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役立たずと追放された俺の保存倉庫は、飢えた世界を救う最後の希望だった  作者: レモンティー


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第二十話 最初の配達は、俺のところへ

ベルクから届いたのは、小さなパンが二十個だった。

形は不揃いで、少し焦げている。

大麦の香りがした。

「これ、フィアたちが焼いたんだって」

トトが嬉しそうに言った。

袋には紙が結ばれていた。

『ラトナのみなさんへ。

ありがとう。

こんどはわたしたちがとどけます』

俺はしばらく、その文字を見つめていた。

最初にベルクへ向かったとき、俺たちは食料を届けることしか考えていなかった。

だが今、谷の子供たちは、自分たちの手で何かを作り、誰かへ届けようとしている。

「みんなで食べよう」

俺は広場へパンを運んだ。

村長が一つを割り、ミリとトトに半分ずつ渡した。

ハンスは焦げたところをかじって笑った。

「うまいな」

「焦げてるぞ」

「そこがいいんだ」

笑い声が広がった。

しかし、その日の午後、ラトナの村長が深刻な顔で俺を呼んだ。

「北の街道に、商会の新しい検問所ができた」

「またですか」

「今度は領主の正式な命令だ。穀物の大量輸送には登録が必要になる」

俺は命令書を読んだ。

一定量以上の穀物を運ぶ者は、事前に荷主と行き先を届け出ること。

目的は密輸と価格操作の防止。

文面だけなら不合理ではない。

だが、登録窓口は商会が管理する倉庫の隣に置かれていた。

「登録を拒否されるかもしれない」

エナが言った。

「それでも、まず正規の手続きを試します」

俺は申請書を書き、購入伝票と配給記録を添えた。


翌朝、窓口の役人は書類を見て目を丸くした。

「全部、記録してあるのか」

「どこで買い、誰に渡したかを残しています」

「普通の商人でも、ここまで細かくは書かんぞ」

「食料が足りなくなったとき、誰かを疑わずに済むようにです」

役人は書類を預かった。

役人が告げた七日という数字を、俺は申請書の余白に書き込んだ。

窓口の外では、ベルクへ帰るセヴが四日分の配給札を握っていた。

「三日目に子供の分を減らせば、七日待てるか」

と彼が尋ねる。

俺は答えられなかった。

役人に怒鳴る代わりに、緊急救援の規定を調べる許可を求めた。

役人は渋々、古い命令書を机に置く。

「規則の例外は、規則の中にしかないぞ」

その言葉を聞いて、俺は頁をめくる手を速めた。

「審査には七日かかる」

「ベルクの食料は四日しか持ちません」

「規則は規則だ」

俺は言葉を飲み込み、最初の配達は、俺のところへの行方を考えた。

合法的に運ぼうとしているのに、手続きの間に人が飢える。

窓口の外で、商会の使者が待っていた。

「困った顔だな。商会の倉庫から買えば、登録済みの荷としてすぐに運べるぞ」

「値段は?」

「通常の四倍だ」

使者は笑った。

「人命には代えられんだろう?」

俺は拳を握りしめた。

だが、ここで殴ればすべてが終わる。

「返事は後でします」

俺は役所へ戻り、緊急輸送の例外規定を調べた。

命令書には、小さな但し書きがあった。

『災害時の救援物資については、領主の認定を受けた団体に限り、即日許可を与える』

団体。

俺一人ではない。

ラトナとベルクには、配達人と配給係と生産者がいる。

「だったら、団体を作ろう」

俺は村へ戻った。

出発前、ハンスは予備の車輪を地面に転がした。

俺は次の便の重さを一度減らした。

積めるだけ積むことより、同じ道をもう一度通れることが大事だ。

セヴは谷の曲がり角を地図に書き足した。

広場に二つの村の代表が集まった。

セヴ、マルタ、エナ、ガラン、ハンス、ヨルン。

橋の向こうで荷車を待っていた母親は、約束の時間を過ぎても帰らなかった。

俺は遅延の理由を伝える使いを走らせた。

使いは食料を持っていない。

それでも母親は知らせを受けると、近所の家から鍋を借りて火を起こした。

「来ないのかと思って、子供に嘘をつくところだった」

と彼女は言った。

運ぶ物だけでなく、待つ人へ正しい時刻を届けることも必要だった。

フィアとミリも端に座っている。

「俺たちの仕事に名前をつけませんか」

「名前?」

ハンスが聞いた。

「食料を買い、運び、必要な人へ届ける組織です。収支を公開して、誰か一人の判断だけで動かないようにする」

マルタが頷いた。

「谷の村も加わろう」

ガランが手を挙げた。

「俺は木工品を作る。売上の一部を輸送費に回す」

セヴが続く。

「山羊道の運び手は任せてくれ」

エナは新しい帳面を開いた。

「じゃあ、役割と責任を書きましょう」

俺たちは夜遅くまで話し合った。

誰が食料を購入し、誰が配給し、誰が帳簿を確認するのか。

余剰が出たときは備蓄へ回すこと。

緊急時には二つの村の代表が決めること。


翌朝、俺たちは役所に申請した。

団体名は『谷の食糧便』

役人は書類を確認し、領主への緊急審査に回した。

即日許可が出る保証はなかったが、配給記録と医師の報告書が状況を裏付けていた。

夕方、ようやく許可証が届いた。

「通った……」

俺は紙を握りしめた。

エナが笑った。

「あなた一人の能力じゃ、通らなかったね」

「そうですね」

許可証には、二つの村の代表者の名が並んでいた。

俺を訪ねてきた男は、帽子の縁を握りつぶしていた。

「助けてくれと言うのが遅すぎた」

俺は謝罪を受け取るより先に、村に残る食料と歩ける人の数を聞いた。

遅れを責めても食料は増えない。

最初の便を出す時刻だけは、今ここで決められる。


その晩、俺たちは次の食料を積み込んだ。

保存倉庫に収まる分だけではない。

荷車にも袋を載せ、運び手が交代で引く。

出発の朝、フィアが駆け寄ってきた。

「タクトお兄ちゃん!」

「どうした?」

彼女は小さな包みを差し出した。

「これ、配達する人たちの朝ごはん。私たちで焼いたの」

中には、焦げ目のついた大麦パンが入っていた。

焦げたパンの裏には、薄い文字で俺の名が書かれていた。

「これ、誰が書いた?」

「フィアが。タクトお兄ちゃんはいつも配る側だから、今日は受け取る番だって」

包みを持つ手が止まった。

初めて食料を運んだ日のことを思い出す。

あのときは、自分が運ばなければ誰も食べられないと思っていた。

「ちゃんと食べてね。配達する人が倒れたら、次の村に届かないから」

フィアはそう言って、俺の返事を待った。

俺はパンを一口かじった。

少し固く、端は苦い。

それでも、今まで口にしたどんなご馳走より温かかった。

「うん。ちゃんと食べる」

フィアが笑った。

助けた子供に食事を心配される日が来るとは思わなかった。

受け取ることも、次の配達を続けるための仕事なのだ。

俺は受け取って、笑った。

「ありがとう。助かるよ」

フィアは胸を張った。

「次はもっと上手に焼くから」

荷車が動き出す。

道の両側で、村人たちが手を振った。

俺は王宮で笑われた日を思い出した。

食料しか運べない役立たず。

その言葉は、もう怖くなかった。

俺が運べるのは五百キロまでだ。

でも、俺たちが運べる量は、五百キロでは終わらない。

丘を越えたところで、北の方角に黒い煙が見えた。

ヨルンが足を止める。

「あれは……北の集落の方だ」

「火事か?」

「分からん。だが、あそこには孤児院がある」

俺は荷車を止め、地図を開いた。

次の配達先は、まだ決まっていないと思っていた。

団体の名前を決めるとき、ハンスは『タクト救援隊』を提案した。

俺は即座に却下した。

「俺がいなくなったら、名前ごとなくなるじゃないですか」

ヨルンは『二つの村の商隊』と言ったが、マルタが首を振った。

「次は三つ目の村も助けるのだろう」

そこでミリが、配達札の裏に『谷の食糧便』と書いた。

誰の名前も入っていない。

どの村にも開かれている。

俺たちはその文字を見て、自然に頷いた。

大げさな旗も立派な紋章もない。

ただ、誰が何を運ぶのかを書いた帳面がある。

それが今の俺たちには、いちばん似合っていた。

だが、食料を待っている場所は、俺たちが考えていたよりずっと多い。


翌朝、ベルクの子供たちから二通目の手紙が届いた。

焦げたパンを謝る字の下に、

「こんどはおなかがすいている子にあげて」

とあった。

俺はパンを一つだけ残し、残りを孤児院への荷に載せた。

孤児院へ送る袋の口を縛ると、ベルクの子供たちは手紙の裏に、受け取る子への短い挨拶を書き足した。

「まず、何が起きたか確かめよう」

俺は相手の目を見て言った。

俺のために残された一椀は、他の鍋と同じ薄い粥だった。

誰かが自分の取り分を減らしたのではないかと尋ねると、配達人たちは人数を数え直して見せた。

配達人たちが帰ると、俺の前にも温かい一椀が置かれた。

俺が遠慮すると、当番の青年は笑った。

「届ける人も、食べてください」

俺は椀を受け取った。

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