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役立たずと追放された俺の保存倉庫は、飢えた世界を救う最後の希望だった  作者: レモンティー


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第十九話 商会が仕掛けた空の倉庫

北の市場への二度目の納品は、予定より早く終わった。

ガランの木の匙は評判がよく、食堂主は追加注文を出してくれた。

「これで次の食料が買える」

ヨルンが笑った。

だが、穀物市場に着くと、店の扉には同じ張り紙が並んでいた。

『在庫なし』

「また商会か」

ハンスが唸った。

俺は問屋を回り、入荷予定を尋ねた。

どの店も口を閉ざす。

やっと話してくれた老店主は、倉庫の裏へ俺を呼んだ。

「商会が買い付けたんだ。北の市場の麦まで」

「全部ですか」

「ほとんどな。あんたが来ると分かっていたらしい」

俺は背筋が冷たくなった。

ラトナとベルクの備蓄は、あと四日。

次の納品代金があっても、買う食料がなければ意味がない。

「どうする」

ヨルンが尋ねた。

俺は市場の地図を広げた。

麦の産地、輸送路、収穫時期。

商会が押さえているのは大きな問屋だった。

「農家から直接買えるかもしれません」

「そんな簡単にいくか」

「簡単じゃない。でも、商会が全部の畑を持っているわけじゃない」

俺たちは北の丘にある農村を訪ねた。

そこで聞いたのは、予想外の話だった。

「麦ならある。でも売れないんだ」

農家の長は倉庫を見せてくれた。

袋が山積みになっている。

「商会が買い取りを止めた。運ぶ馬車も手配できん。湿気で傷む前にどうにかしたいが、値を下げても誰も来ない」

俺は倉庫の麦を調べた。

濡れた袋は避け、乾燥状態を確認する。

すべてが食用に適しているわけではない。

「使える分を買います。量は五百キロまで」

農家の長が驚いた。

「馬車は?」

「いりません。ただ、ここで袋を量らせてください」

俺は倉庫に麦を収納した。

目の前から袋が消えるたび、農家たちは声を上げた。

「そんな魔法があるのか」

「食料しか入らないんですけどね」

「それで十分だ!」

夜番の交代で、俺は帳面をトトに渡した。

「知らない数字は空欄でいい。見たふりをしないでくれ」

トトは小さく頷き、壊れた荷札を一枚だけ机に置いた。

その一枚が、翌朝の積み違いを防いだ。

倉庫の封印を破った者を追う前に、搬出記録と証言の時刻を照合した。

トトは空の倉庫に貼られた封印を写し取った。

俺は現物の在庫と帳簿の数が違う理由を、明日の立会検査で確かめることにした。

双方が納得できる価格を帳面に残した。

「次も買ってくれるか」

農家の長が尋ねた。

「必要な量と日程を相談して、継続できるなら」

「だったら来年の作付けも考えられる」

だが帰り道、商会の馬車が道を塞いだ。

黒い外套の男が降りてくる。

ラトナに通行料を要求した使者だった。

「ずいぶん遠くまで買い物に来たな」

「通してください」

「当商会の商圏を荒らしている。買った麦を置いていけば見逃してやる」

ハンスが前に出た。

俺は腕を伸ばして止めた。

「麦は正当な代金を払って買いました。領主の許可が必要な取引なら、根拠を示してください」

「口の減らない男だ」

使者が手を上げると、護衛たちが近づいた。

そのとき、後ろから声がした。

巡回兵の背後には、麦を売ってくれた農家の長がいた。

彼は護衛の剣を見ても引かなかった。

「荷は俺が売った。代金も受け取った。文句があるなら俺の畑へ来い」

使者は

「来年は買い手がなくなるぞ」

と脅した。

農家の長は顔を青くしたが、俺に目を向けた。

「来年も買うと約束はできるか」

俺は首を振った。

「収穫量も、村の必要量もまだ分かりません。でも契約を破るときは理由を伝えます」

農家の長は苦笑した。

「大きな約束より、その方が信用できる」

巡回兵が通行を命じると、彼は自分の荷車を道の端へ寄せた。

「ここは公道だ。何をしている」

北の市場の巡回兵だった。

農家の長が、俺たちの帰りを心配して呼んでくれたのだ。

使者は舌打ちし、馬車を退かせた。

「次はそうはいかんぞ」

俺は返事をしなかった。

街へ戻り、購入伝票と通行妨害の経緯を役所に届けた。

小さな記録でも積み重ねなければ、次は本当に食料を奪われる。

ラトナに戻ると、エナが在庫を確認した。

「五百キロ近い麦……これならしばらく持つ」

「でも、次の仕入れも必要です」

俺は北の農家との契約案を広げた。

「商会の倉庫が空でも、畑には食料がある。これからは、畑と食卓を直接つなぎます」

エナは静かに笑った。

「あなたの倉庫は小さいのに、運べる道は増えていくのね」

農家の長は、買い付けの最後に俺を畑へ連れていった。

収穫を終えた土には、まだ短い麦の茎が残っている。

「来年は何を植えたらいい」

と彼は尋ねた。

俺は答えを急がなかった。

土地も気候も知らない俺が、偉そうに作物を指定できるはずがない。

「まず、今年どれだけ採れて、どれだけ売れ残ったか教えてください」

農家の長は驚いた顔をし、それから笑った。

「買うだけじゃなく、聞くのか」

俺は頷いた。

次の飢饉を減らすには、今ある麦を運ぶだけでなく、来年も作ってもらえる値段と道が必要だった。


その夜、ベルクから使いが来た。

谷の子供たちが、初めて自分たちで焼いた大麦パンを、ラトナへ届けたいと言っているという。

俺は疲れた体を起こした。

「じゃあ、今度は受け取る側ですね」

北の丘の農家が、買い取りの契約書を前に首を振った。

「商会は前にも、最初だけ高く買った。翌年は種代も残らなかった」

俺は銀貨を机に置く手を止めた。

「一度きりの買い取りでいいです。来年の畑まで縛るつもりはありません」

老人は袋を開き、麦をひと握り渡した。

「なら食べてみろ。買い手が見つからないからって、悪い麦を混ぜてはいない」

ハンスが粒を割り、湿ったものを選り分けた。

全部を買えば四日の備蓄は満たせる。

だが傷んだ分まで運べば病人が出る。

「使える分だけ買います。傷んだ袋は一緒に仕分けしましょう」

老人は苦笑した。

「買い占める商会より、買わないと言うお前の方が信用できるとはな」

帰り道、村の子供が麦袋に小さな印を付けた。

「これ、うちの畑のだよ。ちゃんと食べてもらえる?」

俺は頷いた。

商会の空の倉庫を暴くより先に、誰が育てた麦を誰が食べるかを、つなぎ直さなければならなかった。

倉庫の車輪跡を見たハンスは、犯人の名前を口にしかけて飲み込んだ。

「決めつけたら、また誰かが村を出ていく」

俺たちは鍵を持つ者を集め、責める前に出入りの時刻を一緒に並べた。

すると夜番の老人が、普段は使わない裏口の軋む音を聞いたと打ち明けた。

責められるのが怖くて黙っていたのだ。

俺はその時刻を帳面に記し、老人の名前ではなく、音がした場所に印をつけた。

調べるべきは人の評判ではなく、麦が通った道だった。

老店主が見せてくれた納品記録には、買い付けた商会の印があった。

俺は写しを取ったが、すぐに市場で告発することはしなかった。

今ここで取引が止まれば、困るのは村の食卓だ。

ハンスは残りの麦袋を数え、ヨルンは別の農家へ向かう道を地図に書いた。

「相手を負かす前に、明日の便を動かす」

そう言って俺たちは、手持ちの金と運べる重さをもう一度突き合わせた。


翌日の仕入れで、俺たちは農家から小麦だけでなく、大麦と乾燥豆の見本も受け取った。

ハンスはそれぞれを掌に載せ、輸送中にこぼれない袋の口を確かめた。

売り手の老人は

「高く買ってくれるのはありがたいが、来年も同じ値段とは限らん」

と釘を刺した。

俺は頷き、今決められるのは今回の数量と支払日だけだと帳面に書いた。

商会の買い占めに腹を立てたからといって、別の農家へ無理な約束を押し付けるわけにはいかない。

ヨルンは帰り道で荷車の軋みを聞き、次の便までに車軸を直すと言った。

食料を買えた喜びのあとにも、届けるまでの仕事は残っていた。

商会の外に作った道の最初の分岐で、御者は荷を下ろした。

村ごとに袋を数え、受領書には受け取る側が自分の手で印を付けた。

「空の倉庫を見せられたから、もう数を信じないわけじゃない」

と農家が言った。

「一緒に数えるんだ」

俺はその言葉を配達表の上に書いた。

夕暮れ、ラトナから使いが駆け込んだ。

病人の家が増え、備蓄が見込みより一日早く尽きるという。

「明朝の便では遅い」

とヨルンが言った。

農家の老人は自分の荷車を指した。

「夜道は危ない。だが、俺の息子はこの道を知っている。灯りを二つ持たせよう」

「危険な便なら、賃金も増やさなければ」

と俺が言うと、老人は頷いた。

俺は次の仕入れに使う予定だった銀貨を夜間手当へ回した。

明日の買い付け量は減る。

それでも、御者の命を安く扱ってまで食料を届けたくなかった。

俺は保存倉庫の空きを確かめ、すぐに届けられる分だけ積んだ。

残りは明朝、老人の家族が出す便に任せる。

空の倉庫を見た御者は、商会の看板をもう一度見上げた。

倉庫の鍵を渡した男は

「中身が空だと知っていたが、仕事を失うのが怖かった」

と打ち明けた。

「この鍵を守っていた間、村では何人が夕食を抜いたんだろう」

番人は初めて倉庫の外へ出て、帰りの荷車に道を教えた。

彼はまだ商会の雇い人だった。

明日には仕事を失うかもしれない。

それでも今夜だけは、誰に荷を渡すか自分で決めた。

老人の息子は夜道用の灯りを荷台の両側に結んだ。

商会の番人が立ち尽くす前を、農家の契約で買い付けた袋が通っていく。

番人は追わず、坂の先に崩れた路肩があることを息子へ知らせた。

出発する荷車を見送ると、農家の老人が言った。

「次も買いに来い。だが今度は、うちの畑の都合も聞いてくれよ。今夜運ぶ息子の帰りも待っているんだ」

「もちろんです」

荷車の灯りが丘を下る。

遠くの村で今夜待っている人のために、俺たちは初めて商会の外に道を作った。

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