頷いた。


その夜、ハンスが街道の見張りから戻った。

「傭兵たちは荷車を止めるだけで、食料を奪ってはいない」

俺は首を傾げた。

奪うのが目的なら、積み荷を持ち去ればいい。

通行を止めること自体が狙いなのかもしれない。

エナは帳面を閉じて言った。

「町の人が飢えれば、誰かが高い値段で売れる」

俺は脅迫状を見つめた。

相手の目的が利益だとしても、確かな証拠を得るまでは断定しない。

「補強すれば、一人ずつなら」

保存倉庫なら荷車を通す必要はない。

俺一人が入れば、五百キロまで運べる。

だが、その五百キロで三万人を養うことはできない。

「緊急の薬や高栄養の食料を運ぶ経路にしよう。主力の食料は別の道が必要だ」

俺はそう決めた。

地下水路の出口を調べていた作業員が、石のきしむ音を聞いて全員を退避させた。

「まだ中に道具がある」

と若者が戻ろうとした。

俺はその肩をつかんだ。

「道具はまた作れる。あなたの代わりはいない」

人数を数え直し、最後の一人が地上へ出たのを確認してから、崩落音が響いた。

西門の封鎖は続き、抜け道も塞がれた。

ハンスが無言で剣に手をかけたが、俺は止めた。

「商会に勝つために、作業員の命まで賭けるわけにはいかない」

エナは川沿いの古い曳き道を地図に描いた。

舟で運べる量は少ない。

それでも、繰り返し運べるなら一度きりの抜け道より確かだ。

俺は翌朝の測量を頼み、作業員には休息と賃金を保証した。

道が消えた夜に、別の道を探す仲間が残った。


翌日、補強工事が始まった。

作業員の安全を優先し、崩落の危険がある区画には入らない。

一方、エナは川沿いの村々へ使者を出し、浅瀬を通れる小舟を集め始めた。

脅迫状を調べた検査官は、封筒に商会の印がないことを指摘した。

「北門商会の関係者とは限らない」

俺は頷いた。

自分に都合のいい証拠だけを集めれば、いつか判断を誤る。

「差出人が誰であっても、街道封鎖は調べてもらいましょう」

検査官は傭兵隊の契約について調査を始めた。

契約書が出てくるまでは、推測を事実として広めないことにした。

水路工事を見守る間、エナが俺に言った。

「保存倉庫の中に、人は入れられないんだよね」

「入れられない。食料と飲み物だけだ」

彼女は頷いた。

「だから私たち、道を作らないといけないんだね」

俺は地下の暗い入口を見つめた。

便利な能力があっても、道を直す石工がいなければ使えない。

舟を動かす船頭がいなければ運べない。

俺が一人で世界を救えると思ったことはない。

それでも、仲間が増えるたびに、できることが少しずつ広がっていた。

夕方、俺たちの宿に一通の手紙が届いた。

『西門を開けたければ、北門商会への調査を取り下げろ』

署名はない。

俺は紙を机に置いた。

「やっぱりつながっていたか」

ハンスが剣を握った。

「どうする」

「取引には応じない。でも、手紙は証拠として保管する」

俺はエナとミレイに写しを渡した。

地下水路の出口が崩れたと聞き、俺は入口へ走った。

作業員の一人が、全員退避したと報告した。

俺は名前を読み上げ、人数が合うまで誰も瓦礫へ近づけなかった。

「荷だけなら、隙間を通せるかもしれない」

若い御者が言った。

「戻る道がない場所へ人を入れるわけにはいかない」

エナは水路の図面に赤い線を引いた。

門の通行料を払えない御者たちは、わずかな望みを失って黙り込んだ。

俺は西門へ戻り、待っていた母親に迂回路が使えなくなったことを伝えた。

子供の熱が高いと聞き、薬を運ぶ御者と診療所へ連絡する役を分けた。

「道ができるまで待て、とは言えません」

母親は子供を抱き直した。

門番が槍を下ろすより先に、俺たちは通行の例外を求める申請書を差し出した。

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