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役立たずと追放された俺の保存倉庫は、飢えた世界を救う最後の希望だった  作者: レモンティー


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第二十三話 盗品と呼ばれた救援物資

「この麦は盗品です」

北門商会の使者は、役所の机に一枚の証書を叩きつけた。

そこには、俺たちが購入した麦の所有権は商会にあると書かれていた。

荷車三台分の麦は門の内側に留め置かれ、農家の長まで呼び出されている。

「契約を解除したはずだ」

と農家。

「解除は認めない。違約条項に反している」

使者は余裕たっぷりに笑った。

俺は二枚の書類を並べた。

農家が持っていた契約書と、商会が提出した証書。

よく似ているが、印の位置が違う。

「役人さん、原本を確認してもらえますか」

「原本は商会が保管している」

と使者。

「こちらには、農家と商会双方の署名がある控えがあります」

エナが差し出した紙には、二日前に役所が受理した解除通知の番号が記されていた。

役人は黙って読み、使者へ顔を向けた。

「解除通知の受理時刻より後に、所有権を主張する証書が作られている。説明を」

「事務処理の遅れだ」

「ならば、遅れを示す帳簿を提出してほしい」

使者は口を閉じた。

勝てる。

そう思った瞬間、役所の扉が開いた。

入ってきたのは北門商会の支配人、バルグだった。

肥えた体に上等な外套をまとい、背後に弁護人を連れている。

「争いは後にしましょう。救援が急ぎなら、麦をお貸ししますよ」

バルグは俺の前に書類を置いた。

「利息は週に二割。担保は谷の食糧便の認定証と、今後の寄付金の受領権です」

ハンスが椅子を鳴らして立った。

「ふざけるな!」

「飢えた子供が待っているのでしょう? 選ぶのはあなた方だ」

バルグは、俺たちが急いでいることを武器にした。

俺は書類を押し返した。

「借りません。麦は正当に購入したものです」

「ならば、検査が終わるまで動かせませんな」

役人は苦い顔をした。

争いがある以上、即時の引き渡しは難しいという。

俺は孤児院の三十七人を思い浮かべた。

明日までは持つ。

だが、明後日は?

「エナ、残りの食料を確認して」

「豆が六十キロ、干し野菜が二十五。配給を調整すれば二日半」

「それで時間を作ろう」

そのとき孤児院から走ってきたサラが言った。

「明日の朝の分を減らすなら、私から子供たちに説明します。でも寝込んだ子の分は減らせません」

俺は帳面を閉じた。

「減らしません。健康な大人の作業食を別の献立にして、足りない分は山羊道から干し芋を運びます」

ハンスが即座に出発を申し出た。

商会が止めた三台の麦を奪い返すのではない。

今夜、別の道を実際に通す。

バルグが笑った。

「見苦しい時間稼ぎだ」

「時間を稼ぐのは俺たちの仕事です」

役所を出ると、農家の長がうなだれていた。

夜中、俺は孤児院の倉庫で残量を数え直した。

豆袋を一つ動かすと、底から小さな紙が落ちた。

『明日の昼、南の門で渡す』

誰が書いたのか分からない。

裏には子供の拙い字で『せんせいへ』とある。

「これは?」

とリーネに聞くと、彼女は顔を赤くした。

「町へ行った先生に、薬を買ってきてってお願いした手紙。渡せなかったの」

俺は紙を返した。

大人がいない間、子供たちは食べ物だけでなく薬の心配までしていたのだ。

「手紙を出す方法も決めておこう。救援の連絡と一緒に届けられる」

リーネは目を丸くした。

「食べ物じゃなくても運んでくれる?」

麦の選別を止めれば、翌日の出荷が遅れる。

俺は証人を集める時間を分け、必要な証言だけを短く聞き取ることにした。

エナは一人ずつ記録を読み返し、間違いがないか確認した。

「俺はこんなこと言ってないぞ」

と指摘された部分はすぐに直す。

正しい目的のためなら多少の誇張は許される、などと思いたくなかった。

農家の長は最後に言った。

「俺たちが欲しいのは、商会を困らせることじゃない。来年も麦を作れることだ」

その言葉を、俺は審理の最初に伝えるつもりだった。

「俺の倉庫には入らないけど、配達人は手紙を運べる」

審理を待つ間、農家の長は

「俺が署名したせいで子供が飢える」

と何度も呟いた。

俺は否定しなかった。

署名の重さは本人が一番知っている。

代わりに、解除通知を届けた日時と受理番号を、彼の口からもう一度確かめた。

役所の控えと一致したとき、彼は初めて顔を上げた。

「俺の字でも、証拠になるのか」

エナが頷く。

書類を読む力のない人が、書類のせいで食料を奪われる。

その不公平を破るのは、俺の能力ではなく、本人が残した一枚の控えだった。


翌朝、ハンスは伝令の往復時間を測った。

町まで二時間半、返事を待って戻ると六時間以上。

急ぎの知らせには遅すぎる。

「途中の粉屋に伝言を預けられないか」

とハンス。

「本人の同意があれば」

とエナ。

粉屋は協力を申し出た。

ただし、医療の相談など他人に知られたくない手紙は封をする。

伝言を預けた時刻も記す。

小さな連絡網ができると、孤児院の子供たちは自分で書いた短い手紙を持ってきた。

内容は『麦が届いた』『みんな無事』というものばかりだった。

サラが戻ったとき、彼女はその束を胸に抱いた。

「食べ物の次に必要なのは、誰かが戻ってくると信じられることですね」

俺たちの仕事は袋を置いて終わるものではない。

「俺が契約を読み違えたせいで……」

「違います。解除通知は正式に受理されています。問題は相手が引き渡しを妨害していることです」

俺は役所の掲示板を見た。

市民が商取引の紛争を申し立てるための公開審理が、三日後に予定されている。

三日。

孤児院の食料は二日半。

「間に合わない」

エナが呟いた。

俺は荷を運んだ者の名を先に聞いた。

数字の裏に、まだ話していない人がいる。

「審理を待つ必要はある。でも食料は別の道で届ける」

その日のうちに、ラトナとベルクへ伝令を送った。

使える豆や麦を一時的に借り、次の収穫で補填する。

村の備蓄を空にしない量だけを頼んだ。

マルタから返事が来た。

『子供のために豆を二十キロ出す。

ただしラトナの冬用備蓄には触れない』

セヴは山羊道から干し芋を運んでくれるという。

一つ一つは少ない。

それでも合わせれば、孤児院の食事を数日延ばせる。

夕方、リーネは俺の顔を見てすぐに言った。

「買えなかったんだね」

「買った。でも、運べなくなった」

「大人の喧嘩?」

「そうだ」

彼女は唇を噛んだ。

「子供は関係ないのに」

俺は答えられなかった。

だからこそ、次の食事を止めるわけにはいかない。

夜、子供たちが眠ったあと、リーネが炊事場に来た。

「先生が帰ってきた」

孤児院の院長、老女サラは、町で薬を探していたという。

火傷した職員を治療所に預け、薬代を工面して戻ったのだ。

サラは事情を聞き、静かに言った。

「救援のために、ほかの村の食べ物を奪わないでください」

「奪いません。余剰と緊急枠だけを、合意して借ります」

「それなら私も署名します。返す責任を一緒に負いましょう」

空袋を渡した母親は、口を結ぶ紐まで丁寧に巻いていた。

「次に来る人が使うなら、汚れたまま渡せない」

俺は袋を荷台に置き、盗品扱いされた荷の番号と分けて記録した。

救援物資を取り戻した証拠は役所に残る。

届いた証拠は、この袋を使う次の人が残してくれる。


翌朝、俺は公開審理の申立書に孤児院の証言を添えた。

商会の証書の作成日、解除通知の受理番号、麦の代金を払った記録。

さらに農家が一人、商会から受けた買い取り延期の通知を持ってきた。

「うちも同じ目に遭った。証言する」

次に別の農家が現れた。

「うちもだ」

二人、三人と増えていく。

彼らは英雄ではない。

ただ、売った麦の代金が払われなければ、来年の種を買えない人々だった。

審理前夜、山羊道から届いた干し芋を孤児院へ運んだ。

サラは鍋を見て言った。

「審理に勝つより先に、子供たちの朝を守れましたね」

だがラトナの豆は借りたままだ。

俺は返済期限を帳面に記し、次の仕入れで孤児院だけを優先しすぎないようエナと相談した。

孤児院の台所では、豆を煮る火が弱くなっていた。

サラが薪を一束ずつ数え、

「今日の昼は温められる。でも夜はどうする」

と尋ねた。

俺は審理用の書類をエナへ預け、薪を届ける農家の御者に同行した。

門番は荷の中身を確かめたが、食料ではないと分かると通した。

薪を運び入れたとき、子供たちが鍋を囲んだ。

麦の所有権を争う間にも、火を絶やさない仕事がある。

俺たちは商会を出し抜いて勝ったのではない。

争いを明日へ持ち越しても、今日の夕食を諦めなかったのだ。


三日後の朝、審理室は満席になった。

バルグは余裕の笑みを浮かべていたが、机に積まれた解除通知の束を見ると表情を変えた。

俺は胸の中で確認した。

この争いは、孤児院の食料だけの話ではない。

審理室の外では、孤児院の子供たちが配達時刻を書いた札を握って待っていた。

サラは、判決が遅れても今夜の鍋を空にしないよう、先に借りた豆の返済日を農家へ伝えた。

審理で農家が解除通知の受理日を示した。

商会の証書はその後の日付だった。

「慣例だ」

と叫ぶバルグに、役人は

「所有権の証明にはならない」

と答えた。

留め置きの解除はその場で命じられた。

検査官は解除の時刻を門番に読み上げさせ、荷車が門を出るまで立ち会った。

一方、偽造の疑いは別の調査に残る。

今夜の食事を守る判断と、罪を裁く判断を混同しなかった。

農家は拍手をせず、最初の荷車に自分で封をした。

「これで明日の種を買える」

孤児院へ向かう麦の後ろ姿を見ながら、俺は勝利よりも、その一言を忘れまいと思った。

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