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役立たずと追放された俺の保存倉庫は、飢えた世界を救う最後の希望だった  作者: レモンティー


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第二十八話 空腹を買い取る値段

町の裏通りにある小さな買い取り所には、朝から人が並んでいた。

持ち込まれるのは、配給された麦や豆の袋だ。

「麦一袋、銅貨十五枚」

買い取り人は袋を量りもせず、値段を告げた。

「昨日は二十枚だったじゃないか」

と老人。

「嫌なら持って帰れ」

老人は薬代の書かれた紙を握りつぶした。

麦を売らなければ薬が買えず、売れば今夜の粥がなくなる。

老人はしばらく迷い、袋を置いた。

俺はその光景を離れた場所から見ていた。

買い取り人が集めた麦は、夕方になると北門商会の倉庫へ運ばれていく。

「同じ麦を何度も売っているのか」

とハンス。

「可能性はある。でも、袋だけじゃ証拠にならない」

俺はエナに頼み、配給所で使った札の番号を調べてもらった。

配給袋には小さな印をつけている。

人を監視するためではなく、どの地域へ何を届けたか確認するためだ。

買い取り所の荷には、その印が残っていた。

「この袋、先週の孤児院向けの荷と同じ番号だ」

エナが言った。

「孤児院から出たの?」

「違う。番号は同じだけど、袋の縫い目が変わってる。再利用した袋かもしれない」

証拠を急いで結びつけてはいけない。

俺は袋を売った人たちに話を聞いた。

理由はさまざまだった。

薬代、家賃、借金の返済。

なかには配給が必要ないのに受け取って売った人もいた。

「全部を同じ不正として扱えない」

とエナ。

「うん。まず、買い取り所がどういう条件で買っているか調べよう」

俺は客として買い取り所に入り、値段表を求めた。

「そんなものない」

と男。

「量り売りなら、重さと値段の記録はありますか」

「面倒な客だな。売らないなら帰れ」

そのとき奥から別の男が出てきた。

灰色の手袋。

北門商会の使者だった。

「また君か。今度は貧しい人の売り物まで取り締まるのかね」

「売る自由はあります。ただ、値段を知って選べるようにしたいだけです」

「市場価格は需要と供給で決まる」

「なら、その価格を掲示すればいい」

使者は笑った。

「商売の邪魔をするな」

俺たちは店を出た。

ハンスが言った。

「力ずくでやめさせられないのか」

「やめさせても、薬代が必要な人は困る。別の選択肢を作らないと」

俺は農家の長に相談した。

鉱山町への試験便が決まると、加工場の女たちは夜遅くまで働こうとした。

「売れるなら、今のうちにたくさん作らないと」

俺は作業台の前で首を振った。

「最初は品質と運賃を確かめる便です。売れるか分からないものを大量に作らないでください」

「でも、早く現金が欲しいのよ」

「分かります。だから試験分の賃金は先に確保しています」

女たちは顔を見合わせた。

ひとりが乾燥した葉を持ち上げる。

「これ、湿気が残ってる気がする」

「じゃあ、出荷を止めて確認しよう」

検査すると、袋の底に水分が溜まっていた。

急いで詰めたせいだ。

俺たちはその袋を外し、乾燥工程を見直した。

「損したね」

と若い女。

加工場では、売れ残った分を無理に配給へ回さないことも決めた。

品質を確認し、必要な地域へ届ける。

試験便の帰り、荷車の御者が俺に聞いた。

「こんな少ない利益で続くのか」

俺は計算表を見せた。

今回は調査費を含めれば赤字だ。

「可能性だけじゃ飯は食えん」

と御者。

「その通りです。だから三便試して、駄目ならやめます」

無理に希望を語るより、撤退の条件を先に決める。

御者は笑った。

「変な商人だな。でも、それなら俺も乗れる」

「今ここで気づけたから、届け先で困らせずに済んだ」

彼女は悔しそうに頷いた。

試験便が売れた知らせが届いた日、加工場では小さな祝いが開かれた。

だが、エナは売上表を見て笑わなかった。

「運賃を引くと、利益は少ししかない」

「帰りに鉱山の道具を運べれば、次は改善できる」

「その仕事を誰が頼むの?」

「鉱山の食堂主に聞いてみる」

俺は新しい注文を取る前に、今の仕事が続くか確かめたかった。

喜ぶのは、二度目の便も無理なく出せてからでいい。

買い取り所の前で、老人は麦袋を持ち帰ろうとして膝をついた。

家には薬を待つ妻がいるという。

俺は買い取り人を怒鳴る代わりに、老人に袋を戻し、薬屋まで同行した。

値段を付け直すには時間がかかる。

今夜の薬には間に合わない。

エナは配給袋の番号を控え、ハンスは老人の妻を医師に診せる手配をした。

袋を取り戻すだけでは生活は戻らない。


翌日、老人は自分の足で配給所へ来て、同じ事情の人がいると教えてくれた。

その晩、加工場の女が俺に言った。

「配給の列に並ぶのもありがたかった。でも、自分の作ったものを誰かが買ってくれるのは、違う嬉しさがあるね」

俺はその言葉を帳面には書かなかった。

忘れたくなかったから、心に残した。

「配給袋の買い取りじゃなく、住民が作ったものを正当な値段で買う方法を増やしたい」

「そんなに仕事があるか?」

「食料の加工、袋の修理、荷車の整備、乾燥野菜の製造。できる範囲から」

村の広場で、仕事と賃金を掲示した。

子供や病人を働かせず、希望する大人に短時間の仕事を割り振る。

必要な人には緊急支援費から薬代を補助する。

最初の一週間、集まったのは十五人だった。

だが、仕事を終えた人が銅貨を受け取ると、少しずつ列が増えた。

「麦を売らなくても、薬を買える」

ノーラがそう言ったとき、俺は胸の奥が熱くなった。

しかし、喜んだのも束の間だった。

北門商会が乾燥野菜の買い取り価格を急に下げ、俺たちの加工品が売れなくなったのだ。

「また妨害か」

とハンス。

「価格を下げるだけなら、商売として違法とは限らない」

俺は唇を噛んだ。

「だから、別の買い手を探す」

エナが地図を広げた。

「西の鉱山町は、野菜が不足しているって。乾燥野菜なら運べるかもしれない」

「鉱山町まで何日?」

「普通の荷車なら三日。山道を使えば二日」

俺たちは試験便を出すことにした。

売れる保証はない。

運賃を失う可能性もある。

「最初は少量でいい」

と俺。

「失敗したら?」

と加工場の女。

「損失は共同の試験費から出す。働いた人の賃金は払う」

女は驚いた顔をした。

「本当に?」

「仕事をした分は、売れたかどうかに関係なく支払う。それが約束です」

塩の道を指した老人は、崩れた坂に残る古い轍をなぞった。

「荷車が無理でも、人なら通れる」

俺は運び手を集める前に、往復に必要な水を数えた。

空腹の人を助けに行って、運び手を倒れさせれば、次の便も失う。


二日後、試験便は鉱山町へ到着した。

結果は予想外だった。

乾燥野菜は売れたが、鉱夫たちが欲しがったのは別のものだった。

「塩がないんだ」

と鉱山の食堂主。

「野菜はありがたい。でも塩が尽きたら保存食も作れない」

俺はその言葉を帳面に書いた。

食料が足りない場所へ食料を届ける。

それだけでは足りない。

食べられる形にするための材料も必要なのだ。

帰路、鉱山町の食堂主が小さな包みを渡してくれた。

中には、黒く固まった岩塩が入っていた。

買い取り所の前で、麦を売った母親が戻ってきた。

「買い戻したいんです。子供が熱を出して、食べるものがない」

買い取り人は首を振った。

「もう商会の荷だ。倍払え」

母親は銅貨を握ったまま立ち尽くした。

俺が代金を出そうとすると、さっきまで列に並んでいた縫い子が母親の手を取った。

「その麦は私たちが運んだ。買い取り所に売るしかなかったのは、仕事がなかったからだよ」

縫い子たちは今日の加工仕事の賃金を持ち寄り、母親のための食事を共同食堂に注文した。

「返してもらうのは麦だけじゃない。売らなくても暮らせる仕事を作るんだ」

買い取り人は袋を抱えたまま、食堂へ向かう人の列を見送るしかなかった。

買い取り人は怒鳴った。

「俺は正当な値で買った! 嫌なら最初から売るな!」

鉱夫の一人が前に出た。

煤のついた手には、昨日の賃金を記した札があった。

「売らなきゃ薬が買えなかったんだ。腹が減った人間に、選ぶ自由があると思うな」

買い取り人が口を開きかけたとき、別の鉱夫が続けた。

「だから俺たちは、今日から加工場の仕事を分ける。病人の家には食堂の鍋を届ける。あんたから麦を買い戻すだけじゃ、来週また同じ列ができる」

縫い子が母親の肩を抱いた。

「明日は私の工房に来て。袋を縫う仕事がある。賃金はその日に払う」

母親は握りしめていた銅貨を見つめたあと、ようやく顔を上げた。

「……働けます。子供が眠っている間なら」

「それで十分だよ」

買い取り所の前の列から、二人、三人と食堂へ向かう人が増えた。

誰かを殴って奪い返すのではない。

次に売らなくて済む道を、彼ら自身が作り始めた。

俺は自分の財布をしまった。

老人が食堂の席を離れるとき、買い取り所の札を裏返して卓に置いた。

もう二度と売らないと誓ったのではない。

明日の薬代を、ほかの誰かと相談できる場所ができたのだ。

「山の奥に塩の採掘場がある。だが今は道が塞がってる」

俺は地図を見た。

次の配達先は、食料のない村ではない。

食料を守るための塩が届かない町だった。

老人は食堂で残りの銅貨を数え、鉱夫に

「道が開けば、薬を買いに行く便に乗せてもらえるか」

と尋ねた。

鉱夫は帰りの荷台に席を空けると約束した。

老人が示した採掘場への道は、落石で塞がれている。

俺は地図に迂回路の候補を書き、鉱夫たちに水場と休憩所を尋ねた。

「塩を運ぶ人が倒れたら、町の鍋はまた空になる」

食堂主は塩が届くまでの献立を考え始めた。

保存食を売る予定だった肉も今日の鍋に回すという。

「来週の売上は減る。でも今日、鉱夫を働かせたまま倒れさせるわけにはいかない」

俺はその決断を帳面に書いた。

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