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役立たずと追放された俺の保存倉庫は、飢えた世界を救う最後の希望だった  作者: レモンティー


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第十三話 買い占められた谷の小麦

ラトナに戻ると、ヨルンが待っていた。

「街の小麦が消えた」

「売り切れですか?」

「違う。倉庫にはあるのに、誰にも売らない」

俺はすぐに帳面を開いた。

ベルクへ次の便を出すまで残り一日。

ラトナの共同倉庫から持ち出せる量は限られている。

街の穀物問屋を回ると、同じ答えが返ってきた。

「販売は停止中だ」

「いつ再開しますか」

「上から指示が来るまで」

三軒目の店で、俺は見覚えのある印章を見つけた。

ラトナの香草畑を奪おうとした商会のものだ。

「またあいつらか」

ハンスが拳を握った。

「今ここで怒鳴っても、袋は一つも増えません」

俺は商会の倉庫を遠くから見た。

荷馬車が出入りし、穀物袋が積まれている。

食料そのものがなくなったわけではない。

夕方、問屋の若い店員が路地で声をかけてきた。

「あなたが谷へ食料を運んでいる人ですか」

「そうです」

「気をつけてください。商会はあなたが買いに来るのを待っています」

「なぜ?」

「値段を吊り上げるためです。谷の人が飢えていると知れば、あなたは高くても買うと思っている」

店員は名をリオといった。

彼は伝票の控えを見せた。

今朝までの価格は一袋銀貨二枚。

明日からは銀貨六枚。

「こんな値段では買えない」

「だから、別の道を探してください」

俺は市場の端にある製粉所を訪ねた。

粉屋の主人は疲れた顔で臼を掃除していた。

「麦を売ってくれませんか」

「麦は商会に押さえられた。俺も困ってる」

「大麦や雑穀は?」

主人は顔を上げた。

「大麦なら農家に残っているかもしれん。ただし粒のままだ。粉にするには時間がかかる」

「ここで挽けますか」

「臼は空いてる。原料さえあればな」

俺はハンスと周辺の農村へ向かった。

大麦はパン用の小麦ほど人気がなく、収穫の一部が飼料として残されていた。

農家の女性は警戒していた。

「商会と契約してるんじゃないのかい」

「違います。食べる人の名前が分かる取引です」

俺はベルクの配給記録を見せた。

女性は黙って読み、納屋へ案内した。

「全部は売れない。うちの家畜も冬を越さなきゃならないからね」

「必要な分だけでいいです。あなたの家が困る取引にはしたくありません」

大麦三十キロと乾燥した根菜を買えた。

値段は相場より少し高くした。

買い叩いて翌年の作付けを減らされたら、結局困るのは皆だ。

粉屋は夜まで臼を回してくれた。

「こんな仕事、久しぶりだよ」

「代金は必ず払います」

「分かってる。それより谷の子供に温かいものを食わせてやれ」

しかし、夜更けに問題が起きた。

街の門番が俺たちを止めたのだ。

「穀物の持ち出しには商会の許可証が必要だ」

「いつからですか」

「今日からだ」

俺は言い返すのをこらえた。

許可証の根拠を尋ねると、門番は曖昧に目を逸らした。

「規則なら書面を見せてください。正式な規則なら従います」

門番は答えられなかった。

代わりに隊長を呼んだ。

隊長は伝票を確かめ、眉をひそめた。

「これは個人の取引だ。商会の許可など要らん」

「しかし――」

「俺の名前で通せ」

門が開いた。

俺は礼を言ったが、安心はできなかった。

今夜は通れても、次は正式な規則を作ってくるかもしれない。

ラトナへ戻る途中、トトが尋ねた。

「商会は、どうして食べ物を隠すの?」

「高く売りたいからだ」

「でも、食べられない人がいるよ」

「だからこそ、俺たちは別の売り手と道を作らないといけない」

次の便の袋には、小麦ではなく大麦と根菜が入った。

次の便を準備する翌朝、門の外に小麦の値札が貼り出された。

昨日までの三倍だ。

ハンスは拳を握ったが、リオは首を横に振った。

「店員の僕が反対すれば、家族まで仕事を失う」

「反対しろとは言わない。値段が変わった日付だけ、覚えておいてくれ」

俺は商会の印章を見た。

市場の誰もが、誰か一人が立ち向かうのを待っている。

けれど、リオだけにその役目を押しつけるつもりはなかった。

粉屋の主人と農家を集め、大麦の仕入れ値、製粉にかかる時間、輸送費を一枚の板に書いた。

板に書いた値段を見て、農家の女性が顔をしかめた。

「製粉代を引いたら、うちの取り分は商会と変わらない」

粉屋は臼の修理費を隠さず見せた。

俺は運搬を一便にまとめる案を出したが、女性は

「その日は家畜の世話がある」

と断った。

結局、出荷日を二日に分け、急ぎの分だけ俺が保存倉庫で運ぶことにした。

誰かに無理を押しつければ、商会を避けても同じことになる。


翌朝、女性は自分で量った袋を持ってきた。

「この条件なら来月も売れる」

粉屋は黙って臼を回し始めた。

「これなら、買う人も売る人も計算できる」

農家の女性が頷いた。

「条件が先に分かるなら、私も来年は大麦を増やせる」

だが主人は言った。

「うちの水車を止めると脅されている」

裏庭に眠っていた手回し臼を持ち出すと、軸が割れていた。

村の若者が木を削り、老人が石の合わせ方を教えた。

最初の一握りの粉が落ちるまで、俺たちは誰も喋らなかった。

「これで商会に勝ったのか?」

ハンスが聞いた。

「まだだ。三台あっても、谷の全員の腹は満たせない」

俺は粉屋に、臼の修理法を教えられる人を増やしてほしいと頼んだ。

一台を守るのではなく、止められない仕組みを作る。

リオは値札を写した紙を粉屋へ渡した。

「僕の名前は書かないでください。でも、値上げの証拠は残してください」

「約束する」


その日の夜、谷へ向かう袋を量ると、必要量にはまだ届かなかった。

俺は残りの人数を帳面に記した。

成功した数より、届かない人の数を隠さない。

「次の便はどうする?」

ハンスが尋ねた。

「大麦を買う農家を増やす。価格はここに書いたままで」

目先の一便だけなら、高値で小麦を買うほうが早かったかもしれない。

けれどそれでは、次の便も商会の言い値に従うことになる。

リオが市場へ戻る背中を見送りながら、俺は値札の写しを帳面に挟んだ。

翌日の仕込みを始めた夜、粉屋の臼から焦げた匂いがした。

石が熱を持ち、軸が小さく震えている。

「今止めれば、明朝の粉が足りなくなる」

ハンスが言った。

粉屋は臼の縁に手を当て、首を振った。

「割れたら一週間止まる。今日の注文より、明日も挽けることを選ぶ」

主人は自分で水車を止めた。

俺はベルクへ不足量を伝え、粉の代わりに豆と根菜を増やす手配をした。

店先には販売開始が遅れることを掲示し、急ぐ客には隣村の粉屋を紹介した。


翌朝、修理中の水車の前へ農家が集まった。

手回し臼で挽ける量には限りがあり、商売用の大麦と家族が食べる大麦が同じ列に並ぶ。

「先に払った家から挽くのか」

農家の一人が尋ねると、粉屋は二枚の札を置いた。

「売る分は予約順。家で食べる分は、今日の食事がない家からだ。俺一人で決めるのが嫌なら、ここで話し合ってくれ」

先頭にいた農婦が、自分の札を一つ後ろへ移した。

「うちは昨日の粉がある。隣の婆さんはもうない」

別の農夫も頷き、老人の袋を手回し臼の前へ運んだ。

商会の使いが門の外から見ていたが、誰も彼に値段を尋ねなかった。

リオが教えてくれた値上げの日付と、農家が決めた順番を、俺は別々の紙に残した。

前者は商会のやり方を示す証拠で、後者は今日ここで人々が選んだ約束だった。

谷へ届ける粉はまだ足りない。

それでも、誰か一人を脅せば止まる道ではなくなり始めていた。

粉屋は修理した臼を確かめ、明日の仕込みのために戸を閉めた。

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