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役立たずと追放された俺の保存倉庫は、飢えた世界を救う最後の希望だった  作者: レモンティー


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第十話 最初の配達人たち

「俺も街まで運ぶ」

ハンスが言い出したのは、橋の修理が終わった朝だった。

「母ちゃんの具合が落ち着いた。村にばかり守られているわけにはいかん」

俺は橋を見た。

新しい板が渡され、欄干には補強の縄が張られている。

ただし大型の荷車を通すにはまだ不安がある。

「最初は軽い荷車で試しましょう。積みすぎないで」

「分かってる。俺が直した橋だ」

「だからこそ、最初の一台で壊したくないでしょう」

ハンスは笑った。

村人たちは香草の束、木の匙、修理した桶を荷車に積んだ。

俺の倉庫にも食料と飲み水を入れる。

トトは在庫帳を抱え、出発の人数を確認した。

「タクト、僕も行く」

「道案内を頼む。ただし疲れたらすぐ言うこと」

「うん!」

村の出口にはミリが立っていた。

「パン、買ってきてね」

「粉を買って、村で焼こう」

「そっちの方がいい!」

最初の橋を渡るとき、誰も話さなかった。

車輪が板を踏むたびに軋む。

ハンスは慎重に手綱を引き、荷車は無事に対岸へ渡った。

「通ったぞ!」

トトが叫んだ。

俺は思わず拳を握った。

これまで俺の能力だけが食料を運んでいた。

今日からは村の人間が、村の仕事として運ぶ。

街ではマルタが香草を買い取ってくれた。

木の匙も食堂で使うと言って数本買ってくれた。

「次は毎週同じ日に来られるかい」

「橋が通れれば」

「なら、注文を書いておくよ。急に倍の量を持ってこられても買えないからね」

マルタは紙に数量と価格を書いた。

俺は村へ持ち帰る控えを作った。

パン屋の親父も、ラトナ村の名前を聞いて頷いた。

「息子の嫁から手紙が来た。村でまた窯を使い始めたそうだな」

「まだ小さな窯です」

「それでいい。焼く人がいるなら、粉を回す方法を考えよう」

彼は知り合いの製粉業者を紹介してくれた。

ところが、製粉所の主人は難しい顔をした。

「北方商会から、ラトナへ売るなと言われている」

「理由は?」

「借金がある村だから、代金を回収できないと」

俺はマルタの注文書と、香草の売上記録を見せた。

「代金は現金で払います。今後の取引も、納品ごとに精算します」

主人は帳面を読み、少し考えた。

「現金なら売れる。だが商会と喧嘩する気はない」

「喧嘩をお願いしているわけではありません。普通の取引をお願いします」

小麦粉を買えたのは夕方だった。

俺たちは帰りの荷車に袋を積み、重い分は倉庫へ移した。

購入した品目と量をトトが帳面に書き込む。

「これ、僕が間違えたら大変だね」

「だから二人で確認する。俺も間違えるから」

「大人でも?」

「大人ほど、自分は間違えないと思って失敗することがある」

トトは真剣に頷いた。

帰り道、遠くに雨雲が見えたが、橋は持ちこたえた。

村の広場には人々が集まっていた。

「おかえり!」

ミリが駆け寄ってくる。

俺は倉庫から小麦粉を取り出した。

「約束の粉だ」

ミリは袋を抱きしめた。

「また、パンの匂いがするね」

「明日、みんなで焼こう」

出発の前夜、村長は一つの提案をした。

「配達の決まりを作らんか」

「決まりですか」

「お前がいないと何も分からないままでは困る。荷を誰が受け取り、何を何袋渡したか。村で確認できるようにしたい」

俺は賛成した。

在庫帳には、出発時の数量、到着時の数量、売上、購入費、残金を書く。

二人で確認し、村長と運び手が署名する。

「字が書けない人は?」

ハンスが尋ねた。

「印でもいい。ただし内容を読み上げて、本人に確認してもらいます」

「細かいな」

「食料がなくなったとき、誰かを疑わずに済むようにです」

村長は静かに頷いた。

「飢えていると、人は疑い深くなる。昨日まで隣に住んでいた者を、泥棒だと思うこともある」

俺は次の便を任せられる人の名を書き、帳面を閉じた。

「だから、誰でも確かめられるようにしましょう」


翌朝、出発前に荷を量った。

香草は予定より少なかった。

雨で乾燥が遅れたためだ。

「足りない分を無理に詰めないでください」

俺が言うと、ヨルンが頷いた。

「湿った草を混ぜたら、次から買ってもらえん」

トトは袋の札に数量を書き直した。

「少なくなっちゃった」

「少ないと分かっていることが大事だ。分からないまま売る方が困る」

村長は荷車の車輪を確認し、ハンスは予備の縄を積んだ。

俺はふと、王宮で笑われた日を思い出した。

五百キロの倉庫しか持たない役立たず。

あの日の俺は、何を運べるかしか考えていなかった。

今は、誰が生産し、誰が運び、誰が食べるかを考えている。

その間をつなぐ仕事は、俺一人ではできない。

「出発しよう」

ハンスが手綱を引いた。

荷車が動くと、村人たちが手を振った。

俺は最後に橋を振り返った。

まだ細く、頼りない橋だ。

それでも確かに、村と街を結んでいた。


その晩、村長の家で最初の定期便の計画を立てた。

週に一度、香草と木工品を街へ運び、帰りに穀物と塩を買う。

売上の一部は橋の維持費と種麦の購入費として残す。

配給記録は誰でも見られるようにする。

「これで飢饉は終わりか」

ハンスが尋ねた。

「いいえ。まだ始まったばかりです」

俺は一拍置いて答えた。

「村の収穫が戻るまで、安定して食料を届けなければならない。水も畑も、借金も解決していません」

村長が頷いた。

「それでも、明日のことを話せるようになった」

確かにそうだった。

一週間前、この村の人々は明日の食事を心配していた。

今は来週の配達と、次の収穫について話している。


翌朝、村の共同窯からパンの匂いが広がった。

ミリは焼きたての小さなパンを一つ、俺に差し出した。

「タクトお兄ちゃん、これ、配達のお礼」

「村のみんなで食べなよ」

「みんなの分もあるよ。これはお兄ちゃんの分」

俺はパンを受け取った。

まだ温かかった。

「ありがとう」

一口食べると、少し塩が強かった。

それでも、今まで食べたどんなパンよりうまかった。

そのときハンスが、橋の補修に使った木槌をミリへ渡した。

「これも配達の成果だ。荷車が戻ってきたから、次に壊れた板を直せる」

ミリは重い木槌を両手で受け取り、橋へ続く道を見た。

俺がいなくても、ここで暮らす人たちは明日の仕事を決めている。

胸の奥が熱くなった。

村長が一枚の紙を持ってきた。

「南の谷に、もっと困っている村があるらしい」

そこには、ラトナ村から二日離れた集落の名前が書かれていた。

住民百二十人。

収穫はほぼゼロ。

街道は土砂崩れで閉ざされている。

俺は紙を読み終え、パンを最後まで食べた。

「まず道を調べましょう」

トトが顔を上げた。

「また、食べ物を届けに行くの?」

「ああ。今度は俺一人じゃない」

ハンスが荷車を叩いた。

「俺も行くぞ」

エナが食料の袋を縛り、村長が在庫帳を開いた。

ミリは新しい札に、大きな文字で書いた。

最初の配達係は道を覚えていても、受け取る家の事情を知らなかった。

俺は

「渡した袋の数だけでなく、食べられる人がいるかも確かめて」

と頼んだ。

『南の谷へ』

最初の配達を終えたハンスは、空の荷台に座ったまま橋の板を見た。

「次はもっと重い荷を運ぶ」

俺は返事の代わりに、補強が済むまでの積載量を書き込んだ。

セヴが荷札の村名を読み上げると、初めて御者を務める若者が復唱した。

セヴは頷き、最初の荷車を送り出した。

若者は曲がり角まで何度も荷札を見直していた。

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