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役立たずと追放された俺の保存倉庫は、飢えた世界を救う最後の希望だった  作者: レモンティー


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第二十四話 七枚の伝票が暴いた嘘

公開審理が始まると、バルグはまず俺を指さした。

「異国から来た身元不明の男が、善意を装って商売を荒らしているのです」

傍聴席がざわめいた。

俺は立ち上がらなかった。

「発言の順番を守ってください」

と審理官が言う。

バルグは咳払いし、厚い帳簿を開いた。

「農家との契約は有効です。解除の申し立ては一方的であり、麦の所有権は当商会にあります」

審理官が農家の長へ尋ねた。

「代金は支払われましたか」

「いいえ。検査を理由に三日待たされました」

「解除の通知は?」

「三日目の昼に提出しました」

エナが控えを差し出した。

受理番号と時刻が明記されている。

バルグは平然と言った。

「その日の朝には検査を終えていた。通知は無効です」

俺は七枚の伝票を机に並べた。

「検査が終わったなら、こちらを説明してください」

七枚とも別の農家のものだった。

検査済みの印は押されているが、時刻が同じ。

しかも検査人の署名は一人分しかない。

「同じ時間に七か所の倉庫を検査したんですか?」

「部下が代行したのだ」

「代行した人の名前は?」

「記録にない」

「検査結果は?」

「帳簿にある」

「では、なぜ七件とも『湿気過多』という同じ理由で、同じ数字なんですか」

バルグは机を叩いた。

「七枚を同時に処理しただけだ! 検査は別の日に済ませていた!」

「では、こちらの受理記録を見てください」

エナが七枚の裏面を示した。

農家が荷を預けた日付は二日間に分かれている。

後から預けられた麦に、預ける前の日の検査済み印が押されていた。

「この麦は、まだ倉庫に入っていない日に検査されたことになります」

農家の長が立ち上がった。

「俺はその日、畑で刈り取りをしていた。倉庫に運んだのは翌朝だ。荷車を貸した村人もいる」

バルグは一枚を引き寄せ、日付の上を指で隠した。

審理官が静かに告げた。

「手を離してください。証拠は全員が見える場所に置きます」

バルグが指を退けると、傍聴席の農家たちは一斉に息を呑んだ。

七枚の紙が示したのは、数字の誤りではない。

麦を奪うために、まだ存在しない検査が作られていたという事実だった。

審理室が静かになった。

農家の一人が立ち上がる。

「うちの麦は、倉庫に入れる前に水分を測った。測定表もある」

別の農家が声を上げた。

「うちの麦はそもそも屋根のある荷車で運んだ。雨には当たってない」

バルグの弁護人が異議を唱えた。

審理官は手を上げた。

「証拠の確認を優先します。感情的な発言は控えてください」

俺はバルグを追い詰めることより、麦を届けることを優先したかった。

「所有権の争いが続く間も、孤児院には食料が必要です。正当に購入した分だけ、仮の引き渡しを認めてもらえませんか」

審理官は書類を確認し、条件を提示した。

「購入代金を第三者が保管し、荷の数量を記録する。最終判断まで転売は禁止。救援としての使用に限り、引き渡しを認める」

その瞬間、農家の長が立ち上がった。

「私も荷の封を確かめに行きます。自分の麦を、今度こそ自分の手で渡したい」

門前で封印を解くと、一台の車輪が動かなかった。

留置中に軸が割れていたのだ。

俺が倉庫へ全量を入れようとすると、農家の長は首を振った。

「次はお前がいなくても届けられるようにしよう」

傍聴に来ていた粉屋と荷役人が交換軸を運び、三台目だけは修理して夕方に出した。

勝利の知らせより先に、孤児院へ麦袋が届いた。

荷の引き渡しが決まったあとも、農家たちは審理室に残っていた。

商会からの報復を恐れているのだ。

「今日の証言で、来年の麦を買ってもらえなくなる」

若い農家が言った。

俺は彼の不安を否定しなかった。

「うちで全部を買う約束はできません。でも、買い手を増やす手伝いはできます」

「買い手なんて、商会しかいない」

「西の鉱山町、南の製粉所、谷の村。必要な量を調べて、条件が合うところを紹介します」

エナが地図に線を引いた。

どの線もまだ細い。

実際に運べるか確かめていない道もある。

「この線は約束じゃなくて候補よ」

と彼女。

「それでいい。嘘の安心より、確かめられる計画が欲しい」

農家の長は、机に置いた帽子を取り上げた。

「なら、俺たちも買い手を探す。お前らだけに頼るのは違うな」

その言葉を聞いて、俺は嬉しかった。

夕方、子供たちに食事を配ったあと、リーネが帳面を覗き込んだ。

審理室を出たとき、バルグの使者が農家の長へ近づいた。

「証言を撤回すれば、来季の契約を考えてやる」

農家の長は足を止めた。

俺が何か言う前に、彼は静かに答えた。

「契約が欲しいのは本当だ。だが、嘘の記録を認めたら、次は俺の息子が同じ目に遭う」

使者は何も言わず去った。

農家の長の手は震えていた。

勇気を出したからといって、明日の生活が楽になるわけではない。

俺はその震えを見て、買い手を増やす仕事を絶対に途中で投げ出すまいと決めた。

「同じ数字が二回ある」

彼女の指先には、荷の受領欄と配給欄があった。

「こっちは届いた量。こっちは食べた量」

「残りは?」

「差を計算する」

リーネはしばらく考え、余白に数字を書いた。

「じゃあ、なくなった袋があったら分かるね」

「そうだね。でも誰かを疑う前に、数え間違いも確認する」

彼女は頷いた。

「先生にも教えていい?」

「もちろん。俺より上手に教えられるかもしれない」

七枚の伝票のうち一枚だけ受領印が欠けていた。

勝った勢いで見逃せば、俺たちも商会と同じになる。

俺は審理官に、その一枚の扱いを保留してほしいと申し出た。

傍聴席から不満の声が上がったが、サラは静かに頷いた。

村へ使いを出すと、受取人は病気で印を押せなかったと分かった。

代わりに配給を見届けた二人の証言が届いた。


翌日、空欄は理由を添えて記録された。

勝つために数字を曲げなかったことを、俺は子供たちに説明できる。

その夜、孤児院の掲示板には子供たちが描いた麦袋の絵が並んだ。

数字を読めない幼い子も、食事があと何回あるかを知れるように。

俺はその絵を見て、配給が続くことの意味を改めて考えた。

エナが俺を見る。

「代金はもう払っているわ」

「農家に支払った証拠がある。二重払いは必要ないはずです」

審理官は頷き、受領書を確認した。

結果、救援分の引き渡しが許可された。

その瞬間、俺は勝ったとは思わなかった。

ただ、間に合うと分かって膝から力が抜けた。

バルグは椅子を蹴るように立ち上がった。

「覚えていろ。今後、商会から一粒の麦も買えなくなるぞ」

「もともと買わせてもらえませんでした」

ハンスが小声で吹き出した。

審理官は、虚偽の検査記録の疑いについて別途調査すると告げた。

商会がその場で潰れたわけではない。

だが、独占の根拠にしていた書類の信用は傷ついた。

荷車が孤児院へ到着したのは日暮れ前だった。

リーネは麦袋を数え、一つずつ札を貼った。

「これで何日食べられる?」

「食べる量による。サラ先生と一緒に計画を立てよう」

俺は全員に聞こえるよう言った。

「今日は食べられる。でも、来週も届くようにするには、まだ仕事がある」

サラが頷いた。

「子供たちには、食べ物が突然消える不安を何度も味わわせたくありません」


その夜、孤児院の食卓には豆と麦の粥が並んだ。

三歳の男の子が、匙を握ったまま眠りそうになっている。

「食べ終わってから寝ような」

リーネが笑って支えた。

俺は食堂の隅で、七枚の伝票を見返した。

もし一人の農家しか声を上げなかったら、商会の言い分は通っていたかもしれない。

明日からは、買い付けの伝票を農家と運び手と受け取り先で共有しよう。

ただし、子供たちの名前まで公表する必要はない。

審理の勝利で救援が止まらなくなっても、証言をした家族に商会の報復が向かえば別の負け方になる。

俺は農家の代表に、証言者の名前を伏せたまま配送履歴を照合できるか相談した。

農家は

「誰に売ったかは隠せても、どの村へ届いたかは確認したい」

と言った。

二人で欄を分け、公開する情報と守る情報を決めた。

「タクトさん」

サラが声をかけた。

「あなたは、子供たちを助けてくださった。でも、一つお願いがあります」

「何でしょう」

「子供たちを、商会との争いの道具にしないでください」

俺ははっとした。

審理で孤児院の苦境を話した。

必要な説明だったが、子供たちの名前や傷をさらすことになっていないか。

「分かりました。これからは、院長の同意なしに個人の事情を公表しません」

サラはようやく微笑んだ。

審理の帰り道、麦を出した農家の長が荷車の前で立ち止まった。

「無効とされた契約が戻っても、今夜の麦はまだ門の中だ」

役人は立会人を二人付け、封印を解いた袋を一つずつ確かめた。

バルグの使者は最後まで

「後日異議を申し立てる」

と叫んだ。

だが農家の長は自分の手で荷台に麦を積み、孤児院の院長に引渡書ではなく現物を見せた。

「紙は後でいい。まずこの袋を台所へ運ぼう」

院長が頷くと、待っていた御者が車輪を動かした。

嘘が暴かれた瞬間ではなく、止まっていた荷が動いた瞬間、ようやく勝利が形になった。


翌朝、エナが新しい帳面を持ってきた。

「仕入れはできるようになった。でも運ぶ人が足りない。孤児院だけじゃなく、北の集落も助けを求めてる」

地図には、赤い印が五つ増えていた。

昨夜、麦の粥を食べたリーネが荷車の脇へ来て、小さな手で空袋を畳んだ。

「次は、あの赤い印の子たちの分?」

「ああ。今度は、待たせないようにしたい」

リーネは畳んだ袋を荷台へ置いた。

昨日まで空だった荷車に、次の村へ向かう麦が積まれ始めた。

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